令和元年7月勉強会 講演(何偉先生)

関節の病気

中医学で関節痛や筋肉痛などは『痺証』の範疇で考えます。
今月は『補腎活血法による骨痺・骨痿・骨蝕の中医学治療』について広州中医学大学第一付属病院骨傷センター長の何 偉先生の講演会で勉強してきました。

演題にある骨痹・骨痿・骨蝕は耳慣れない言葉ですが、中医学における痺とはつまって通じない事をさすそうで、骨痹は骨の働きがスムーズでなくなる状態、骨痿は骨に力がでない状態、骨蝕は骨が溶ける(壊死)する状態ととらえたら良いと感じます。

現代医学の変形性関節症・痛風・慢性リウマチ・硬直性脊髄炎は骨痹にあたり、骨粗鬆症は骨痿の一つで、骨壊死は骨蝕の一つにあたるそうです。

痛むという事は不通則痛(通じざれば則ち痛む)という言い方をします。
焼き芋など食べ物が胸の辺りに詰まって痛い思いをした経験はありませんか?
スムーズに通っていかないと痛みになることがあります。
血脈・経絡の気血流れもスムーズでないと痛みになります。

私達はいつも自然環境の影響を受けています。
湿気が多くて胃腸の調子が悪いとか、暑さあたりして頭痛がするとか、乾燥で咽がいがいがするとか・・・
この環境によるもので身体の調子を崩しているのが、風・寒・熱・湿・燥・暑の六淫です。

経絡は臓腑間や身体中をつないでいてその中を気血が通っています。
経絡中の気血が充足して流れていれば邪気の入り込むすきがありません。
しかし、疲労や老化や体質虚弱など色々な理由で気血の流れにすきができればそこに六淫の邪気が入り込み流れを阻害します。・・・すると痛みになります。

骨痹においての病因は(病気になる原因)は外邪による経絡の阻閉《外的要因》と過労・老化・虚弱体質《内的要因》です。

風邪をひいた時に節々が痛い・冷えて関節がこわばる・湿気が多くて関節や筋肉が重怠いなどの経験は外邪の影響で、老化や過労など弱っている等は身体の側(内側)の問題があり、尚更外邪の影響もうけるし治りも悪く慢性化しやすいという2つの観点があるという事だと思います。

痺証をおこす外邪は風・湿・寒あるいは風・湿・熱です。
寒か熱かは局部が赤く熱をもって腫れているかどうかで見分けます。
また風・湿・寒(熱)のどの邪気が多いか(強いか)などを見分けることで方剤の運用の仕方も違ってきます。

痛みになるのは通じないからで考えれば瘀血を考慮するのは必須です。
またある一定の年齢になって関節痛になることや関節は骨と関係する事を考えれば、骨を主る腎の弱りが根っこにあると考えられます。

膝痺(膝関節症)に関しても腎虚(腎の弱り)があって風湿寒熱の邪気が誘因となり瘀血閉塞する事を念頭におくと
1骨を丈夫にする(補腎強骨)
2血の流れや経絡の流れを改善する(活血止痛・通絡止痛)
3邪気を追い出す(袪風・散寒・化湿・清熱など)

養生も重要です。
1、運動・・・関節周囲の筋力を増し安定性を上げるのに重要
2、体重のコントロール・・・肥満と膝関節痛との顕著な相関関係がある
3、精神状態の安定・・・心と痛みと関係ある
*中医学では気滞血瘀という言い方もあるが気の巡りが悪いと血の流れも悪くなり瘀血となる
 
次に骨痿についてです。
症状は腰・背中がだるい、下肢に力が入らないなど力不足の症状で骨粗鬆症などもこれに含まれます。
病因と機序は腎精虧虚と瘀血阻絡です。
腎精虧虚は腎虚のうちですが腎精の不足となると更に力のあるもの益精血の品が必要になります。

この場合も腎虚、腎精不足は腎陽虚か腎陰虚かによって違ってきます。

骨痿の予防は元気に年を重ねる為にとても大事です。
中医学の養生にそって飲食に節度があり、栄養をしっかりとり、規則正しく寝起きし、身体をやたらに疲労させず、気候に合わせて生活する
この養生は黄帝内経のはじめにのっています。

骨蝕は大腿骨頭や上腕骨頭等の壊死症についてレントゲンの画像を見せてもらって説明をうけました。
病因は①腎陰不足による虚火が腎精を消耗したり、腎陽不足により腎生髄の機能が低下して骨が養われない②瘀血により脈絡がつまって骨が養われない③酒の飲みすぎにより生じた湿熱が脈絡につまって骨が養えない・・などです。

瘀血の原因が気滞か腎虚か痰瘀の両方かによって治療法も違ってきますが、活血化瘀と行気・補益肝腎・祛痰化湿を組み合わせます。

そういった温存療法で経過観察のレントゲン写真の中に最長22年後というのがあり驚きました。

*大腿骨頭壊死症は何らかの原因によって血流が低下する事によって起き、一定量のステロイド剤の長期内服やアルコールの長期大量摂取なども原因になるそうです。