アトピー性皮膚炎と腎
埼玉中医薬研究会の3月の勉強会は「かゆみに対する補腎薬の店頭応用」という題で高知の佐田義尚先生の講演でした
先生は若い頃アトピー性皮膚炎で苦労されたそうです
特に辛いのは痒みです。
震えるほど痒いとか言いますが、夜も眠れない等 経験しなければわからない辛さだと思います
では中医学的アプローチはどうかというと
痒み・紅斑・痛み・ジュクジュク液がでるなど症状に対する標治
皮膚炎になりやすい体質を改善する(治す力をつける)本治
の2つがあります
標治は痒みや炎症に対する漢方薬や漢方茶、養生食品など組み合わせて使います
炎症を火と考えるなら火の勢いが強いならそれなりに大きな力で対抗しなければ火を抑える事が出来ないのであの手この手が必要になります
また、ただの火でなく湿が絡んでいると更に複雑でしつこい状態です
清熱解毒・清熱涼血・清熱利湿・瀉熱通便など色々な方法を組み合わせてアプローチします
数週間から数ヶ月で改善は見られると思いますが、完治は難しい場合も多いと思います
症状に波があったり、ストレスや気候や環境にも影響されて再発したりもあります
本治(体質の改善)は年単位でかかります
しかも炎症や痒みを抑えるものではないので理解して根気が続ける事が必要です
補腎もその1つです
佐田先生は若い頃 皮膚が赤くはれて熱感も痒みも酷く真冬に冷たい空気に肌を晒しても寒さを感じない程だったそうです
そんな先生が標治法の他に ずっと親からのアドバイスで続けて飲み続けたのが海馬補腎丸だったそうです
*海馬補腎丸がワシントン条約で規制されて今はない漢方薬です
何故それだったのかというと益精で力がつくものが沢山入っている為、とにかく身体に力をつけて病気に対抗するようにという理由からだそうです
実はこういう壮陽の効能もあるものを使うのは躊躇しがちです
何故なら皮膚の痒みは温まると強くなるからです
補腎益精のものは壮陽の働きも持ち陽気を補うから痒みが強くなる事を懸念するからですしかし先生は使い続けてその後中医学を学び現在は沢山のアトピー性皮膚炎の人の相談にのっているわけです
では腎とは何か?という事を考えてみましょう
私達が生まれ成長していき生殖能力が出来子孫を残していくという力は腎にあります
それを『腎は精を蔵し生長・発育・生殖を主る』といいます
腎精の充足が五臓六腑の力と関係します
また陰陽のバランスに対して一番重要なのは腎です
だから腎陰・腎陽を真陰・真陽といいます
陰陽は相対的なもので互いがあって存在しますがそれぞれは交わる事はなく互いに抑制し、自然界で昼から夜からまた昼と繰り返すように長くなったり短くなったりしながら転化していくという特徴があります
私達の身体も陰陽で考えるなら昼働く交感神経は陽・夜休む時に働く副交感神経は陰にあたります
陽は動・陰は静になります
皮膚においては新陳代謝が弱く古い物が残っている状態は陽気が足りない状態ですし、身体の奥に炎症をおこしやすい状態が残っている(火は消したのに奥にくすぶっている火がある)と言う場合は完全に消す陰気が足りないと考えられます
陰陽のバランスは重要です
形のある物質が陰・形のない物質が陽なので精は陰に属します
益精血・壮陽の働きを持つものは陰陽伴に補う事ができるし、なにより身体に力をつける事ができます
但し、補陰中心がよいか補陽中心が良いかを把握しなければなりません
長い目でみたら体質改善にアプローチするのは大切だと感じています
防衛力アップの漢方薬
1月28日 リモートの勉強会がありました
「玉屛風散の特徴と臨床応用」講師は黄煌(コウコウ)教授です
同時通訳で行いました
玉屏風散というより衛益顆粒というほうが知っている方も多い
玉屏風散は黄耆・防風・白朮の3味から成る方剤です
玉屏風散は自汗タイプの哮証(発作的に咽が痰でゴロゴロし・息切れしたり・呼吸が苦しくなったりする症状)・倦怠感があり虚弱で汗が多い人に使うほか・気虚の感冒で汗が多い時に使います
また発汗の処方を使っても治ったように見えてまた繰り返す時も使います
講義の中、古代の感冒の症例で【自汗淋漓】という表現があります
やはり汗は需要ポイントのようです
■玉屏風散の中薬(黄耆・白朮・茯苓)
たった3つの薬味ですが、数が少ない方が力を持った方剤と言われています
黄耆が主薬で固表止汗の働きを使ったものです
黄耆は気虚の私が好きな中薬の1つです
数年前歯茎の腫れと痛みがあり、歯から患部に向かう経路が塞がっていて切開しか方法がないという状態になった事があります
その時、排膿や清熱解毒の漢方を使っていましたが、黄耆の托瘡生肌という働きを利用し切開せずに済んだ事がありました
黄耆は他に補気昇陽・補気摂血・補気行滞・利水消腫・その他補気生血・生津止渇に利用する事もあると中薬学に書いてあります
白朮は健脾益気に使う事が多い中薬ですが、これもまた固表止汗の働きがあります
防風はよく風邪(ふうじゃ)に対する処方に入っています
袪風の働きがある為 荊防敗毒散・川芎茶調散などの感冒の漢方薬や独歩顆粒など痺証の漢方薬につかわれています
玉屏風散では防邪の他 黄耆・白朮の止汗の働きを強めるといわれています
■衛気不足って?
人体における気は『自らの運動・変化を創出する基本的な要素』と中医学の基礎には書かれています
つまり、身体の動的な働きをする形のない物質の事で働きによって4つに分類されています
そのうち外邪の侵入を防衛する気を衛気といいます
衛気は体表を保護し、汗腺の開閉による体温を調節し、内臓を温め皮毛を潤しています
古典に「衛気は分肉を温め皮膚を充たし、腠理を肥し開闔を司る」「黄耆よく三焦を補いて衛を実す」「無汗をよく発し、有汗をよく止め」とあるので衛気不足の症状があれば必ず有汗でなくても良いと私は考えています
衛気の不足(衛表不固)による症状としては風寒や風熱による感冒・アレルギー性鼻炎・蕁麻疹・喘息や風寒湿で悪化する関節炎や筋肉痛なども考えられます
■黄煌教授による玉屛風散
黄煌教授は色々な衛気不足の病に応用していて幾つかの症例をあげて説明した
症例1 喘息型アレルギー性鼻炎・・・喘息発作が治まった後玉屛風散と小青龍湯加石膏
症例2 ランゲルハンス島細胞組織球症の感冒・自汗・・・玉屏風散を含む13種の中薬
症例3 アレルギー性紫斑病・・・玉屏風散+桂枝湯加減
症例4 皮膚亀裂・・・玉屛風散+黄耆桂枝五物湯
症例5 慢性腎炎・・・玉屏風散を含む10種の中薬
症例6 再生不良性貧血・・・玉屏風散+紅棗と附子理中湯を交互に使用後玉屏風散のみ
症例7 多発性骨髄腫・・・玉屛風散+真武湯+五苓散と黄耆粥と黄耆茶で18年間病態安定
*症例はすべて湯液(煎じ)で中薬の量も多く使われています
令和元年12月 中医学勉強会
常見病{癌の予防とケア・・・中医学的考え方} 中医学講師 高橋楊子先生 (証の診方・治し方)など著書多数)
日本において2人に1人は癌になるといわれているそうですが、よくなる事も多くなっているそうです
不治の病というイメージから癌を患いつつも伴に生きていく時代になってきているのかもしれません
お店にも10年前に癌をしましたとか中には30年前に癌を患いましたなどとおっしゃる方がいらっしゃいます
癌とは「遺伝子変異によって細胞が無制限に増殖し続け、元の臓器を離れても増殖続けることができるものを指す」「また隣接の組織へ浸潤し、血液やリンパの流れに乗って遠隔転移して、他の正常組織から栄養を奪って命を脅かす悪性なものである」
遺伝子の変異の原因になるものは以下のようです
1、ウイルスや細菌の感染
2、タバコ・暴飲暴食・焦げたもの・カビの生えたもの・熱すぎるもの・塩漬け
3、慢性疲労・精神的ストレスの蓄積
4、放射線・紫外線など過度の浴びる
5、過労
6、老化
*この事から考えると身体全体の弱り(過労・老化・慢性疲労)などは免疫機能や組織や細胞の力を弱らせる事と関係しますし、ウイルスやたばこ・熱すぎる等は細胞を傷つけることに関係すると思います
中医学は癌を邪気と考え正気を整えることで邪気に勝つ身体づくりを一番に考えます
正気が弱るとは気血両虚・臓腑の虚損・陰陽不和などです
正気を扶助します
邪気は癌毒ともいわれ、性質か熱毒・寒毒・痰湿・瘀血・気滞などがあります
祛邪(邪気を取り除くこと)をします
昔から『邪の集まる所、その気か必ず虚す』
『正気が内にあれば、邪が入りこめない』
などといわれます
よく「冷えは癌になりやすいとききますがそうですか?」などとお客様に質問されることがありますが、冷えも熱もどちらもよくありません
弁証論治として気血両虚に癌毒・気陰両虚に癌毒・陽虚に癌毒
に対する症状と治療の方法や使う方剤などについて
術後の中医学ケア
1、胃がん
ダンピング症候群に注意・・・脾胃が虚損して運化が失調している・・・益気扶正
2、肺がん
呼吸障害など・・・肺気の虚損・肺陰の虚損を考慮
3、大腸がん
消化吸収障害・・・気血の虚損・運化失調
4、肝臓がん
胸脇部の脹痛、消化吸収障害・・・気血虚損・気滞血瘀
5、子宮がん
患部の疼痛・排尿障害・リンパの浮腫・精神症状・・・気血虚損・湿毒残留
*中医学ケアして虚損を補う事により回復もちがってくるはずです
*癌になるとは邪が盛んになって正気は虚した状態です
癌の芽を絶えず正気は抑えています
0.1mmの癌が1cmになるのに10年から20年
1cmから10cmになるのに3~5年
だそうです
それならば正気を扶助し体内環境を整えておきたいものだと感じました