病気と漢方

2020-05-06

感染・発熱・解熱剤

昭和29年生まれの私ですが、実家も薬局でした。
昔は“麻疹は一生の大病”といわれていましたが、2人とも家で治したと言っていました。
烏犀角という薬が麻疹の薬として市販されていたようです
名前からして犀角(さいの角)が入っていたのだと思われます
犀角は優れた熱さましですが今はワシントン条約で禁止されています
その両親がいつも言っていたのははしかに感染した時は
1、風にあたってはいけない
2、強い解熱剤を使うと発疹が外にでず、内側(内臓)が(ウイルスに)やられる
という事でした
私はインフルエンザも含めウイルスの疾患に子供たちがかかった時はそれを守ってきました

子供が小さい頃は病院でインフルエンザに強い解熱剤が使われていましたがインフルエンザウイルス脳症がそのせいだとわかり20年くらい前からボルタレンのよう強い消炎解熱鎮痛剤は使われなくなり、熱も38.5℃以上になったら使うよう指示される事も多いと思います(高熱でひきつけを起こす場合は別ですが・・・)

発熱はインフルエンザウイルスなどが身体に入った時に免疫細胞が活動する事によっていくつかの工程をへて脳から体温を上げる指令がでるそうです
体温が上がるとウイルスの活動がおさえられ、白血球の働きが活発になり免疫機能がたかまるそうです
テルモのホームページに解りやすく書いてあります

https://www.terumo-taion.jp/health/temperature/06.html

新型コロナの場合も人の免疫活動と言う意味では同じではないでしょうか?

そういう事においても感染初期に身体の状態にあわせた漢方薬を使う事は身体の働きをバックアップできると思っています

中医学もオンライン

先日、『新型コロナについて(中国における中医学の対応)』についてオンライン講座を受講しました
新型コロナは湿毒疫と考え、基本的病機は疫毒外侵・肺系受邪・正気虧虚です
つまり、外界から疫病が肺経(鼻・のど・気管支・肺など)に入り、正気(免疫力みたいなもの)も弱まる事により病気になる
中国で清肺排毒湯がよく使われたようです
この漢方薬は日本にはないので幾つかの漢方薬を組み合わせることで代用すると良いとの事でした

中医臨床も新型コロナに関する情報が扱われています
藤田康介先生は上海中医薬大学を卒業・博士課程も修了して医学博士で上海東和クリニック中医科に在籍し、日本の学校でも教鞭をとっておられるそうですが、中国における中医学治療について詳しく書かれています

中国において中医学も導入する割合は省によってちがいがあるそうです
武漢のある湖北省は中医学治療の使用率が低く、当局からの指示で改善されたそうです
一方広東省は当初から中医学治療が行われ『肺炎1号方』が考案され症状の緩和に一定の効果があったとして、各指定医療機関で採用されたそうです

藤田先生のいる上海は西洋医学・中医学の双方の特徴をいかした治療が受けられる恵まれた環境で、新型コロナの第一線に中医学の医療チームが送りこまれたそうです

時期や症状の重さの違いにあわせて注腸の方法なども含め治療指針が作られ、その中に回復期の処方ものっています

更に予防に関しても体質を3つに分け薬膳も含め予防法が示されています
未病先防の中医学ならではだと思います

特に虚弱体質には玉屏風散の加味方がとられています
前に書いたように玉屏風散は風邪をひきやすい人の体質強化の為の処方です

オンライン講座で新型コロナによる血栓の話がでていましたが、その後ブロードウエイの俳優が新型コロナの合併症で足を切断したという衝撃的なニュースが流れました
子供たちにも川崎病のような症状が出ているとの報告もありました

この話を聞いた時、ずっと以前に感冒の講義を聴いたときに葛根湯や桂枝湯などの芍薬は現在は白芍が使われているが、原典では赤芍がつかわれているという事を教わった事を思い出しました
赤芍は桂枝茯苓丸や冠元顆粒などに使われている活血化瘀薬にあたります
その時、風邪などの病気になると白血球活動が活発になるが白血球は大きな血球で病気がなおるが瘀血が生じる、それをみこして風邪の漢方薬に赤芍が使われたのだという話でした
漢方処方の奥深さに感心した事を覚えています

2020-04-04

免疫力のある人って?

東京で新型コロナの感染者数が増え、感染爆発の危機の寸前だといわれています
不要不急の外出を呼び掛けています

免疫力というと何を想像しますか?

プロ野球の選手の感染が臭覚異常から判明し、ワイドショーで身体のがっちりして丈夫な野球選手でも新型コロナに感染してしまうなんて・・と司会者の人が言っていました
身体ががっちりしてスポーツができるタイプの人は免疫力がありそう・・・・

免疫細胞がどうのとかIgA抗体がどうとか白血球がどうとかでなく、身体つきや顔貌や動きで判断する…つまり丈夫そう、力がありそう、エネルギーがありそうだから病気にならなそう・・と感じるわけです
ある意味その判断の仕方は中医学に近いかもしれません
ただ中医学は見た目(望診)だけでなく問診・聞診・切診し四診合算して考えます

中医学で考える免疫力

中医学で身体を邪気から守る力を衛気・病邪と戦う力を正気というのは前回書きました
衛気は外邪に身体に入れまいとする防衛の力ですが、正気は体内において身体を害する異物を排除する力です

中医学の基礎には正気を以下のように定義しています
【正気とは生体の臓腑・経絡・気血の機能を正常に保ち、病邪に抵抗し損傷を回復させる能力を指している】
これは臓腑・経絡・気血が正常なら正気はしっかり病邪にそなえることができるという事、逆に弱い所があれば正気も弱くなるという事がをさしています

病気になるかならないかは正気と邪気の力関係にあり正気が旺盛なら邪気に対する抵抗力が増大し病気にならない(正気は旺盛でないが邪気が弱い場合)
正気>邪気・・・無病
逆に正気が衰退していると病気になる(特に正気が衰弱していなくても邪気が旺盛の場合)
正気<邪気・・・発病
つまり発病は正気と邪気の力関係に起因します(邪正闘争といいます)

風邪に対する免疫力

新型コロナは昔で言えばたちのわるい風邪です
風邪は急性上気道炎で新型コロナは上気道から下って肺炎にまでなります

五臓の中では肺系といわれる肺のグループが関係しています
肺は“一身の気を主る”といい肺が弱ければ正気の弱くなり邪気の入り込みやすくなります
また、深く入り込んでしまうとか、治ってもまた罹患しやすくなります

風寒の邪気をうけると初めは体表部に症状がでます
悪寒(悪風)・くしゃみ・鼻水・頭痛・節々の痛みなどです
風熱の邪気をうけると初めは衛分がやられます
衛気の分布するあたりで鼻・のど・体表などです

更に深く入り込むと表から裏へと移行します
臓は裏ですから肺臓も裏ですから肺炎なら邪気が裏に入ったといえます

肺は外界とつながっている為邪気をうけやすく嬌臓と呼ばれています
まず肺臓が弱ければ邪気をうけやすくなります

「あなたの肺はお元気ですか?」
「普段から風邪をひきやすかったり治りにくかったりしませんか?」
「肺は燥をきらいますが乾燥していないですか?」
「肺は貯痰の器といいますが、湿りすぎていませんか?(痰湿)」
「肺は一身の気を主るといいますが、息切れや疲れやすさはありませんか?」
「脾と肺は母子関係・大腸と肺は臓腑の関係ですが、軟便や下痢などありませんか?」

中医学で肺だけを考えるのでなく五臓の相生相克の関係も視野にいれます
肺は心と相克関係・脾と腎とは相生関係・肝は脾を克し肺に影響する場合もあるし、肝気横逆で直接肺に影響する事もあります

自分の状態を把握しそれにあった漢方薬や漢方茶を常用し良い状態にしておきましょう

日々の養生も言うまでもなく必要です
好き嫌いせず腹八分に五味五色の温かい食事をとり、生活リズムを整え・睡眠もしっかりとり適度に身体を動かすなど元気の基本です

風邪(ふうじゃ)が入るのを阻止する衛気

鼻や咽に衛気が分布していると書きましたが、更に衛気は日中体表を回って風邪(ふうじゃ)の侵入から守っています
衛気虚(衛気が少なく弱い事)になると風の邪気をうけやすくなります

風邪(ふうじゃ)は他の邪気を伴ってくるという性質があります
風が吹くと色々なものを巻き込んで飛んでくるのは想像できると思います
寒を伴えば寒気の感冒
熱を伴えば炎症性の感冒
湿を伴えば胃腸型感冒
風・寒(熱)・湿の邪気が経絡に入り込むと関節や筋肉の痛みやしびれになります

玉屏風散(衛益顆粒)は石(玉)の屏風で風を防ぐという名前の漢方薬があります
少し動くと汗をかきやすい自汗タイプで風邪をひきやすく治りにくい人に良い方剤です
方剤学に『黄耆よく三焦を補いて衛を実す・・・』とあります
黄耆が衛気を益し固表(病邪の入り口の守りを固める)
白朮が健脾して気血を作り出して補充し
防風が風を散らす
それぞれが役目をはたして風邪(ふうじゃ)から身体を守る処方です

古典にみる免疫力

中医学の四大聖典の1つである黄帝内経に正気の働きを保つにはどうしたら良いか書いてあります
『外界の虚邪賊風に注意して回避すべき時は回避する』…新型コロナも人から人に移るわ
けですから外出を自粛するのは邪気に対する回避にあたります
『心がやすらかで静かであるべきで・・・・・。そうすれば真気が調和し、精神もまた内を守ってするへり散じることはない。このようであれば病が襲うというようなことがあろうか、と。このため人々の心は閑かで、欲望は少なく、心境は安定していて、恐れることはありませんでした。肉体を働かせても過度に疲労することはなく、正気はおさまり順調だった。』 (『』内は現代語訳黄帝内経素問からの抜粋)

つまり 正気の力を保つに心が穏やかな事と肉体を過度に疲労させないこと。更に邪気を避けることだと書かれています

2020-03-07

中医学で考える新型コロナ

新型コロナの初期は風邪症状だそうです
昔から風邪は万病の素といいます

中医学ではかぜではなくふうじゃと読みます
風の性質をもった邪気です
私達を取り巻く外界に風・寒・熱(火)・湿・燥・暑の6種類の邪気があり、風邪もその1つです

中医学ではどの邪気が侵入するかによって戦略が違います
身体を寒くする邪気なら温めて身体をバックアップします
また身体や局所が熱いなど、炎症性の熱邪なら冷やしてバックアップします
なにしろ邪気と戦うのは自分ですから寒を冷やし、熱(火)を熱してしまって状況の悪化をまねき戦うどころではなくなってしまいます

“敵を知り己を知らば百戦危うからず”といいますが風邪・寒邪・湿邪・熱邪などの性質はどうでしょう?
風邪(ふうじゃ)は変化が早く、発展しやすく、他の邪気を伴ってくる、上の方を犯しやすいなどです
新型コロナは何の邪気を伴っていると考えられるでしょう?
怠い・肺炎をおこしやすい・吐き気や下痢など胃腸を犯しやすい・しつこい等・・・これらは湿邪の性質です
(怠い・疲れやすいなど気虚(気が足りない)症状ですが、急に気虚になる事は考えにくく湿邪気の入り込みによって重怠くなったと考える方が適当だと思います)
また高熱・炎症性などは熱邪の性質です
また普通の風邪としがって新型コロナが重症化しやすい、つまり人に対して毒性が強いというふうにみます

こうみていくと新型コロナは風邪が湿邪を伴い 更に寒気が酷い時は寒邪・咽喉が腫れる・喉が渇く・熱っぽいなどの時は熱邪を伴って侵入しているといえます

新型コロナとの闘いに備える中医学の考え方

テレビで医師が言っています
「コロナウイルスに有効な薬はありません」
「薬は対症療法です」
「自分の免疫で治すしかありません」

紀元前の昔には『正気存内、邪不可干(正気内に存すれば、邪は干渉する事ができない)』
正気は免疫力の事です
つまり現代のような抗生物質や抗ウイルス薬のない時代には病気は病邪と正気の戦いで、正気が勝れば疾病が起きず邪気が勝れば疾病が生じると考えたのです

力関係の強弱は量や質の問題もあります
正気の量以上に邪気が多ければ多勢に無勢で負けてしまいますし、強力な邪気なら正気が充実していても互角か苦しい戦いになるかもしれません
マスク・手洗い・消毒は邪気の量を減らすのに役立ちます

中医学で清熱解毒薬といわれるものは邪気の量や邪気の力を減弱するのに役立つと思います
でなければ長い歴史の中で細菌性やウイルス性疾患に使われ続けてくることはなかったのではないでしょうか
因みに板藍根は風邪予防によく使われていますが、中薬学に以下のように書かれています
板藍根は苦寒で下降し、清熱解毒の用薬であり、瘟疫熱病の高熱頭痛・大頭瘟(おたふく風邪)・咽喉腫痛・爛喉丹痧(猩紅熱)など頭面部の熱毒に適している

正気は邪気に対抗する力ですから子供や年配者・他に病気のある人や食生活の不節制・生活リズムの乱れなどで不足します

正気は生体の臓腑・経絡・気血の機能を正常に保ち病邪に抵抗し損傷を回復させる能力(中医学の基礎より)
つまり正気が力をもつ為には日頃から臓腑の弱い所は補い、経絡や血脈の流れが悪ければ通じさせ、気血の不足があれば補い、陰陽のバランスをとる事が大切です
また内生した邪気の瘀血や痰湿を除くようにしましょう

ところで邪気の侵入口は鼻や咽喉で肺衛といわれる部分です
衛気が衛兵のように邪気の侵入から身体を守るってくれています
▶まずは入り口から侵入させない事・・・衛気を高める(益気固表の働きのある漢方薬)
      ⇒黄耆・衛益顆粒 など
▶邪気の量や強さの減弱・・・マスク・うがい・手洗い・清熱解毒の働きのあるもの
      ⇒板藍根・金銀花・連翹・馬歯莧 他

症状がでたら中医学の方法

風邪は早めが大事です
初期に対する漢方薬の使い方はいつもと変わりありません
風寒型(青い風邪)・・・ゾクゾク寒気がする→辛温解表(温かくする漢方薬で風寒の邪気を追い出す
風熱型(赤い風邪)・・・喉の腫れ・口喝・熱っぽい→辛涼解表(熱をさまして発散・清熱解毒)
風湿型(黄色い風邪)・・・身体が重怠い・むかつき、下痢気味などの胃腸症状

新型コロナは中医学的には風寒湿あるいは風熱湿型です
また毒性がつよいので清熱解毒の働きのあるものも必ず加えて下さい

また咳に関しては風寒の時は水っぽい痰を伴う事が多く・風熱の時はむせるような強い咳で痰は出しにくいか黄色い事が多くみられます

*2004年9月発行の中医臨床に『広州を襲ったSARSの記録』という記事が特集になっています
中西医結合(西洋医学+中医学)でのアプローチの記録がかかれています
中医学の治療方針が初期・中期・後期・回復期にわけ 弁証・治法・処方が表にまとめられています
早期は湿熱遏阻肺衛と表寒裏熱挟湿に分け更に熱邪が偏重する場合となっています
その中に私達もよく知る銀翹散や麻杏甘石湯も書かれていました

« 次の記事へ 前の記事へ »