病気と漢方

2006-04-01

 「帰脾湯は精神病の薬なんですか?」こういう話はどこからでてくるのかビックリします。中医内科学のなかに何度も登場するこの漢方薬はどんな働きなのでしょう?

帰脾湯は補益剤(身体を補い益する漢方薬)です。
効能は
①気を益し、血を補う(益気補血)
②脾を健やかにし、心を養う(健脾養心)です。

 この2つの働きは色々な症状において重要になってきます。血症(出血傾向)・心悸・不眠・鬱証・眩暈(めまい)・内傷発熱(熱の出る原因が身体の方にある時の発熱の事)・虚労(慢性的な衰弱傾向…虚弱体質)などです。明日からこの事をわかりやすく書いていきたいと思います。

■生理不順で帰脾湯を飲むの巻
 「更年期のせいか生理が遅れがちなんです。しかも、だらだらつづきます。」
 「量や色はどうですか?」
 「多いし、以前より色も薄く水っぽい感じです。」
 「生理痛はどうですか?」
 「すごく痛いというわけではないですが重く下に落ちるような痛みがあります。」
 「お疲れのようですが・・・」
 「いろいろあって考え込んでしまうことも多く、疲れやすくなってます。」
 「そう言う状態ならちょっとしたことにドキっとしたりし易いでしょう?」
 「そうそう。気が弱くなってるかも。だから今回もすごく心配になっちゃって・・・」
 「では帰脾湯を飲んでみてください。」

■めまいに帰脾湯の巻
 「この頃、めまいがしてこまります。疲れる酷くなります。」
 「食欲は以前と比べてどうですか?」
 「普通に食事をしていますが、お腹がすいた感じではしないです。」
 「お疲れのご様子ですが、眠りの方はどうですか?」
 「疲れているのですぐ寝てしまいますが、熟睡していないのか朝になっても疲れがとれていない感じです。」
 「爪や唇が白っぽくつやがないですし、気血の不足がみられます。帰脾湯を服用しましょう。」

■くりかえす微熱に帰脾湯の巻
 「ここ2~3ヶ月微熱かつづいています。病院で検査したのですが原因がわかりませんでした。」
 「熱はどのくらいですか?」
 「平熱は36.3℃くらいですが、疲れたりして、おかしいなと思うと36.9℃~37.3℃くらいになっています。」
 「睡眠の方はどうですか?」
 「時々、明け方目が覚めるると起きる時間が気になって眠れない事があります。」
 「動悸やめまいはないですか?」
 「動悸といえるかわかりませんが、いやな事あるとドキドキしているのに気が付く事があります。それから頭がボーっとしたり、目がチカチカするような感じがすることがあります。」
 「この症状は血虚発熱にあたります。少し時間がかかると思いますが、帰脾湯を飲んでみてください。」

 3人治したい症状はちがいますが、中医学の見方からすると同じです。3人とも顔にはりと艶がなく、舌の色は普通より白っぽく、ふちに歯型がついています。また、胃腸の働きは良い方ではなく、いろいろ考えてしまうタイプです。疲れ易く、疲れると症状が悪くなるのも共通しています。気血が不足していて・脾や心が弱い状態です。

一人目は脾の『統血を主る』という働きが特に失調
二人目は脾の『昇清』という働きが特に失調
三人目は心血の不足や脾の生血(血を作る働き)の不足により陰血が不足し陽をおさめる事ができなくなっておきたもの・・・少し難しいですが陰陽のバランスの崩れと言う事です。

 だから気血を補い・脾を健やかにし心を養う働きの帰脾錠なんです。帰脾錠の血の補い方は『補血』でなく『益気生血』です。また、心と脾は母子関係、心がしっかりしてくればその子である脾もしっかりします。

 「異病同治・同病異治」と言う言葉がありますが、漢方薬を選ぶ本質がこの言葉の中にあります。一般の薬は頭痛には鎮痛剤・咳に鎮咳剤・痰がからめば去痰剤というように薬理作用で使います。漢方薬は外因・内因を考え中医学的なバランスシートが作る事が大事です。まず、病名や治したい症状を知り、病気のもっている性質・どう発展するかを理解します。その上で、寒熱・虚実・表裏・陰陽を考え、気血津液を考え、五臓を考えて自己の身体がどうなっているかを知る。これができてはじめて方剤選びができるし、いい結果につなげられるのだと思います。

 『敵を知り己を知らば百戦危うからず』この言葉は父のブログ“うえんてら”にでてきますが、中医学まさにこれ!

2006-03-01

パンダ⑥ 漢方の処方は方剤、漢方薬に使われる動植物や鉱物は中薬といいます。方剤は古くは紀元前3世紀末に書かれたとおもわれる『五十二病方』(まだまだしっかりした理論体系していませんが)というのがあります。中薬の始まりは原始時代からで“神農は百草を嘗め、一日にして七十毒にあう”とかかれていますが、古代の人々が薬・毒を身をもって探し求めていったということです。約紀元前200年頃『神農本草経』が体系を為した書物となったといわれています。その後の歴史の中で実践をくりかえし沢山の書物がかかれ、賞賛や批判をうけて淘汰れ、現代につながってきているのです。

 実践をもとに出来たこの学問は、私達が健康を守る為の先人達からのプレゼントです。身体は一つの世界です。そこに日々くりひろげられる巧妙な仕組みに驚かされます。人もまた自然の中に生きる1個体です。深い観察力と実践から生まれたこの学問は人体を一つの統一した世界とみています。気血津液の充足と正常な運行は健康の条件です。五臓六腑の働きにより生みだされ・貯蔵され・運行されています。

 春夏秋冬の季節と五臓の関係などを考えに入れながら四季に応じた養生をしていくことも大切です。年に1回は健康診断を受ける人も多いと思います。病気の早期発見・早期治療が目的です。中医学をよく知る人はもう一つ健康チェックの方法があります。それが中医診断学を使った方法です。

 病名を診断するものではありませんが気血津液の不足や停滞をみたり、五臓六腑の虚実をみたり、寒熱・燥湿・陰陽などの身体の平衡をみるものです。未病先防(病気にならないうちに防ごう)。『上工は未病を治す』…本当にいい医者は病気になってから治療するのでなく、病気になる前に手をうつ事ができる。また、病気を治す場合も他の臓器にひろがるのを予測して手をうつ事が出きるという意味です。これが中医学の一番大きな意義だと思います。

 自分の調子がわかるのは自分でしよう!
毎日にの健康チェック!
変だと思ったら早めにご相談下さい。

 養生の中で『食べる』『寝る』は最重要課題です。食事が食べれずに栄養不良なら気血津液をつくりだす事ができません。飽食は脾胃を損傷し、痰湿を生じ、気血津液の運行をさまたげます。

 味は『酸・苦・甘・辛・鹹』の五味があり、五臓と関係しています。酸と肝・苦と心・甘と脾・辛と肺・鹹と腎でそれぞれ五臓の虚を補う事も出きれば、摂り過ぎると実してしまういます。また実した臓の相克関係にある臓は虚してしまいます。例えば酸味は肝に働くので摂り過ぎると神経の緊張が強くなったり、脾臓が虚してお腹がごろごろいったり、軟便になったり、食欲不振になったりします。

 五味は役割があるので1つの味だけ好んで摂り過ぎるのはよくありません。また、弱っている臓腑にあわせて摂ることも大切です。簡単にいえば、偏食せず、嗜好にかたよらず、なんでも食べましょうということです。

 養生にもう一つ難しいけど、とても大事なことがあります。それは心の安定です。『志閑而少欲、心安而不懼』心が閑で欲が少なく、心が安定しているので懼れがないこう言った事が紀元前に書かれた書物のなかに書かれています。さらに、その中に“食べ物をおいしく頂き、着る物をここちよく思って着、習わしを楽しみ、地位の高低をうらやむことなく、素朴で誠実。正しくない嗜好に耳目をゆりうごかさず、淫らな邪説に心情をまどわされることがない。これは養生の道理にかなっているので百歳を越えても元気でいられる”とかかれています。

 ストレス社会の現代ですが、心のスイッチを少しいれかえて生活を見直してみると“元気で長生き”に何歩でも近づいていけるとおもいます。身体のバランスを崩したり、病気になった時、漢方薬を飲めばよいというだけでは片手落ちの療法なのです。

 ホノミ漢方がこんな言葉を書いています。

「治そうと願うなら、治す努力をしてみませんか?」

 病気は薬が治してくれるものでなく自分が治そうとしなければいけません。漢方薬はその一端を担うものです。

 明日は中国からきた先生の糖尿病についての講演を聴きにいきます。発病を「鬱・熱・虚・損」の4段階に捉えたり、絡病に対する活血化瘀通絡の中薬の応用などで楽しみです。

2006-03-01

パンダ② 唐突ですが、数分間息が吸えないと死んでしまうのは何故でしょう?この事は人の身体にとって空気(酸素)がいかに重用かがわかります。これを運んでいるのが血脈です。梗塞をおこした部分の周囲は酸素が受け取ることが出来ずに壊死してしまいます。
それが心臓や脳など身体の中枢でおきると大変な事になります。

 血の巡りは全身の問題です。漢方では“瘀血”のうちに入ります。瘀血を生じ易い疾患としては糖尿病・脂質代謝異常・高尿酸血症・高血圧など考えられます。しかし、そればかりではありません。血が巡ると言う事はどう言う事なのかを考えてみたいと思います。

 心臓は血液を運ぶポンプの役割をしています。中医学では『心は血脈を主る』いい、全身の血の巡りの中心です。心のエネルギーは心気といい、心気が充足していれば身体全体が栄養されるわけです。もし疲労でエネルギー不足の状態で心気が不足すれば、血脈の流れも悪くなります。これは気虚により瘀血が生じるという状態です。この時まだ血の巡りが悪い血滞の状態で瘀血に発展していなければ、補気薬を使います。原因は疲労から気虚になった状態ですからまず気を補います。しかし疲労が重なって過労になると、もうすでに瘀血の状態があると考える方が良いと思います。悪くすると循環器に影響が及んで過労死になる場合も考えられます。そのときは補気薬+活血化瘀薬を使い身体を守る事をします。これは未病先防です。

 気が不足すると巡りが悪くなると言う事がわかりましたが、血が不足するとどうでしょう?臓腑や身体の各器官の滋養する血が足りないわけですから、当然隅々まで行き渡らない事になります。また『血は気の母』『気は血の帥』というように血を素にして気が作られ、気と言うエネルギーがあって血もつくられるという事がいえるので、気も不足傾向になります。

 足りない為に流れないと言う事になりますし、各細胞や臓腑も充分養われないと言う事です。という事は心血も不足してくると、心も養われないため、動悸・不眠・不安などの症状も現れます。血の不足によって、血の流れが停滞する時は補血薬で血を補えば改善されます。しかし、長引いて瘀血になった時は補血薬+活血化瘀薬で改善します。

 血が巡る為に気(エネルギー)がいるわけですが、気虚(エネルギー不足)については書きましたが、気滞(エネルギーの滞り)という事もあります。ストレスにより肝のエネルギーのコントロールをする働き(疏泄機能)が失調すると気の停滞が起きます。ちょうど信号機が故障して、それぞれの統制がとれずに渋滞してしまうのと同じ状態です。

 気滞は瘀血に必ず発展するので『気滞血瘀』という言葉があるくらいです。血管運動にかかわる筋肉は平滑筋で自律神経に支配されています。自分の意志で動かせるわけではありません。ですから、ストレスの影響をうけやすい事がわかります。

 もう一つ、血液自体が不用物でドロドロしやすいという事があります。血糖値が高い、コレステロールや中性脂肪が高い、尿酸値が高いなどは汚れた川の流れが悪くなるのと同じです。特に曲がり角や太い流れから細い流れに行く所は不用物が溜まり易いのは川の流れを想像しても明らかです。その証拠に糖尿病の合併症は目や腎臓や抹消など微小循環の部分でおきています。中医学(漢方)では瘀血になりますが、瘀血は万病の元というのは頷けます。

 もう一つ潤い不足(陰虚)で血の巡りが悪くなると言う事があります。この陰虚というのは陰陽の陰が不足していることですが、解りにくいと思います。陰が不足するわけですから、バランス的に身体は陽に傾きやすくなります。これによってでる熱エネルギーは虚の熱(虚熱)です。虚熱によって身体は乾燥しやすくなります。

 また人において陰は形で物質面・陽は気でエネルギー面です。ですから形態的な部分が不足しているのですから、血の水分を含めた全体量も不足するばかりでなく、血管の柔軟性もなくなってきている状態です。こういった状態で血の巡りが悪い場合は滋陰・生津という方法が中心になります。例えば、麦味参顆粒や炙甘草湯や天王補心丹などがそれにあたります。瘀血があれば活血化瘀薬を加えます。沙棘はもともとはチベット医学で使われてたものだそうですが「潤おす」「巡らす」の両方の働きがあります。

 糖尿病も脂質代謝異常も高血圧も最終的には循環器や微小循環に影響するから大変なわけで、『血の巡り』の病気といって過言でないくらいです。例えば血糖値が高いということは・・・合併症が心配です。この合併症のほとんどは高血糖状態つづくことで循環障害をおこす為におきます。糖尿病網膜症は網膜の毛細血管が障害をうけ、出血がおきます。

 これが進行し血流が滞り、網膜の細胞の酸素不足を補うかのように(弱くて破れ易い)新生血管ができます。これの出血によって目の見えにおおきな障害をもたらす事もありますし、新生血管が緑内障をひきおこす事もあります。また、糖尿病性腎症も腎臓の糸球体という毛細血管の集まった所の循環障害が起き、少しづつ腎不全へとすすんでいきます。

 これだけ見ても、身体中を『血が巡っている』ということの重要性がわかります。血の巡りの悪さは病気という形で見えないうちに進行する事も多いものです。私達は年齢と伴に少し弱い部分がでてきます。それを補いながら巡らしてあげる事は健康の源です。

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