便秘は大腸の病変です。『大腸は糟粕の伝化を主る』といい、小腸から送られてきた糟粕の水分は再吸収し糞便を作り、肛門から排泄します。これを大腸の伝導変化といい、円滑に営まれる為に胃・肺・腎の協力が必要です。まず、『胃は降濁を主る』といって濁陰(糟)を下に送って行きます。
胃の働きが失調すると便の排泄もうまくいきません。肺は大腸と臓腑の関係です。肺は粛降作用で肺気を下の降ろします。肺気というエネルギーは大腸の伝導に必要です。肺の働きが失調しても便の排出は影響されます。
腎もまた大腸の伝導作用に関係しています。『腎はニ陰に開竅する』『腎は二便を主る』といいます。腎陰虚の為、腸の潤いがなくなると腸燥便秘になります。また、腎陽虚で身体全体が冷え込んでエネルギー不足になると大腸の伝導のエネルギーもなくなり便秘になります。便秘は身体の他の部分の影響をうけているので、便秘の状態が身体の状態を教えてくれる指標になる事も多いです。
便の状態からも便秘の原因を考える事ができます。
便が乾燥して硬い時は大腸に潤いがないかな?とか
熱をもっているので乾いてしまったかな?
と考えます。便が硬くないのに便秘なら、
押し出す力が不足してるかな?
と考えたり。出口でかたまってしまっている時もやっぱり押し出せず出口にたまっちゃったんだと考えれます。ガスばかりでたり、出たい感じなのにあまり出ないときはエネルギーのかかり方が一定していない(気滞)かな?と考えたりします。
中医学の教科書といわれる『中医内科学』で便秘は熱秘・気秘・虚秘・冷秘の4種類に分けられています。このうち虚秘はエネルギー不足(気虚)と滋潤不足(血虚)に分けられます。気虚の便秘について考えてみます。
気虚の便秘は肺の弱さ影響しています。肺と大腸は臓腑、表裏の関係だからです。肺気不足のため大腸の伝導作用が失調して便秘になっています。治療の主体は肺に力をつけることです。肺と脾は相生の関係にあるので、肺と脾を補益します。黄耆を中心とした方剤を主につかいます。肺気不足で働けない大腸に「これでもかっ」と下剤をつかって腸を蠕動させてると、ますます大腸がくたびれてしまい、下剤の量が増えてしまいます。
滋潤作用を持つ血の不足により腸管内が乾燥し易くなって便秘するのが『血虚』の便秘です。血は陰に属しますが、陰分の全体の不足(陰虚)により更に乾燥による便秘はひどくなります。また、痩せる、口が乾く、空咳などの陰虚症状も伴う事も多く見られます。滋潤不足ですから便は固くなります。補血薬の当帰や補肝腎・益精血の何首烏は潤腸通便作用(腸を潤し便を通じさせる)があります。腸管の健康を考えるなら滋潤するものが主で下剤は従にすべきです。
冷えが酷く代謝が落ち込んでなる便秘は冷秘といいます。陽気が不足し、大腸の伝導が無力になるため便が出口に溜まって排出困難になります。治法は温陽通便(陽気を温めながら便を通じさせる)で、済川煎をつかいます。これは腎を温め陽気を補い腸を潤して通便する肉じゅ蓉が主薬で養血・潤腸通便の当帰がこれを補助します。芒硝、大黄などの下剤は使ってはいけないとなっていますが、冷えの厳しい人でも便秘に下剤を使う事が多いと思います。下剤を使ったとしても、必ず海馬補腎丸、補血丸、腎気丸のような温腎薬を主とするべきだと思います。でなければ、ますます冷えて代謝が落ち込んでしまいます。
便秘一つとっても全身を考える事は健康に通じます。下剤は便を出すという薬効はあるので便を出すという目的は達せられるかもしれない。でもそれでいいのでしょうか?
2006年8月ブログ暮らしの中の中医学より
人は見かけによらぬものとか、見た目で判断しちゃいけないとかいいますが、中医学(漢方)はというといって見た目を判断の材料にします。これを望診といいます。望診の中でも重要なのは舌診といって舌の状態で判断する事です。舌は食道・胃・・・・というように内臓につながっている、つまり身体の中のような外のような部分です。私達が見れる身体の内側ともいえます。だから身体の中の事を現しています。健康のバロメーターですので毎朝鏡にむかってベーして見て下さい。見方を今週は書いて行きます。
舌の図表が置いてあるので、舌を出してどこがわるいですか?と聞かれる方がいますが、舌で何の病気かわかるわけではありません。図表の上に書いてあるように寒熱・血・水の状態をみます。また正気の盛衰を判断したり、病気の深さを見ます。寒熱というのは病気の性質ですが、燥湿も見れます。また、病状がよくなってきているかなどを推測できます。毎朝舌の健康チェックしています。それがくせになっていてテレビでベーっと舌を出した人を見て「ずいぶん血虚だね」などと話したりします。
舌の色・大きさ・形・硬さ・湿ってる状態などを見たり、舌苔の有無、付き方・厚さ・色・湿ってるか乾いてるかなどを見ます。舌の色が紅ければ熱です。実熱も虚熱もあります。
次は実熱の例です。子供が高校生の時インフルエンザが流行していて、「すごく咽が痛い、熱っぽい」といって学校から帰ってきました。熱はまだ微熱程度ですが舌を見るとイチゴ舌(舌の先全体が赤くぶつぶつ状態)でした。外感風熱で熱毒が強いと思ったので天津感冒片と板藍茶を飲ませました。2時間後くらいには39度をこえました。時間をみながらその組み合わせで余分に飲ませました。
戦う相手の勢力に対抗しなければ勝てません。夜遅く40度になったので解熱剤を一回のませました。翌日は同じようにして漢方薬を飲ませました。お昼頃咳がでだしたので天津感冒片・喘咳散(麻杏甘石湯加減)・板藍茶にしました。夕方まだ39度近くありましたが、舌をみると赤いぶつぶつがなくなってきていたので、もう大丈夫と思いました。それからどんどん熱が下がりました。舌の紅は熱を現す色です。赤いぶつぶつは熱が盛んな印です。
四月頃 娘が
「胃が痛い」
「ベーは?」
「ベー」
「やっぱり冷えだ。びしょびしょした舌(滑苔)になってよ。それに胃が痛いっていってかがみこんでたでしょ。寒邪は収引といって縮めるからだよ。」
実は「アイスを2回食べた。」
「やっぱり。暑くもないのに!安中散を飲んでおけばいいと思うよ」
「ラジャー!」
湿潤のつよい時は冷えです。冷えが酷いと苔は真っ白で舌が青っぽくなります。冷えて循環が悪くなっている印です。プールとかで寒くて唇が紫になるのと同じです。寒邪は凝滞の性質もあり、血行を停滞させます。
舌が痛い、舌がしみる、口内炎ができやすい。これらは心火によることが多いようです。舌の先からは心や肺の情報をみることができます。風邪で熱っぽかったり、喘息だったりして舌先が赤い時は肺熱、眠りがうまくいってなかったり、いろいろくよくよして落着かなかったりの時は心火です。
舌の両辺が赤い時は肝火です。心肝の火がつよけいとイライラ、おこりっぽい、おちつかない、不眠など神経の興奮の症状となって現れます。治療はこの火を抑えなくてはいけません。実火は瀉火します。水や氷をかけ冷やしてけすようなやりかたです。では虚火は?そもそも虚火ってなに?陰陽のバランスの崩れによる火の事、つまり身体の弱りによって出る炎症や熱や興奮などをいいます。
2006年8月ブログ暮らしの中の中医学より
心は五行の火の臓で、その季は「夏」です。夏は心の働きが活発になる季節です。心は『血脈を主る』『神志を主る』ので血行がよくなり、人々は物事に対して明るく積極的で、海に山にと遊ぶ計画をたてたりします。でも、心の弱い人はオーバーヒートしやすく、少し動くとハーハー・ドキドキして、心の液である汗は出過ぎて体力も弱まり、眠りも浅くなります。暑い環境下で身体に熱がこもりひきおこされるのが熱中症です。汗は体温調節をしていますが、大量の汗で脱水をひきおこし体温調節ができず熱が体内にこもってしまいます。梅雨明け、急激に暑くなった時は、身体も暑さに対して調整する準備ができていないので要注意です。必ずイオン飲料か塩を少し溶かした水をちょくちょく飲むように心がけましょう。
中医学てきには身体が脱水ぎみでヘトヘトな状態を気も陰も不足している状態(気陰両虚)といいます。身体の中の水は津液です。暑熱による発汗が過多になったため傷津(中医学では津液が失われ、役目を果たせない状態になっているのをこう呼びます)がおこり、津液とともに気も外泄(外に出ていってしまう事)するので気津両傷が発生する。そうすると倦怠無力・息切れ・咽の渇き・口の乾燥(粘った感じがする時もあります。)等の症状があらわれます。簡単にいうと身体がヘトヘトで咽が渇ききってる状態です。気津両傷を治す漢方薬が生脈散(麦味参顆粒)です。働きは益気生津(気を益し、津を生じさせる)斂陰止汗(ひきしめて汗のかき過ぎを抑える)というものです。漢方ってよく考えられてますよね。漢方は病気でなく身体の方を治すものです。
「渇して水を飲まんと欲し、口舌乾燥するは 白虎加人参湯これを主る」
身体が熱く、咽の渇きが冷たい水を沢山飲み、疲労感も強い時は白虎加人参湯がいいです。これの働きは、清熱生津・益気(熱をさまして、津液を生じ、気をます)です。熱証が強いときはこちらを服用するといいです。人の身体は正直です。内側に熱があれば冷たい物を欲し、冷えがあれば温かいものを欲します。これは寒熱をみる指標になります。
中医学で心は「しんぞう」と「こころ」です。
これは「血脈を主る」と「神を主る」という言葉で表されています。夏、こころもオーバーヒートすると眠りにも障害がでてきます。疲れているに眠れない、眠りが浅い、そのため昼間も眠いなど。夏ばてで眠りがわるくなっている時は麦味参に酸棗仁湯錠・帰脾錠・補心丹・牛黄清心丸などを状態に合わせて使ってみてください。そういえば英語もハートは2つの意味がありますね。精神的なショックでドキドキしたり、こころとしんぞうのつながりの深さは誰でも感じる事なのかもしれません。
「夏に脳梗塞が多い」と言う事がいわれています。中医学的に暑邪は心陰・心気を損ない易く、又「心は血脈を主る」ので血脈も停滞し易いのです。つまり中医理論から言えば、養生しなければ“起こるべくして起こる”ということになります。暑邪の事をよく知り・個々の持てる力に応じて滋陰・生津・益気・健脾・化痰・化湿・利水・安神、さらに血脈が滞れば活血などの働きのものを食し・漢方を服用するなどして心を助けましょう。
汗は心の液というけれど、汗は邪気を追い出したり、鬱滞した気を出したりするのでいい汗かく事は大事です。汗して仕事や運動をしたあとシャワーをあびて、気持いいと感じるのがいい汗です。でも心の弱い人は注意しましょう。食欲がなく、水っぽいものばかり食べたり飲んだりして、身体に暑さがこもってクーラーをガンガンかけずにいられない。また身体がだるく疲れがとれない。こんな症状は放っておかないで相談してください。
2006年7月ブログ暮らしの中の中医学より