陰陽といえば陰陽師が不思議な力をもっていたのを思い出してなんだか現実離れした感じをうける方もいらっしゃると思います。漢方において陰陽のバランスは大切です。陰陽は相対的なもので昼は陽、夜は陰ですが、昼のうちでも日向は陽日陰は陰というように陽の内にも陰が、陰の内にも陽があります。自然の世界で昼と夜は順番に巡ってきます。もしこのバランスが崩れ毎日夜だったら、或いは毎日昼だったらどうなるでしょう。人もまた自然が生み出したものです。だから自然の法則は人にも当てはまります。これを天人相応といいます。人の身体においても陰陽のバランスは重要です。陰陽はどんな事をさすのでしょう?
陽 陰
活動的 落着き、静か
上昇 下降
外在的 内在的
温熱 寒冷
明るい 暗い
機能面 物質面
機能亢進 機能減退
身体で考えると 気は陽 血精津液は陰に属します。
身体の物質的基盤は陰
身体の機能面は陽
陰が無くては陽はなく陽がなくては陰作られません。また陰陽の性格から考えると交感神経と副交感神経のや甲状腺機能の亢進と低下などが陰陽のバランスと通じる面があります。私達の身体のバランスをとるということは、この陰陽のバランスということになります。
生まれつき陽性の体質、或いは陰性の体質という事がありますから調整していくことが大事だと思います。過労、ストレス、生活リズムの乱れ、偏食、歳、長い病気などによって物質的基盤(血・精・津液)などが不足してくると陰陽の平衡がくずれ 病気または病気予備軍または不定愁訴となって現れます。
昼と夜、春夏秋冬のように、陰と陽は転化していきます。真夜中は陰が極まった時 正午は陽が極まったときです。夜明けは陰から陽に転化し夕方には陽から陰に転化します。人の身体においてもこの自然のリズムにあわせて行く事が健康生活にとって重要です。夜明けから除々に陽気(活動性)が充実して昼ごろピークになり、夕方には衰退して内に潜伏します。夕方からは陰が深まり真夜中にピークになります。陰は抑制的、静止的ですから夜中はしっかり寝ることが陰を育てる事になります。
テレビも一晩中やってるし24時間営業のお店も開いていて昼夜の過ごし方に違いがないような社会になってきていますが、人の身体の陰陽のバランスを崩していることは確かです。神経や心の弱りなど、陰陽の失調と密接なつながりがあると思います。陰と陽のバランスは生きているかぎり重要です。というより陰陽がある程度のバランスがとれていることで生きているといえます。もし、陰陽の相対的なバランスがすっかり崩れてしまい、孤陰(陰だけ)、独陽(陽だけ)の状態になれば生命を維持する事は難しくなります。
実際的には先に書いたように気血精津液や臓腑との関係の中で運用されていきます。漢方は病気を治すというより身体を治すといっているのは、漢方薬を単に病名に対する臨床データ―で使わず、先人の知恵を使って身体のバランスがとれるように運用するべきだと思っているからです。
2006年11月ブログ暮らしの中の中医学より
沢山の人が血液さらさらは大事と思ってるので、「瘀血」については理解しやすいですね。とても大事な事なのに解かりにくい事が沢山あります。例えば、傷陰(陰をきずつける)とか。肝腎不足とか。「陰て傷つくものなの?肝腎が不足するって何?第一肝・腎て肝臓や腎臓のことじゃないの?私、肝臓も腎臓も悪くないけど・・・」肝や腎のことは前にも書いてありますが身体のバランスをとる上で重要な臓です。難病といわれるものは肝腎不足からくる場合が多いようにみえます。だから肝腎を大切にしてほしいと思います。
肝腎の不足すると自律神経やホルモンなど、身体の調節機構に異常を生じます。なぜなら肝は血を蔵し、疏泄をつかさどり、腎は精を蔵し、生長・発育・生殖を主るからです。肝は疏泄機能によって血液の流れや胃腸の蠕動などをコントロールしていて、自律神経の働きと近いものがあります。腎の生長・発育・生殖を主る働きもまた身体のコントロールに重要です。
精は生命維持にかかせない重要な物質でこれをもとに身体の成長や発育過程の変化や生殖機能にかかわっているということにより、ホルモンなど身体の調節にかかせない物質と腎は関係が深いことがわかります。ですから肝腎は身体を平衡に重要な役割を果たしています。
肝陽上亢と言う症状があります。肝の陽気が制御できない状態になって疏泄機能が失調してしまい落着かず怒りっぽくなります。また、肝陽は上逆して上の方を乱すので頭痛・めまい・耳鳴り・目の充血などの症状をおこします。この症状の前段階は肝腎陰虚です。その前として肝腎の不足があります。 肝腎陰虚(身体の物質的消耗)になると心神(心臓や大脳の働き)が滋養できず不眠・動悸・健忘の症状がでたり、筋骨が滋養できずに足腰がだるいなどの症状がでたりします。
肝陽上亢は怒りっぽい性格やストレスから出ている症状ではありません。肝陰・腎陰が損傷しているため陰が陽を抑えられなくなっている為におきている症状です。こういった思考過程は中医学(漢方)独特のもので、しかも実際に人の身体は中医理論の通りに進みます。経験の賜物だと思います。
更年期障害も基に肝腎不足があります。女性は血から衰え、男性は精から衰えるといいます。肝は血を蔵し、腎は精を蔵します。肝腎の蔵の中は不足してきているので円滑な営みができずにいろいろな症状がでてきます。また肝は疏泄の働きで気の巡りをコントロールしていますし、腎に蓄えられた精は他臓に分け与えられていますので、もともと弱い部分に影響がでてきます。だから症状を改善する漢方薬(標治)と不足した肝腎を補う補肝腎の漢方薬(本治)がひつようです。
「ポリープがあります。」とか「漿液性の良性腫瘍があります。」といわれたらすごく心配して治療しようと思います。「内臓肥満です。」「中性脂肪値やコレステロール値が高い」といわれたら少し心配して改善のしようとすると思います。でも痰湿がありますとか痰湿ができやすいタイプといわれてどうにかしようと思う人は少ないと思います。
心配する結果が出てきた原因は痰湿です。痰湿の出きる原因は1つではなく治法もいろいろですが気血津液の円滑な巡りに滞が生じた結果である事は明らかです。人体という一つの世界を中医学を通してみると、大事なことがみえてくると思います。
2006年10月ブログ暮らしの中の中医学より
板藍根はウイルス性疾患にかかせない中薬です。板藍根のお茶の板藍茶はご愛飲頂いている方も多いと思います。風邪がはやりだすと学校でも煎じてのんだり、うがいさせたりして予防するそうです。パンダのにも飲ませているというのを聞いた事があります。
数年前の中医臨床に、命門会さくら堂治療院の先生の記事がのっています。北京に滞在した時インフルエンザが大流行に出くわしたがひたすら板藍根をのんだり、うがいしたりしてまぬがれた。という事が書かれていました。
板藍根はホソバタイセイの根です。味は苦く性は寒です。つまり熱を冷ますということです。中医学的な効能は『清熱解毒・涼血利咽』つまり熱を清し(冷まし)邪毒を解く(抗菌や抗ウイルスなどの病原は毒と考えます。)また血の熱を涼し(さまし)咽を治します。病気が身体のなかに入り込んで血に及びと出血し易い状態になります。充血や鮮やかに紅い皮疹など血熱を視野にいれます。
■中国の昔話です。(チャイナビューより)
むかしある所に大きなお屋敷があり柴刈りをする若者がいました。柴刈りに行っていた若者は山にある馬藍寺の板藍和尚に白湯を頂きお礼に水汲みを手伝っていました。ある時お屋敷の娘と恋におちました。しかし娘は役人に嫁がされることになっていました。二人を助けたい和尚は「これは死んでも生き返る薬草だよ」といって渡しました。娘はこれを飲んだので、親は死んだと思い埋葬しました。若者は棺から担ぎだし山寺につれていくと娘は息をふきかえしました。村を逃れる二人に、和尚は「これは疫病に効く薬草だよ」といって手渡しました。二人はこの薬草を売って生計を建て幸せに暮らしました。数年後和尚に会いに行くともう亡くなっていましたので、和尚を忍んでこの薬草を板藍根と呼ぶ事にしました。
中医学で板藍根はウイルス性疾患にかかせない中薬です。1988年に中国でA型肝炎が大流行した時予防と治療に大活躍で、上海市や中国全土の薬局から板藍根が消えたという話が今も語りつがれていると植物生薬物語に陳先生が書いています。数年前のインフルエンザの大流行の時も、サースの流行の時も、板藍根は品不足になりました。ウイルス性疾患だからといって板藍根だけでいいわけではありませんが、症状に対応する漢方薬に加えていくとよりいい結果がえられると思います。
前に書いた中国でインフルエンザが大流行した時、北京中医医院では病院内での感染を防ぐ為専門のスペースをもうけ、症状の型にあわせて予防及び初期患者に対する方剤をくみたててだしたそうです。その方剤は『防感合剤』といってその中に板藍根が30g入っています。清熱解毒・宣肺止咳(熱をさまし、毒(菌やウイルスや毒素)に対抗し、肺の宣発粛降の働きを改善して咳をとめる処方に板藍根を組みあわせた形になっています。我が家でも板藍茶はよく飲んでいますが、特にこれから先の季節はかかせません。
2006年10月ブログ暮らしの中の中医学