病気の原因は外因と内因があります。外因の代表が六淫といわれる外邪の侵襲です。六淫は風・寒・暑・湿・燥・火(熱)の6つです。その他、伝染性が強く流行しやすく急速で重篤なものを疫癘というようです。インフルエンザもこれに入ると思いますが、これも六淫の性質を持っていると思います。インフルエンザは風と熱の性質が強いようです。
邪気が侵入してくれば病気です。迎え撃つ身体の方はしっかりしていて隙がなければ邪気が入ってきません。菌やウイルスが邪気というのは解りやすいと思います。風邪(ふうじゃ)とか、湿邪(しつじゃ)とか、燥邪(そうじゃ)とかになってくると解りにくくなってきます。漢方では外的影響をそういいます。邪気は隙があればはいってきます。虚に乗じて・・・などといったりします。虚とは弱い、足りないと言う意味です。
衛気の不足は防衛力の不足です。
正気の不足は戦う力の不足です。
これは疲労・寝不足・暴飲暴食・偏食・不規則な生活・運動不足・ストレスなど様々な原因によって不足します。
周りは外邪でいっぱい!季節によって、邪気に違いがあります。梅雨の時期は湿邪が中心です。湿邪から身を守るには脾の働きを高めておくことです。・・・と『梅雨と漢方』にかきました。季節によって、環境によって適した養生が大切です。外邪がウイルスや菌の感染しやすい状況をつくるならこちらも予防の対策をたてなくてはなりません。板藍茶・五行草茶なども活用しましょう。
衛気を補うのには衛益顆粒(玉屏風散)をつかいます。正気を高めるために気・血・津液や五臓のバランスをとっておきましょう。体内の邪は瘀血・痰湿で、正気を弱らせるので改善の努力をしましょう。
2007年7月ブログ暮らしの中の中医学より
糖尿病という病気は消渇と考えられてきました。消渇の消は痩せる、渇は口渇のことをいいます。のどが渇いてよく飲むがすぐ尿となってでてしまうのが特徴です。
消渇証は病気の時期と位置によって上消・中消・下消にわけられています。
上消 初期 肺 多飲
中消 中期 脾胃 多食
下消 後期 腎 多尿
こういった考え方は基本的な概念としてありますが検査の技術が進んだ現代においては糖尿病を中医学的に考えるとどういう病気だろう?とか合併症を防ぐためにはどうしたらいいのだろう?ということが考えられてきました。すると血糖が増える血が交通渋滞をおこしやすいということが重要な問題だと考えるようになってきました。血糖値の高い血液は飲食物から得た水穀の精微が使いきれずに残って『痰や瘀』をなします。『痰瘀』が血脈や経脈の道を塞ぐと身体を養うことができず、さらの「痰瘀」を身体に残すことになります。これが合併症をまねきます。
以前書いたように人の健康に気血津液の正常な流れが不可欠です。血脈の閉塞は西洋医学的には血流障害(もう少し複雑ですが)ということがいえると思います。糖尿病の3大合併症は網膜証、腎症、神経障害です。また糖尿病と併発しやすい病気に心筋梗塞・脳卒中・閉塞性動脈硬化症・高脂血症・感染症・壊疽・・・こういった合併症の一番の原因は痰お阻塞により気血の運行が阻まれた事です。
よくインシュリンをうつことになったら大変とおっしゃる方がいらっしゃいます。血糖値をコントロールできていないことの方が大変なのです。高血糖による痰湿と瘀血が経絡を閉塞することが大変なのです。もし血管がびっくりするほど柔軟で血の滞りがおきなければ、多少血糖値が高くても合併症はおこってきません。
2月3月4月は張中医学講師に『最近の中医学における糖尿病治療』について講義していただいていますが以下のような話がありました。「若年性糖尿病はインシュリンが分泌されないので幼い頃からインシュリンをうってコントロールします。この人は糖尿病という病気があるのみで他は元気で長生きです。しかし生活習慣病として現れた糖尿病は不養生からきている為、高血圧、高脂血、高尿酸血症などをともないやすいのだそうです。つまり飲食の不摂生などにより、血糖値の上昇となって表れる前に痰湿、悪血があったといえます。中医学においては体内の病理副産物の痰・瘀を除く事を考えなくてはなりません」糖尿病においても血糖値と言うことだけに着目するのでなく、痰・瘀を改善して血脈、経脈、絡脈の気血の流れを考えるのも大切だと思います。
糖尿病と瘀血に関する研究が中医学の季刊誌『中医臨床』にのっているので、今週はそれについて書こうと思います。1978年に祝先生という方が『糖尿病が瘀血と言うことに着目して活血化瘀を主とした治療にすぐれた効果がある』ということを言ってから瘀血に対する治療の研究が糖尿病研究の中心になっていったそうです。
では瘀血証の研究とはどんな事をするのでしょう?
①血液レオロジー
②微小循環
③血小板機能
④血管内皮機能
⑤その他分子生物学的観点から
と書かれています。
また糖尿病のおける瘀血の症状を3つに分類しています。
①舌が暗い紫色だったり、黒ずんだところや暗い所があったり、舌の裏側の静脈がふくれていたりする。
②網膜の微小循環に血管瘤ができる、出血するなど
③頭痛や胸の痛み、手足のしびれや麻痺など
私たちがよく知っている 瘀血の3大症状は痛む・しこる・黒ずむですが、上記①②③の症状は「なるほど瘀血だな」ということがわかると思います。中医学で瘀血証とされた人の血液のレオロジー(物質の性質みたいなもの)を調べてみると血液粘度・血漿粘度・血球沈降速度・血管壁の圧力・微小血管の緊張度に異常がみられるそうです。また赤血球や白血球の変形能、赤血球の凝集性、赤血球や血小板の表面電位などに異常がみられるそうです。
こういったことが血流速度を低下させたり、微小血栓を形成したりに関係していると書かれています。一口の瘀血といっても単純に血液サラサラと言う言葉で言いきれない面があることがわかります。血液レオロジーの異常の他に内皮細胞の異常や血小板の活性化について書かれています。
内皮細胞は以下の働きをしているとされています。
1.血管の緊張度
2.血液の流れの調節
3.血液の凝固に関する調整
4.血液が血管の壁に接着するのを調整する
ところが長く高血糖にさらされていると内皮細胞が損傷して働きがうまくいかなくなります。する血液の凝固因子が増大して血栓ができやすい状態になります。これも瘀血です。また私たちが怪我をした時、血がとまるように血小板が活性化し、凝集します。ところが糖尿病の人は血管内で活性化して凝集しやすくなっている・・・という事だそうです。これも瘀血です。
糖に曝らされた状態は瘀血とのつながりが強いため、『活血化瘀』の漢方は不可欠になります。特に経絡の詰まった経閉、絡閉という状態は乾血といわれ、破血、破瘀の働きの中薬も必要になります。水蛭はそう言う状態によく使われる動物薬です。不通則痛で痛みやしびれが出る時には必要です。しかし血脈は宗気という気の推動力で巡っています。それには心の駆血力も必要です。また、血自体がどろどろとした痰湿の状態でもいけません。総合的に判断する必要があります。
2007年7月ブログ暮らしの中の中医学より
漢方の中心は養生です。
其知道者、法置於陰陽、
和於術数、飲食有節、
起居有常、不妄作労
養生の道をわきまえている人は、陰陽の道理に従い 飲食に節制があり、規則正しい生活を行い むやみに働きすぎることもない・・・・・・・そうすると百歳を超え長寿をまっとうできる。そう黄帝内経に書いてあります。
陰陽の道理とはなんでしょう?宇宙のはじまりはなにもなく、ただ莫大なエネルギーのみが存在したと息子の化学の本に書いてありました。宇宙ができ、地球ができはじめは生物はいなかった世界から生命が生まれてきました。人も同じようにしてこの地球上にうまれてきた。条件は同じです。自然の法則は人にもあてはまる『天人相応』という考えです。陰と陽があるのは自然ことです。陰と陽は相対的なものです。
陽 陰
上 下
天 地
日 月
昼 夜
晴 曇
火 水・・・火は心・水は腎
熱 寒
動 静
昇 降
外 内・・・腑は外・臓は内
明 暗
気 形
この陰陽の性質から身体を考えると動的で行きすぎる状態、例えば甲状腺機能亢進症のように代謝が行きすぎになっている状態は『陽に傾いている』といえます。また逆に甲状腺機能低下症のように代謝が落ち込んでいる状態は『陰に傾いている』といえます。
陰と陽は相対的なものなのです。例えば昼は陽ですが、昼でも日陰と日向があります。すると日陰は昼という陽の中にある陰という事になります。世の中陰ばかり陽ばかりではなりたたなくなってしまいます。朝、日が昇ると伴に陽が益しきます。昼頃陽は極まってだんだん弱まり、夕方陰 にバトンタッチします。真夜中に陰は極まってまた朝に向かうくり返しです。季節も陰から陽に、陽から陰に変化します。
暑い季節ですが昼暑くても、夜があるから多少息抜きになります。昼ばかりだったらどうなるか・・・と想像しただけでぞっとします。陰よ陽は互いに制約しあっています。だからバランスが大切です。夏という陽の時期にも、夜という陰があります。陰と陽は相対的な関係ですから、どちらか一方ということはありえません。表があり、裏がある。上があり下がある。明るさがあり暗さがある。というように、陰陽は互いに依存しあっているのを『陰陽互根』といいます。
エネルギーは物質を作る原動力で、物質からエネルギーは生まれます。古書の中に「陰陽の平衡が整えているうちに病気が自然に癒えてくるものだ」と書いてあります。陰虚とか陽虚とかいわれても解りにくいと思いますので、来週は身体の陰陽について書きたいと思います。
人もこの自然界からできてきたので、人の身体の陰陽は重要です。身体のリズムにも陰陽があって、それは自然の陰陽と連動しています。昼は活動し夜は休む。当たり前なようですが、現代社会では難しいこと・・・でも陰陽の平衡に重要です。陽気が高まっている昼に活動しに陽気を育て、陰が極まる夜中に身体を休ませ陰を育むことは養生の基本です。
体質的に陰陽のどちらかに傾いている時があります。
■陽に傾いているタイプは
暑がりで、食欲旺盛で活発、体温は高めで顔は紅くなりやすく冷たいものをこのみます。
闘争心、競争心がおおせいで頑張りすぎてしまうことも多く、尿が黄色くなったり、便秘になりやすいなど陽の性質がでます。
■陰に傾いているタイプは
寒がりで、食は細めで静か、低体温で顔色も青白く温かいものを好みます。
疲れやすく、思考して行動に移せなかったりし、尿は透明で、お腹はゆるくなりやすいなど陰の性質がでます。
陽は機能面・陰は物質面です。
例えば
人の身体の中に血液がながれています。
血液は物質で陰です。
流れているというには機能で陽です。
生きているということは物質があって機能しているということです。
漢方でいうと気は陽に属し、血・精・津液は陰に属します。陰陽の平衡は身体にとっても重要ですが、老化や病気によってアンバランスになります。
陽が不足すると機能面(エネルギー)がたりなくなるわけですから新陳代謝・身体の機能も落ちて、浮腫みやすかったり、肥り易かったり、冷えやすくなり、気力も低下します。陰の不足は物質的な基盤がへりです。陰の不足すると相対的に陽の方が多くなります。このように消耗によって生じた熱エネルギーは虚火とよばれます。代謝は亢進し痩せてくるし、手足の火照り、寝汗など虚熱の症状がでます。
「陰陽は 天地の道 万物の剛紀 変化の父母 神明の府なり」・・・難しいですが、陰陽は自然の法則の基本だと言う事です。
「治病必求於本」・・・病気を治すには、必ず病気の本質(陰陽)に立ち返って考えなさい。という事です。逆をいえば陰陽の調和(平衡)がとれれば病気が癒えるともいえます。
私たちは病名や検査の数値の事は気にしますが、身体の陰陽の調和(平衡)などということは考えない事が多いと思います。古書には陰陽の道理をわきまえない人は強弱は考えても、調和することを考えないとあります。道理をわきまえるというのは身体の本質を知って、四季の変化や自然の変化に応じて養生していくという。この養生の同一線上に漢方薬があります。漢方薬は『何の病気に効く』ではなく『調和の為に身体をどうしたい』というふうに使うものです。
2007年7月ブログ暮らしの中の中医学より