春は五臓の肝の季節です。陽射しも春めいて明るく、木の芽もふくらみ、梅がさいて、さくらのつぼみもふくらんできています。なんだか厚い服を脱いで心も身体も軽くなり、ウキウキして、自然の中で思いっきり身体を動かして遊びたくなります。・・・というのは自然の変化を自然にうけとめた姿です。
自然界の陽気が育つように、体内の陽気も増えてきます。陽気は生命エネルギーです。この陽気が出てくるのを自然に受けとめ、楽しみながら身体を動かして発散する(多少汗ばむくらい身体を動かす)のが春の過ごし方です。春は心も身体も縛り付けてはいけません。出てきた陽気が発散できずに体内でフラストレーションをおこします。そうすると『肝の疏泄機能』が失調して精神的にくるしくなったり、めまい・動悸・不安定血圧など自律神経と関わった症状がでたり、胃腸症状がでたりします。春はのんびり、のびのび!楽しんで(遊んで)汗をかこう!
昔から『木の芽時』といって、木が芽吹いてくる時期に心のバランスが崩れやすい事を知っている方も多いと思います。人においても陰陽はバランスよくなくてはならず、平衡の崩れは心にも影響します。肝の疏泄機能は人の身体を動かし維持するエネルギーをコントロールする機能ですから、肝の陰陽バランスは心の働きに大きく影響します。
3月の中医臨床に江部洋一郎先生が春の花粉症は陰虚内熱陽亢化風(陰が不足した為虚熱による内熱状態で陽気が亢進して風がおきた状態)が多いと書いておられます。花粉症に限らず体調の崩れは身体の物質的な不足(陰の不足)により陽気の亢進が抑えられないために心が落ち着かずイライラしたり、鬱滞してしまったり、時に風が木の葉をゆらすようにめまい・動悸・ふるえ・ひきつりなどもおきます。肝血・肝陰を補うを基本として疏肝・理気・養心安神・清肝火などの方法で心と体調を整えます。
この春、心のバランスの崩れに漢方茶も利用しましょう。気温の変化するこの状況に、『シベリア人参茶』が身体をバックアップしてくれます。シベリア人参茶は環境ストレスがかかった時に飲むと良いお茶だからです。2001年3月の中医臨床に『益気健脾・補腎安神』の働きがあると書かれています。心のバランスの崩れのみならず、身体がついていけずフラストレーションをおこしやすい方にもいいお茶です。また、「どうも気鬱になって何もやる気がでない。」「気力がわかない」という方には香ロゼアのバラの花の香りが元気を出させてくれます。
2008年3月ブログ暮らしの中の中医学より
一番とりあげたくないテーマです。生活習慣がわるかったからというわけでもなく、遺伝的な側面や環境因子も加わって突然変異的な部分もあると思っているからです。ですから 養生していけばこの病気にはなりません。・・・という事も断言できないと思うからです。しかし、癌になりにくくすると言う事はありだとおもいます。
中医学では正気の虚+(瘀血・痰湿)の状態に熱毒が加わった事によって発症すると考えられています。つまり、免疫力が弱った状態で、血行不良やうっ血などの瘀血があり、更に代謝副産物の痰湿のある所へ、インフルエンザなどの外邪の熱毒 、またはストレスによって(肝鬱化火)の状態や陰虚火旺・血熱など内面からの熱毒が加わった為になるという考えです。
故張瓏英先生は著書の中で『陰虚が酷くなり虚陽がきわまって、陰陽転化し偽りの陰(=癌細胞)が生じる』という考えを述べておられます。漢方と西洋医学とどっちがいいですか?両方の良いところを合わせた方が良い決まっています。三国志の時代の名医華佗は麻沸散をつくって麻酔をかけた状態にして病巣を取り出したとあります。もし現代に華佗がいたら抗がん剤も使ったと思います。これは漢方薬でいえば毒のある薬といえます。毒で毒を制すというやり方です。
しかし、西洋医学との違いは必ず身体全体を見て、正気の虚が進まないよう考慮することです。邪を攻撃する去邪の物は正気を消耗するからです。扶正と去邪の割合は人によって変えなければなりません。もし正気の落込みがひどければ、去邪はおこなわず,充分扶正だけをする事も考えられます。正気は身体がもっている治癒力であり生命力ですから、とっても大事なんです。
中医学(漢方)と西洋医学が力を出し合って病気を診ることを『中西医結合』といいます。2002年6月号発行の中医臨床で日本人の留学生の方が上海中医薬大学付属龍華病院の腫瘍科を研修した時の事につい書いています。『この病院のすぐ近くに西洋医学で腫瘍を治療する大きな病院があり、患者さんは両方の病院を交互にうまく使い分けている様だ。またこの病院でも、西洋医学の検査、抗がん剤の投与なども行っている。統計では95%の人が両方を併用、中薬治療も正規の治療法として認められている。
ほとんどの人が上手に両方使っているんですね。ここの教授に次のように言われました。
有瘤体必虚・・・腫瘤があれば身体は必ず虚す
有虚首健脾・・・虚があれば健脾を治療の柱にする』
・・・と これは以下の中医理論と共通しています。「有胃気則生 無胃気則死」
胃の気が有ればすなわち生き胃の気が無ければすなわち死す
いかに人の生命にとって消化器の状態が重用かを現しています。
留学生の人は『そこで、党参・黄耆・白朮・茯苓(四君子湯)を研究し、この4つの生薬の組み合わせが有効というデーターを出し、これを方剤の組み立ての基本としている』・・・と書いています。ここでも扶正去邪の割合についてふれています。『身体がとても弱った状態であれば扶正を強化する。また扶正と去邪の両方の性質をもつ生薬も少なくない。また、この生薬が抗がん効果があるから・・・とかいうのは補助的な基準にすぎない。いかに弁証するかが要だ』と書いてあります。ピンポインとで病気をみる西洋医学に対し、中医学(漢方)は全体観を持つので扶正は得意といえます。
西洋医学で様子をみましょう。・・・と言う時にも漢方的には様子を見ている場合でない。積極的の行う事が有るわけです。正気を補う為に何をするかは個々人でちがいます。健脾・補腎・補血(養肝)・補気・・・など状態に応じて使い分けます。大切な事は生きている。・・・ということです。中医学でいえば、命門の火が消えてないと言う事です。少なくとも治療によってこの火を衰弱させるような事があってはなりません。
華佗は医管に「病気の根が深いので、手術をして取り除くしかないが、病死の時期と天寿は一緒なので延命にならない」と告げたが、医管は手術し苦痛を取り除いたそうです。
■華佗の事が書いてある鍼灸治療院さんのホームページです。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ken-hari/60kadaden.htm
生きている限りは苦痛が無い状態ですごしたいと思うのが普通ですよね。だからこそ癌に限らず病気と向き合う時、病巣だけにこだわるのでなく、自分の身体全体の声を聞く事が大切だと思います。
2008年3月ブログ中医学の話より
漢方医学(中医学)は西洋医学と全く異なった理論体系をもっています。病気を診断するというより、人間を診断するという所から違います。その人間の状況や状態をどうみるかによって方剤が違ってきます。どうみるか?どう方剤を使いまわすのか?それによって効き目が全然違うのが漢方です。
三国志の中に出てくる曹操の頭痛は華佗にしか治せませんでした。それは魔法とは違います。漢方は沢山の書物と理解と応用の世界です。つまり華佗は多くの知識と応用力を身につけた名医だったと言う事です。チャングムみたい!と思う人もいると思いますが・・・
それにひきかえ西洋医学の鎮痛剤は飲めば効きます。西洋医学の薬は対象療法は得意です。漢方は頭痛が何故おきているのかを考える事からはじめます。
中医学では
外邪から発生する風寒・風熱・風湿と原因が内にある肝陽・腎虚・血虚・痰濁・瘀血
の7つに分類しています。
この事を把握していれば本筋から逸脱する事はないし、服用しているうちに症状は軽くなるのですが、実際は更に複雑です。
例えば胃炎や胃潰瘍を考えてみます。西洋医学的には胃の粘膜を保護する薬や胃酸の分泌を抑える薬で胃酸による胃粘膜の侵食を防ぐ薬が使われます。現在の状態に合わせて潰瘍が酷ければ、胃酸分泌の抑制作用の強いものを使うなどします。この分泌抑制の薬ができてから、ほとんどの潰瘍が手術をしないでなおせるようになったのですからすごい事だと思います。しかし治った後も再発しないように何年も飲みつづけている人も多いようです。
漢方の場合は視点が違います。中医学の名医の症例に十二指腸潰瘍を黄耆建中湯加減で治したものがあります。黄耆建中湯は中に膠飴という飴がつかわれているやさしい処方で、こんな方剤で潰瘍を治療できるのかと不思議な程です。この患者さんは何年も前から潰瘍をわずらっていて名医が見た時は痛みが酷く腰や背中まで痛みがありました。
生冷の食品で悪化・・・冷えがある証拠
温めたり、さすったりすると楽・・・冷えがあるし虚症
脱力感や息切れ・・・気虚
などの症状や望診や脈診からこの方剤にたどりついたわけです。
この方剤は中医学の教科書の胃痛を7種類に分類した中の脾胃虚寒に使う代表方剤になっています。例えば花粉症にグァバがいいとか、甜茶がいいとかいうのは、西洋医学的手法で一定の効果があるとされているということで、漢方療法というわけではありません。身体を見て、五臓や気血津液の状態、また花粉症の症状の出方から六淫の邪気を推測したりして、弁証した上に方剤を決めるのが漢方のやり方です。
エフェドリンは交感神経を刺激し、気管支を広げるので、以前には喘息によく使われてましたが、これは麻黄という植物の成分です。漢方も発作期はこの麻黄の入った方剤が多く使われています。しかし、麻黄だけを単味で使う事はありません。中医学の教科書では喘息にあたるものは哮証・喘証です。哮証は痰の音がするもので、喘証は呼吸困難を主とします。この場合でも寒熱・痰の状態・一身の『気を主る肺』の気の運行状態などによって方剤の選び方は違っています。エフェドリンの薬効のみに着目して使うわけでは決してありません。
漢方は身体全体を見るものですから病気と診断された人だけが飲むものではありません。未病先防ですから、漢方の理論は病気になるのを防ぐ為に多いに利用できます。例えばみなさんがよくご存知の『瘀血』です。全身または局所において血液の運行に支障があるという事を現しています。
瘀血の3大症状は『痛む・しこる・黒ずむ』です。特に舌はよく現しています。黒ずんでいたり、紫っぽかったり、血管が黒ずんで見えたりと言う事があれば活血化瘀薬を服用することが、身体を守る事になります。特に循環器系の瘀血は心配です。西洋医学では検査で血栓や動脈硬化を知る事ができますが、普段元気な人は瘀血があっても気がつかずに大変な状況になってしまう事もあります。
中医診断学(漢方の身体をみる方法)は私達の体のシグナルの読み取り方が詳しく示してくれています。先人が残してくれたこの宝を、健康生活に役立てなくては損すると思います。
漢方(中医学)が西洋医学より優れていると言ってるわけではありません。現代はどちらの恩恵もこうむる事ができるわけですから上手に使っていくのが良いと思います。漢方は人全体をよく把握した学問ですから人の生死についてもつきつめて考えています。昔の書物にはいろいろケースにおいて、人はこうなれば生き、こうなれば死ぬという事が沢山書かれています。
チャングムこんな話がでてきます。お妃さまは子供を授かるのを望んでいましたが、身体が弱かった為、チャングムの処方で紫河車を服用していました。時をへて懐妊しますが、チャングムは出産すると命を落とすのでやめるよう進言します。でもお妃様は子供を生む事希望し、出産後亡くなってしまいました。漢方(中医学)の理解が深く広いチャングムだからこそ、命の火(命門)が衰弱している事がわかるのです。
また『老中医の研究室』の中に腫瘍の話が出てきます。一人は頸部の腫瘍で柔らかく、表面がなめらかでつやがあり咽の動きにつれて移動する。老中医は「中薬を30~40剤飲めば消えますよ。」といいました。もう一人は耳の下の腫瘍で、硬く固定して動かない。老中医は「中薬の効果は期待できないから、摘出手術を受けた方がいいですよ。」・・・手術をしてみると腫瘍の中心部は悪性化していた・・・と書かれています。この老中医だから見極める事ができるので誰でもそうはいきません。
テレビで『魔法の手」を持つ外科医を見て素晴らしいと思いましたが、漢方(中医学)においては過去の沢山の書物から適切に理論を引き出してこれる人が名医といえるので、『魔法の引きだし』だと思います
2008年2月ブログ暮らしの中の中医学