痛み・・・といっても1つでないのが漢方医学です。ですから
「どんなふうに痛むのですか?」
と必ず聞かれます。例えば
「足が痛むのですが?」
「強い痛みですか?」
「がまんできない痛みというわけではないのですが重くだるい痛みです。」
「重だるく痛むのは湿が関係しています。」
他にどんな痛みがあるでしょう?西洋医学の痛み止めは鎮痛作用の多くは他に消炎や解熱の働きをもっています。強さの差はあるものの痛みの種類によっての使い分けはありません。漢方は症状や体質にあわせて初めて効果が現れるわけですから、痛み方は重要な指標です。
脹痛・・・脹る痛みです。
頭が脹って痛む
お腹が脹って痛む
胸が脹って痛む
脇が脹って痛む
など脹る痛みはすべて、気滞が関係しています。心も気・エネルギーも気 実体のない空気みたいなもので停滞し溜まれば膨れる症状がでます。
刺痛・・・チクチク刺されるような痛みはオケツの事が多いと考えられます。
しかも同じ場所が痛むならますます血行障害の可能性が高いといえます。中医学で瘀血の痛みは刺痛・固定痛だからです。
絞痛・・・絞る痛みですから相当の痛みです。邪気が気血の流れを阻害し停滞している時におきます。
例えば 胸に絞痛がある時に寒邪が気血の動きを堅めて停滞させている状態で辛く温めるもので陽気を通じさせ、寒を散らして胸を楽にする働きの方剤をつかいます。瘀血と寒邪の凝滞はどちらも流れが停滞している状態ですが、瘀血は血液ドロドロやうっ血や血管が動脈硬化で細くなっているなどの事をいいますが、寒邪凝滞は寒邪で凍結したようなイメージです。瘀血の方が経過は長い感じです。ですから基にオケツの存在もあるかもしれませんが、凍っちゃったような酷い状態ですから温めて解凍しなければなりません。
灼痛・冷痛という痛みがあります。灼痛は熱い痛みで、痛みは酷く、焼けるような痛みです。冷痛は冷えた痛みで、やはり強い痛む事が多く温めると楽になります。例えば関節痛の時に赤く腫れて熱をもっていれば灼痛で冷やして熱をとる方剤を使います。逆にお風呂に入った後など楽になるような痛みは温めて寒邪を散らすような方剤をつかいます。
灼痛と冷痛では逆の療法です。西洋医学の痛み止めと違ってここを間違えると逆効果になります。ちなみに消炎鎮痛剤は灼痛に対しての方が効きがいいです。これも消炎鎮痛剤の効かない痛みだと思いますが『隠痛』というのがあります。
隠れた痛み・・・つまり強い痛みではなく、しくしくといつまでも痛む痛みの事です。
これは虚証の痛みで気血が不足している為に痛んでいます。よく痛む所をさすっている方がいらっしゃいますが虚証の痛みです。不足により痛むなら補わなければ軽減してきません。また、これも隠痛に入るのかもしれませんが下垂感を伴う痛みがあります。「ぬけるような痛み」と表現される方もいらっしゃいますが生理痛や下腹部の痛み、排便時の痛みなどにあります。これは中気(脾気)の不足により気の昇清作用(下垂しないように定位置にとどめておく働き)の弱まりによるものです。
他にも潤いがない為に痛む事があります。皮膚や粘膜の潤い不足・身体の潤い不足により刺激を直接うける事によっておきる痛みです。例えば胃の潤い不足(胃陰虚)は胃壁の保護力の不足です。胃酸の侵食をうけやすくなります。肺の潤い不足(肺陰虚)は外界の刺激を直接うけやすくなります。
・・・鼻や喉など空気の入り口も肺のグループです・・・
腸壁の潤いが不足すれば便の通りが悪くなり、左下腹部が痛む事もあります。肌に潤いがなくカサカサ状態ならちょっと醤油がついても痛がゆくなったりします。また乾燥がすすめば亀裂も生じて痛みがでます。潤いは保護力といえます。身体ばかりでなく心や神経にも潤いが大切です。
2009年4月ブログ暮らしの中の中医学より
COPDってなあに?
慢性閉塞性肺疾患とも言うのよ。
肺気腫や慢性気管支炎で呼吸困難があるものだそうよ。
じゃあ 苦しいね。
肺に空気が充分入らないから息苦しいし、酷くなると酸素の吸入も必要になるし、心臓にも影響するのよ。
ぼくは少し喘息あるけど大丈夫?
気管支喘息とCOPDは別です。
肺気腫や慢性気管支炎の大多数がCOPDにあたります。
またCOPDの多くは喫煙者だそうです。
逆にいえば喫煙者の五人に一人がCOPDになるというから、禁煙は大事です。特に肺気腫や慢性気管支炎の診断をうけたり、息苦しさが出たりする人は禁煙すべきです。
慢性気管支炎は気道に浮腫が生じ狭くなり息苦しくなるし、肺気腫は肺胞壁が破壊されて息苦しくなるわけですがこの事を漢方的に考えるとどうでしょう?『痰を伴った咳がほとんど毎日、少なくとも年間3ヶ月以上続き、それが2年以上にわたるもの』というのが慢性気管支炎の定義だそうです。
中医漢方でCOPDを考えると 痰と炎症は痰湿や痰熱、気道の弱さは肺気虚、脾気虚と考える事ができます。気道は外界と身体の中をつなぐ通り道です。ですからそこに肺衛(衛気)が沢山集まって外邪の浸入を防御しています。その衛気の働きも弱くなっていると考えられます。・・・・衛気不足
痰に関しては量が多ければ脾に問題がある事が多いようです。脾は生痰の源(痰をつくる源)といわれ 脾の機能が弱ると痰が出来やすくなります。肺気腫は肺胞壁の破壊ですから、器質的な損傷という事になります。物質的な不足は漢方的には陰の不足です。肺陰は不足し、肺の呼吸機能が失調し、肺気は不足します。肺の気陰両虚という事になります。ですから漢方の運用においては滋陰と補気が中心になると思います。
慢性気管支炎の場合も気管支の粘膜の損傷(あれている状態)があれば肺陰の不足を伴うと思いますが、その不足状態は肺気腫の方が酷いといえます。さらに痰によって気道が塞がれば息ができないわけですから、化痰しなければなりません。肺の力が不足なら気を補い、また物質的損傷には陰を補う事が必要です。息苦しいのは呼吸がうまくいかないというわけですが、呼気は肺が主り、吸気は腎が主ってるので、吸気に問題があれば補腎が必要です。
年を重ねると伴に呼吸の少しは浅くなってきます。肺活量の多い人でも若い頃にくらべると落ちてくると思います。心は一生青春という思いでも体はいつまでも青春とはいきません。しかし 年をとればとるほど 体の若さに個人差がでてきます。これは腎の強さと 瘀血、痰湿という邪気の有る無しによって違ってくると考えます。ですから 体質+養生 が重要です。
生きる為に呼吸は不可欠です。呼吸ができず酸素が運ばれないないと脳は5分で機能停止するそうです。呼吸ができなければ死んでしまうと言うことです。肺と心臓は密接な関係です。肺静脈・肺動脈で結ばれていて、心臓から使い終わった酸素(CO2)が肺に向かって運び出され、肺から新しい酸素(O2)を運んでくるわけです。心臓はその酸素を全身に送り出しています。
息切れは肺の弱さの問題だけでなく心肺機能の衰えともいえます。漢方では『肺朝百脈(肺は百脈をあつめる)』といいますが、『心の血脈を主る』働きと通じると思います。紀元前からある漢方理論ですが心肺機能を的確に表現しているのを凄い と思いませんか?
また、『肺は一身の気を主る』といい肺の機能低下は五臓すべてに影響があるといえます。
老化や吸気に問題があれば腎を
痰が多ければ『生痰の源』の脾を
動悸を伴ったりや睡眠の質が悪いなどがあれば心を
緊張やストレスによる悪化があれば肝を考えにいれます。
また肺は嬌臓といって外界に接する病気の入り込みやすい臓器です。現に インフルエンザ・肺炎・大気汚染などがCOPDの悪化の要因になっています。早めの去邪を心がける事も酷くしないコツだと思います。未病に対応できる漢方は身体を助ける力になります。
2009年3月ブログ暮らしの中の中医学より
尿漏れや尿失禁で悩む人が多いようです。特に女性は産後から症状が出る事もよくみられます。漏れるという事を中医学ではどう考えるのでしょう?一つには腎・膀胱の固摂作用(閉めておく力)の不足と見ることが出来ます。固摂とは5コの気の働きの一つで血や汗や尿などが漏れ出ないようにする事です。膀胱は腎の腑です。腑とは(胆以外)は外に通じている管のようなものですが、臓と関係しています。つまり 腎や膀胱の働きが弱り 漏れないようにしっかり閉めておけなくなっている状態です。腎は陰陽の基ですから腎の陰陽を真陰・真陽とよびます。その陰が不足するという事は、血や津液など尿をつくる材料が不足しているという事なので尿量は少なく、陽が不足する時は量も多くなります。ただ、陽気は腎の気化作用をになっているので 気化作用が失調した時は尿は作られず、その水は身体に溜まって浮腫みとなります。
このように一口に補腎といっても、陰陽をみる必要があるわけです。広告などを見て『尿漏れには八味丸』と思ってる方もおられるようですが、漢方の見方からすると、八味丸は腎陽虚に対する方剤で方剤学にもそう書かれています。腎陰虚に対しては、六味丸 杞菊地黄丸・麦味地黄丸・知柏地黄丸などを使います。また、腎陽虚でも精や血を大いに補う必要がある時は海馬補腎丸・参馬補腎丸・双料参茸丸などを用います。2つ目としては尿漏れが脾と関係ある場合があります。内臓の下垂による膀胱の圧迫もそれに入ります。
脾の生理機能のうちに『昇清』という事があります。水分や食物をこなし、精微物質(栄養素)=清を上の方に上げる働きです。この働きにより気血が頭まで届き、内臓は定まった位置にあります。物は下に落ちる(下のほうに行きやすい)のは自然の法則です。この脾の昇清の働きが弱れば内臓は下の方へ落ちる(下垂し易くなります)。そうすると膀胱が圧迫されて頻尿になります。そういう場合は横になる楽という事になります。
くしゃみや大笑いしたりした時漏れるのは腹圧との関係が大きいので脾の事を考えにいれるべきだと思います。脾は『肌肉を主る』といいますが、脾虚の人は筋力が弱い傾向にあります。骨盤底筋体操をすると伴に、腹筋などの筋力をつけるようにするといいようです。もともとの体質が脾気虚の人もいますが何らかの原因でに脾が弱いくなっている場合もあります。暴飲暴食により脾が傷ついた場合水の中や雨の中などで作業したりする事が多かったり、冷たい飲み物をよく飲む事により『寒湿』が溜まった状態で脾が機能できなくなっている場合です。
漏れるという事は気の固摂が弱い、つまり閉める力や保持する力が弱ということです。腎気や脾気を補う必要があります。頻尿になるとどうでしょう?漏れる前段階として頻尿がある場合もあります。でも頻尿だから漏れるとは限りません。もちろん もう我慢できないと言う状態になりやすいと言う事はあります。それでも次の駅がくるまで、授業が終わるまでとか必死で我慢するでしょう。我慢するというのはタンクは一杯になっていても蛇口をしっかり閉めておけるという事なのです。
頻尿も漢方的にはいろいろなパターンがあります。もちろん 頻尿も腎(腎気不固)や脾(中気不足)が関係しています。でもそればかりではありません。若い頃から緊張するとおしっこに行きたくなっちゃって・・・緊張するといきたくなる・・・と言う事は神経が関係しています。膀胱の収縮や弛緩は自律神経によってなされています。漢方的には肝の疏泄機能という事が気の流れの調節をしているので関わりが大きいと考えます。ストレスにより肝の疏泄機能が失調すると弱い臓腑に影響がでます。
また圧迫による頻尿があります。妊娠中も産み月が近くになると頻尿になった経験をお持ちの方も多いとおもいます。内臓の下垂・子宮筋腫など腫瘤や膀胱瘤などが原因だったり・・・圧迫されれば頻尿になります。また冷えによる頻尿は清長といっておしっこが透明で多いのが特徴です。残尿感や痛みが伴う時は膀胱炎の可能性もあります。尿の色は黄色が濃かったり、褐色だったりします。これは漢方的には膀胱湿熱が多いようです。体質的な弱りによる頻尿というと老化が考えられます。
老化と関わりの深い臓は腎です。腎は水を主るとか下は二陰に開竅するとかいいます。腎が虚すと夜中に何度もトイレに起きるようになります。眠れなくてトイレに行くのは違います。トイレに行きたくて起こされるわけです。腎陰虚なら尿量は少なく、腎陽虚なら多いようです。
腎は精を蔵し、生長・発育・生殖を主る・・・ということから脳下垂体の働きと腎の関係の深さがわかります。成長ホルモンは下垂体より分泌されています。また生殖と関わりのある性腺刺激ホルモンやプロラクチンも下垂体ホルモンです。腎は水を主るといいますが尿量の調節をする抗利尿ホルモンも下垂体ホルモンです。以前人の成長と腎気の充実について書きました。
ですから幼いうちは腎気がまだまだ足りないのでおねしょをする事もあります。つまり腎虚による頻尿はホルモン系の衰えと言う事も関係していると言う事です。もう一つ尿と関係があるのは肺です。漢方的には肺は『粛降を主る』とか『水道を通調する』とか言います。アレルギー性鼻炎の方の中で、浮腫んで尿の出も悪くなったり、頻尿になったりを経験した事はありませんか?
以前 喘息のある方の頻尿が玉屏風散(衛益顆粒)で改善した経験があります。
このように腎・脾・肺また肝のどこに問題があるかをきちんと考えて方剤を決める事はとても大切です。何らかの病気のせいで頻尿になっていないか?を調べる事は大切です。何かが出来ていて膀胱を圧迫しているかもしれないし、口渇があれば糖尿病で頻尿になっているかもしれません。老化による頻尿や筋力の低下による頻尿は漢方の服用が大いに助けになります。でも、衰えた機能を滋養する事はすぐに出来るものではありません。例えば運動不足で衰えた筋肉が、筋トレして数日で快復と言う事はありません。ある程度、根気よく腎・脾・肺に対する栄養剤だと思って飲んでいく必要があると考えます。そういう補剤を長期に服用すると身体も滋養されて若々しくなると思います。
2009年1月ブログ暮らしの中の中医学より