病気と漢方

2013-06-01

パンダ⑧ 清熱解毒薬が体に対してどう作用しているのか薬理作用がわかっているわけではないのだと思います。でも そのわからない所も魅力といえるのではないでしょうか?炎症反応には細菌やウイルスなどがかかわっている事もあれば アレルギー反応がかかわってる事もあるし自己免疫がかかわってる事もあります。

 それぞれの状態に応じて古来使ってきた清熱解毒薬があり一定の成果をあげているという事実があります。科学的な解明がなくても明らかな事っていろいろあります。梅雨の頃になると食べ物が腐りやすくなったりカビも生えやすくなったり・・・という事も科学的に証明されようとされまいと事実です。夏に日が長くなって冬に短くなるというのも証明がなくても事実です。この事実の積み重ねによって漢方の理論はできています。

 細菌に抗生物質というのが現代医学です。抗生物質ができて乳幼児の死亡率も大幅に下がりました。公衆衛生がよくなった事もあるでしょうが・・・でも今多剤耐性菌のように抗生物質が効かない菌が出てきています。抗生物質の使いすぎともいわれています。また自己免疫の暴走に対しては免疫抑制剤やステロイドなどを使用しますが、他方では副作用の問題もあります。身体を害する毒に対する対抗力(これは造語ですが・・・)を増す事が出来るのが清熱解毒という方法だと思っています。

 清熱解毒のうち解毒な何に対しての解毒なのかはそれぞれ違っています。最近 鳥インフルエンザの流行のため 中国で板藍根が品切れになっているという事がニュースや新聞に載っていたそうなので、板藍根ってなに?と思った方もいらっしゃると思います。板藍根は普済消毒飲という方剤に使われていある植物です。中薬学の中に板藍根はうん疫(インフルエンザ・日本脳炎)・大頭うん(顔面丹毒)・ささい(流行性耳下腺炎)の高熱や腫脹・疼痛に配合される事が書かれています。こういう事から中医学では板藍根をウイルス性の疾患に対しての解毒に用いる事が多く、また予防的にも広く使われています。

 中薬学の中に清熱解毒薬についてこう書いてあります。清火熱・消腫毒の効能をもち、火熱よう盛による発赤・腫脹・疼痛・熱感などの癰瘍腫毒を呈する熱毒・火毒にしようする。意味がなんとなくわかるような わからないような感じではないでしょうか?清火熱は火や熱を冷ますという意味です。消炎ともとれるし 解熱ともとれます。どっちもありの感じです。消腫毒は文字通り腫や毒を消す または腫れさせている毒を消す・・・ととることができます。

 すごいですよね。2つの事を1つがやってのけるという事をいってるわけです。毒を菌とかんがえるなら抗生物質と消炎剤をあわせて使うような事を1つの中薬がするという事です。考えるに自然界にはそういう働きを持つものは案外あると思います。何かから何かを守ろうと思うなら必要なのかもしれません。

 清熱解毒は中医のなかでよく出てくる言葉です。例えば金銀花は天津感冒片の中にはいっていますが、中薬学では清熱解毒とかかれています。普段解毒という言葉を使う事は少ないですが、風邪の時も、皮膚炎の時も 何か身体に炎症をもついような時に必要なのが、解毒という方法です。

 身体に悪い影響をもたらすものは 身体にとって毒です。特に 病原菌やウイルスなどは毒といえます。また自己免疫性疾患において攻撃相手を間違えている自己免疫は毒といえます。これらに対し 解毒が必要です。清熱解毒の清熱はどういう意味でしょう?熱を清すとは熱を冷ますという事で 日ごろ私たちも良く使う熱です。歯が腫れて熱を持ってるとか、爪の周りが紅くなって熱もってるとか・・・発熱以外にも炎症に対して熱という言葉を使います。

2012-10-01

 神経症の内に恐怖症があります。森田療法によると 人の感情のうち好ましくないと思える感情(例えば恐怖心)も生きていく上で必要感情だそうです。それはそうだと思います。恐怖心がなければ怪我する事も死も恐れない為に身体の方は大変な事になります。恐怖症の基になっているのは生命の危機のようです。ところが生命の危機はまったく無い部分で恐怖が一人歩きします。また この状態が酷くなると強迫的観念を伴います。恐怖症の恐怖心は単なる怖いとは違います。こみ上げてくる怖さです。身体が反応するので 身体感覚にもでます。

 実は私も高所恐怖症です。一番初めに感じたのは小学1年か2年の時に東京タワーの展望台から下を見た時です。身体の中の何かが下にサーと下がるような怖さでしゃがみ込みました。小学校高学年の時、3階建ての校舎の屋上でドッチボールをしていて高く上がったボールを見た時に同じような感覚になりました。

 何時だったか 友達に高いところで上を見ると怖いとい話をしたら、それは本物の高所恐怖症だよ・・といわれて満足な気になりました。ところが高いのが一切駄目かというと そうでなく小学校の時に富士山に登ったときも 中学で吾妻山に登ったときも怖いと感じた覚えはありません。

 また 不思議な事に飛行機は平気です。ビルのような切り立った場所がダメなようで 不思議なものだと思います。ところでサーと下がる感じというのは 中医学でいえば『気が下る』という状態だと思います。

 中医学では

怒り過ぎると        気が上がる
喜び過ぎると        気が緩む
悲しみや憂いが過ぎると 気が消える
恐れ過ぎると        気が下がる
驚き過ぎると        気が乱れる
思い過ぎると        気が結す

 と考えます。

 高い所 暗い所(夜道など) スピード などに恐怖を感じやすい人は多いと思います。しかし 行き過ぎて生活に支障をきたすと神経症になってしまいます。不潔恐怖・対人恐怖・閉鎖恐怖・動物恐怖・・・・・・ありとあらゆる物に恐怖症があります。不潔恐怖症になって1日中手を洗っている人もいます。合理的に考えたら不毛な事をしているわけですが、恐怖心のあまり合理的に考える事が出来なくなってしまっている状態です。

 この況は暮らしていくのにとても大変で、生きているのもつらいと思います。ただ拘るのをやめて、楽しい事に目を向ければ・・・ ちょっとのことでしょって周りは思うのですが、本人の立場は崖っぷちを歩いている恐怖が絶えず付きまとっているわけですから、他に目をくれるわけにはいかないのです。

 中医で恐れは腎と関わる感情です。中医ではどんな方法があるのでしょうか

怒・喜・思・憂・恐は五志といい それぞれ 五臓と関係しています。
肝・心・脾・肺・腎の順でで恐れは腎です。

 「恐怖のあまり ちびっちゃった」・・・なんて事があると思いますが、恐れは腎だからです。

 もうひとつ恐れと関係あるのは胆です。肝腎同源といいますが、胆は肝の腑です。肝腎の強さと恐れやすさは関わりがあります・・・なら 肝腎を丈夫にする事は恐れない心を作る事につながるはずです。肝が実すぎると怒ですから、肝が虚なら肝と相生関係にある腎も弱いといえます。恐怖心を持っている人は自信なさげです。なんだか弱弱しい感じです。ですから五臓を養い心を養う事はとっても大事です。

 恐れの感情はもともと人にそなわった感情ですから、取り除く事はできません。ですから 自分にとって不快な感情も受け入れてやるべき事をしていこう・・・と森田療法にあります。しかし受け入れるといっても、なかなか難しいものです。ただ恐怖の感情をもつ事物にばかり注意をはらっていると感情を膨らしてさらなる恐怖を感じるというのが心の仕組みのようです。

 ちょっと恐いテレビドラマにこんなシーンがよくあると思います。ドアの向こうからヒタヒタと誰かが近づいてきます。ヒタヒタ その足音に恐さが増してきます。ヒタヒタ・・・どうなっちゃうのかしらと想像を膨らましドキドキしながら見ています。ふいにドアがあいて なんでもない人物がたっています。・・・なーんだ(^。^)

 これは人が恐さに集中すると恐怖心を膨らせるという法則のようなものを巧みに利用して恐怖を大きく演出しているのです。ですから 恐い感情をそのままに こだわっている事柄をから目をそらしてやるべき事をやるというのは恐怖症の克服に一理あるわけです。膨らして恐怖が増大してしまわないうちに・・・

 テレビの話にもどりますが、テレビを見ている人は恐怖心を膨らせてドキドキする事を楽しんでいるのです。恐怖を楽しむなんて・・・何故出来るのでしょう?それがテレビで ただの話で自分の身に起こっているわけでない事がよくわかっているからです。これは理性です。冷静に判断しているのです。もし テレビと実際を混同してしまったら楽しむどころではなくなります。『中医心理学』の本の中に「道理を以って思をおこし恐に勝」とあります。恐は腎の志で思は脾の志です。脾と腎は脾が腎を克する関係です。

 つまり思は恐に勝つ。「恐いものは理屈じゃなく恐いのだから仕方ない」とかでなく、道理をもって思をおこす事をしていく事はとても大事な事です。またそれに ともない脾や腎を補う事もわすれてはいけません。

2012-06-01

 前回は認知症についてでした。認知症は頭の病気ですが、それに付随する症状は周辺症状と言われますが、こころの症状です。「理解してもらっている。」「大事に思ってもらっている。」という安心感が周辺症状をかるくします。また、頭の部分はトレーニングによって改善したりもします。中医漢方では物質としての頭は腎と関係あると書きました。

 ではこころはというと心(しん)に関係します。心はシンともココロとも読みます。思推活動は心が行います。「あの人が、あーで、だから うーん困ったこまった」と悩むのは心です。心が患うと睡眠に支障がでます。「アー頭にきた!」「なんだかむしゃくしゃする」これは肝と関係してます。

 子供は肝が中心の事が多くおお泣きして泣きつかれてねちゃった。などという事もありますし、泣いているうちになんで泣いてるのか忘れてしまった。などという事もあります。だから疳の虫とか虫の居所が悪いなどという事は深い考えがあるわけでなく、深い悩みがあるわけでもない・・・肝の働きが悪いだけです。しかし、この虫はやっかいな事にホルモンとも関係しています。特に女性は月経前にイライラしやすくなる人は多いのですが、実は女性の月経は肝と関係が大きいからです。こころの病やこころが身体の及ぼす影響を考える時、こころって何?という事をもう一度考えてみたいと思います。

 同じ出来事があっても、思い煩うかどうかは人によって違います。「そんな事をやってたら、いつまでたっても駄目じゃないか!」と注意されて「あー どうしよう」・・・と思いつつ 夜ぐっすり眠れる人「あー どうしよう」「自分がもう駄目だ」と思い夜も眠れず思い煩ってしまう人「あー どうしよう どうしたら良いか考えよう」と気を取り直す人「やっぱだめかー」とのれんに腕押しタイプの人「なにも そんな言い方をする事はないじゃないか、あなただって(プンプン)・・・と怒るタイプ

 こころのダメージは人によって何故違うのでしょう。

 1つは考え方という事があります。思考回路の修正をしようというのが認知行動療法です。もう一つはこころの丈夫さがあります。中医漢方では『心』と『肝』また『脾』の状態がかかわってきます。心血虚・心気虚・肝血虚・肝陰虚・肝鬱気滞・肝脾不和・心脾両虚・胆虚などの状態があるとこころが安定しにくくなります。血は身体を滋潤する働きがありますが、神経やこころも滋潤します。

 「こころに潤いがない」とか「こころが満たされない」とか「こころが枯れてしまった」とかいいますよね。また こころが強いとか 気持ちが丈夫とかもいいます。しっかり滋潤されたこころは丈夫なんです。『血に魂が宿る』ともいます。血が不足すれば魂は拠り所を失うので安定できません。心は神を蔵すといいますが、神は精神(思推活動の根本)も心血が充実してこそしっかり心に宿る事ができます。ですから養血(血を養う事)はこころにとって重要課題です。

 頭・・・脳やその機能は複雑です。以前にテレビで脳を左脳の70%損傷した中国の男子学生が両親の献身的なリハビリによって大学生活をおくれるまでに回復した事がとりあげられていました。脳科学者の茂木健一郎氏が病院で明らかに損傷している脳の画像をみて「これは脳の驚異的な代償作用だ」といって感心していました。そのように脳は不思議ともいえる代償性をもっているようですが、それを発揮するには愛情と努力が不可欠なようです。その中国の男子も両親の献身的な支えによってそこまでこぎつけました。特に氏が驚いていたのは男子が感情も取り戻していた事です。恋愛中の彼女もいました。こころの機能の回復に必要な愛情とは、本人の愛されているという実感だと思います。子供を思う気持ちは同じでも、ただ心配しているだけでは伝わらない時も多いようです。実質がともなって感じられる時、言葉に愛を感じるとき、愛されている実感になるのだと思います。

 脳や機能は不思議ではありますが、愛情を必要としているのはこころです。こころは脳より複雑です。なぜなら、前述のように同じ行為に対して受け取りが違うからです。だれでも愛情と努力があればとその男子学生のような代償性を発揮するとは限らないと思います。何故ならこころが関わっているからです。

中医の理論的に丈夫な心を持っている人と持っていない人
気血が充足している人とそうでない人
五臓がしっかりしている人とそうでない人
同じだと思いますか?

 古くから漢方医学ではこころと身体がつながりがあると考えられてきました。こころ(感情)は7つあるとしています。それは 喜怒憂思悲恐驚の七つで七情といいます。喜びは心の働きを活発にしますが、喜び過ぎると心を傷つけます。怒りは肝の働きを活発にしますが、怒り過ぎると肝を傷つけます。このように脾は思と肺は憂・悲と腎は恐・驚とこのような関係にあります。七情は人が持っている自然な感情です。 

 「この中に不安感がないですね?」不安のもとになっている感情は恐れだと思います。恐れはいやな感情でできれば避けたいものです。しかし恐れの感情は危険を回避する事につながる必要な感情です。(森田療法では恐れや不安は本来人が持っている感情なので消去する事はできない・・といっています。)自然にそなわったこの感情は五臓を活発にしたり傷つけたりしますが、逆に五臓の弱いと所を知る手がかりにもなります。また、悲しみが強ければ先回りして肺を守るなど未病先防にも役立ちます。

 認知症においても 脳の萎縮の状態と実際に周囲の人が感じる重症度は違います。「周りの人が認知症を理解して接するようになってから 良くなってきた。」という話を聞くことが多いと思います。うつ病や神経症なども周りの人の態度で症状が軽くなります。漢方でこころと脳を考えるとき 心の動きとしての脳は心に関係し、物質としての脳は腎に関係します。また ホルモンや自律神経を介した脳の働きは肝と関係しています。また 気分の出方は色々で 気分がハイになりすぎて興奮しやすい時、気分が落ち込んで沈んでしまう時 前者は陽に傾き 後者は陰に傾いている状態です。

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