癌と中医学

 一番とりあげたくないテーマです。生活習慣がわるかったからというわけでもなく、遺伝的な側面や環境因子も加わって突然変異的な部分もあると思っているからです。ですから 養生していけばこの病気にはなりません。・・・という事も断言できないと思うからです。しかし、癌になりにくくすると言う事はありだとおもいます。

 中医学では正気の虚+(瘀血・痰湿)の状態に熱毒が加わった事によって発症すると考えられています。つまり、免疫力が弱った状態で、血行不良やうっ血などの瘀血があり、更に代謝副産物の痰湿のある所へ、インフルエンザなどの外邪の熱毒 、またはストレスによって(肝鬱化火)の状態や陰虚火旺・血熱など内面からの熱毒が加わった為になるという考えです。

 故張瓏英先生は著書の中で『陰虚が酷くなり虚陽がきわまって、陰陽転化し偽りの陰(=癌細胞)が生じる』という考えを述べておられます。漢方と西洋医学とどっちがいいですか?両方の良いところを合わせた方が良い決まっています。三国志の時代の名医華佗は麻沸散をつくって麻酔をかけた状態にして病巣を取り出したとあります。もし現代に華佗がいたら抗がん剤も使ったと思います。これは漢方薬でいえば毒のある薬といえます。毒で毒を制すというやり方です。

 しかし、西洋医学との違いは必ず身体全体を見て、正気の虚が進まないよう考慮することです。邪を攻撃する去邪の物は正気を消耗するからです。扶正と去邪の割合は人によって変えなければなりません。もし正気の落込みがひどければ、去邪はおこなわず,充分扶正だけをする事も考えられます。正気は身体がもっている治癒力であり生命力ですから、とっても大事なんです。

 中医学(漢方)と西洋医学が力を出し合って病気を診ることを『中西医結合』といいます。2002年6月号発行の中医臨床で日本人の留学生の方が上海中医薬大学付属龍華病院の腫瘍科を研修した時の事につい書いています。『この病院のすぐ近くに西洋医学で腫瘍を治療する大きな病院があり、患者さんは両方の病院を交互にうまく使い分けている様だ。またこの病院でも、西洋医学の検査、抗がん剤の投与なども行っている。統計では95%の人が両方を併用、中薬治療も正規の治療法として認められている。

 ほとんどの人が上手に両方使っているんですね。ここの教授に次のように言われました。

有瘤体必虚・・・腫瘤があれば身体は必ず虚す 
有虚首健脾・・・虚があれば健脾を治療の柱にする』

 ・・・と これは以下の中医理論と共通しています。「有胃気則生 無胃気則死」

胃の気が有ればすなわち生き胃の気が無ければすなわち死す

 いかに人の生命にとって消化器の状態が重用かを現しています。

 留学生の人は『そこで、党参・黄耆・白朮・茯苓(四君子湯)を研究し、この4つの生薬の組み合わせが有効というデーターを出し、これを方剤の組み立ての基本としている』・・・と書いています。ここでも扶正去邪の割合についてふれています。『身体がとても弱った状態であれば扶正を強化する。また扶正と去邪の両方の性質をもつ生薬も少なくない。また、この生薬が抗がん効果があるから・・・とかいうのは補助的な基準にすぎない。いかに弁証するかが要だ』と書いてあります。ピンポインとで病気をみる西洋医学に対し、中医学(漢方)は全体観を持つので扶正は得意といえます。

 西洋医学で様子をみましょう。・・・と言う時にも漢方的には様子を見ている場合でない。積極的の行う事が有るわけです。正気を補う為に何をするかは個々人でちがいます。健脾・補腎・補血(養肝)・補気・・・など状態に応じて使い分けます。大切な事は生きている。・・・ということです。中医学でいえば、命門の火が消えてないと言う事です。少なくとも治療によってこの火を衰弱させるような事があってはなりません。

 華佗は医管に「病気の根が深いので、手術をして取り除くしかないが、病死の時期と天寿は一緒なので延命にならない」と告げたが、医管は手術し苦痛を取り除いたそうです。

■華佗の事が書いてある鍼灸治療院さんのホームページです。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ken-hari/60kadaden.htm

 生きている限りは苦痛が無い状態ですごしたいと思うのが普通ですよね。だからこそ癌に限らず病気と向き合う時、病巣だけにこだわるのでなく、自分の身体全体の声を聞く事が大切だと思います。