身体のサイン

 中医症状鑑別診断学は色々な身体の現象をどうみるかという事を学ぶ学問です。例えば味。『口の中が苦く感じる時は肝胆に問題がある。』となっています。1つは邪気が少陽胆経にある時。もう1つは肝胆に鬱熱がある時。となっています。『胆は決断を主る』といいますが、人がくよくよ考えていて決断できないと、弱った胆の気が上に溢れて口が苦くなると黄帝内経という書物にのっていると書いてあります。

 じゃあ、

口が甘い時は?
鹹いときは?
酸っぱいときは?
味がしないときは?

 こういった小さな身体のサインを知る事が出ます。漢方では味は五つに分けられます。酸・苦・甘・辛・鹹の五味です。五味と五臓の関係は酸ー肝・苦ー心・甘ー脾・辛ー肺・鹹ー腎です。ただ口中に苦味を感じるという事に関しては胆汁の苦味から考えても『胆』を考えるようです。『胆主決断』『心主神』から考えると『クヨクヨし考えて決断できない』のは心も胆も虚しているからで、心の味の苦味を感じるのもうなずけます。

 身体のサインはいろいろ。尿・排便・汗・顔色・舌・気持ち・睡眠・・・・・考え過ぎず・無視もせず!

 西洋医学で心が身体に及ぼす影響を考えられるようになったのは最近のことです。長い歴史のある漢方医学では心と身体のつながりをとらえてきました。人間には喜ぶ・怒る・思う・悲しむ・憂う・恐れる・驚くの七種類の感情があり、これを七情といいます。七情は物事に対する情緒反応です。しかし、過度の精神的刺激やそれが長期に及ぶ場合は五臓に影響が及びます。

心は喜を主る
肝は怒を主る
脾は思を主る
肺は悲憂を主る
腎は驚恐を主る

 その過剰はそれぞれの臓を損傷します。逆にその感情の変化によって、内臓の状態を知る事ができます。

 例えば、「ママはこの頃すごく怒りっぽくなっているんだ」という時『肝』に問題があります。生理前はよけい怒りっぽく、乳房の張りを自覚する事も多いです。また、生理血の色が黒ずんだり、血塊が混じったりすることもあると思います。情緒的にいつもとちがってるのも身体のサインのうちです。

 髪は血余といいます。髪が豊かで艶が良いのは気血が充実している為です。血虚タイプの女性は血脈が衰え始める35歳くらいから白髪がまじりはじめる事もあります。また、月経の周期が遅れがちになったり、量がすくなくなってきたりして、早く閉経を迎えることもあります。また精神的ストレスに弱く憂うつやイライラなどがでやすくなります。

 髪が細くなったり、パサパサしてきたり、抜け毛が増えたりは肝が弱ってるサインです。肝を補う事が大事です。快食・快眠・快便は健康のバロメーターといわれます。そのうち便の事を考えてみましょう。便の出方や便の形や臭いに身体のなぞを解く鍵があるんです。

 ドラマ『真犯人は誰だ』
 登場人物 刑事と 犯人

「おまえがご馳走を全部食っちまったという訴えがあったが…」
「とんでもない。あっしは潔白ですよ。腹の具合が悪いのにそんなわけありませんぜ。」
「そうか。そうか。ところでさっきもトイレに行っていたな。」
「どうも腹が渋って、ガスがでる。便も臭いしガスも臭い!卵が腐ったようないやな臭いなんですよ」。
「やっぱり犯人はおまえだ!」
「・・・・・・・・・・」

 そういう臭いがする便は食積によるものです。食べ過ぎ、または脾胃の働きが悪い為におきた消化不良の状態です。便はいろいろ、軟便・コロコロ便・泥のような便・形はあるけど水のなかで崩れる便・ベタベタ便器にくっつき易い便・未消化のものが混じっている便等・・・それぞれ身体のサインです。

 尿は一般的に色が濃く・量が少ないのは熱・透明で量が多いのは寒です。尿の出の悪さ少なさを訴える方も多いですが、腎臓や膀胱だけの問題ではありません。

中医学で考えると肺・脾・腎が尿の出と関っています。

肺は水道を通調するといい、水を膀胱に降ろし、
脾は運化を主るといい、水を肺と腎に送り、
腎は水を主るといい、水の貯留・分布・排泄の調節をしています。

 その何処に問題があるか、身体のサインを良く見なければ漢方選びができません。症状による中医診断がかかれた本は約700ページあって上・下2冊でていますがそれだけではありません。気になるサインが出た時は聞いてみてください。未病のうちに手をうちましょう!

 こういう中医理論のなりたちは紀元前何千年のときをへて、つちかってきたものです。始めに使った人の経験をもとに、次の時代の漢方家が「これは、そうなるな。これは、必ずしもそうはならない」と考え書物にし、また次の時代、また次の時代というように歴史に淘汰され、実際の経験により証明されてきた理論です。わかりにくいけど荒唐無稽なものではありません。

 近年、科学的データーを求める傾向にありますが、故人の知恵をないがしろにして、そのデーターだけを基に漢方薬を運用していったなら必ず多くの副作用が出てきます。科学データーを基につくられた薬を動物実験で確認して人で臨床試験をおこない何%の人に有効だった。という数の理論でいくのは西洋薬の世界です。多くの漢方家の経験により、こういう人に使いましょうとか、こういう人は使っては駄目だとかが書かれた膨大な学問を背景に漢方は運用するべきものだと思っています。私自身はまだまだ力不足ですので科学データーも参考にする事もありますが、それだけで決める事はしません。

 『老中医の診察室』という事実を基につくった小説に出てくる鍾医師はまさに学問の宝庫。しかも必要な時に必要な部分が出てくることに驚きと尊敬の念をいだかずにいられません。この知識によって難病といわれる病気を治していくし、また、治せないもの、治せるものの区別もできる。すべては古書の記述に基づいて判断していきます。興味があったら読んでみてください。