天人相応
太古の時代 人類は地球上の大自然の中から生まれ出てきました。人は自然と共に生き、自然の中で発達して今にいたりました。そして 人は自分も自然の一部だという事を忘れかけています。しかし この世界そのものが 自然から出てきたものである以上自然の法則は人にも当てはまります。また、人の身体は自然の影響をうけているので 季節にあった養生をする事が健康につながります。
気血津液
気血水という言葉は聞いた事があると思います。中医学では水を2種類に分けサラサラの水を津・関節の粘液のような粘りの水を液として津液という言い方をします。ですから中医学的には気血津液です。ではそれぞれの役割を考えてみましょう。
気は全身を巡り機能的な部分をになっています。それと気持ちの気でもあります。昔から使われる色々な言葉の中に気の働きを見る事が」できす。『気が入る』『気落ちする』『気が抜ける』『気が弱い』『気力』『元気』・・・・気が足りなければやる気がでない、だるい、風邪をひきやすいなど身体や気持ちの力不足の症状がでます。また、身体中を流れず停滞しても(気鬱)、エネルギーが送られない為だるいなどの症状が出たりしますが それとともに気持ちの部分も鬱滞してフラストレーションをおこすのでイライラなどの症状もでてきます。
気を補う漢方薬としては 麦味参顆粒(生脈散)・衛益顆粒(玉屏風散)・ホイオー錠(補中益気湯)・力があるものとしては大補気血(大いに気血を補う)の参茸補血丸がります。実際の運用に際しては五臓・寒熱など他の関係も考えにいれます。血は全身をめぐり身体や内臓を滋養(栄養)します。つまり全身を養ってるわけです。血の滋養がなければ手は物をつかむ事はできず、目もよく見えないし耳もよくきこえません。足の筋肉も滋養されず立つ事もできず、頭や精神も滋養できない為に充実した精神活動もできません。
つまり、血液という概念よりもっと広い意味をもちます。ですから血虚イコール貧血ではありません。しかし貧血なら血虚という事はいえます。血が不足すれば血虚ですが、血の巡り悪い状態は瘀血です。瘀血の場合も血の行き届かない部分は滋養できません。つまり、部分的に虚血状態となります。瘀血と血虚は血の滋養作用を受けれないという意味では同じですが 治療の方法は自ずと違う事が解ると思います。血虚は血を補う(補血)・瘀血は血を巡らす(活血化瘀)です。補血の代表選手は当帰で婦宝当帰膠は70%近く当帰がしめている漢方薬です。他にエッキ(四物湯)・フラーリンQ(当帰芍薬散+帰耆建中湯)などあります。
津液は全身を潤す働きです。津液が不足すれば皮膚はカサカサ 咽はカラカラ 肺もカラカラで痰の排泄もうまくできません。また、粘膜の潤いがなければ粘膜の繊毛の働きもわるく食物を送っていく力も弱く、便通も悪くなります。さらに血液中の水分が不足すると血の流れが悪くなり血栓ができやすくなります。
夏に脳梗塞が多いのは汗により津液不足になるのが原因の1つです。漢方薬は生津・滋陰、補陰などの方法で補います。漢方薬としては益気生津の麦味参顆粒や香西洋参・八仙丸(麦味地黄丸)・潤肺糖漿(養陰清肺湯)養生食品としては百潤露があります。気血津液が充足して運行も正常なら病気をよせつけないばかりか、強い邪気に遭遇した時も正気が充実しているので充分戦えます。
五臓六腑
気血津液の生成や運行に重要な役割をはたしています。実際に身体をみていくには五臓六腑のどこに弱い所があるのかを把握しなくてはなりません。例えば血が不足している(血虚)を考える時、肝の蔵血作用に問題があるのか?脾の生血の働きに問題があるのか?はたまた脾気が不足して摂血に問題があるのか?あるいは血熱による出血か?いろいろなパターンを考慮します。それには五臓それぞれの役割を知らなければなりません。また五臓は自然界の五行関係しています。ですから五行の相関関係は五臓の相関関係になります。
五臓は心・肝・脾・肺・腎の総称です。五臓の働きに関しては西洋医学と認識がちがいます。
心
簡単言うなら心臓と心(こころ)です。「あ~考えただけでドキドキしちゃう」・・・まさにこれが心です。ドキドキは血液を送り出す拍動です。そして考えるとは大脳の働きです。ですから、中医学的には『心は血脈を主る・心は神を蔵す』といいます。心気、心陽や心血、心陰、が不足するとこの働きに支障がでます。心気不足には麦味参顆粒、心陽不足には真武湯、心血虚には帰脾湯、心陰虚には天王補心丹などを使います。また、血脈がうまく流れない時は冠元顆粒や血府逐お湯を使います。
肺
肺は呼吸する所です・・・というのは常識、西洋医学と同じです。でも中医学になると『一身の気を主る』といい呼吸だけでなく、気の働きそのものにも考えが及びます。肺が弱いと元気がでなかったり、気が弱くなってすぐ悲しくなってしまったりも肺と関連して考えます。肺の呼吸の上下運動は『宣発粛降』という働きによってなされます。またこの働きは水の輸送とも関わっていて腎に水を下ろしたり、発汗したりします。風邪は呼吸器の病気ですが、高熱で汗が出ずに熱が下がらないのは肺の宣発の働きが風邪(ふうじゃ)によって失調したからです。風寒に対する葛根湯、桂枝湯や風熱にたいする天津感冒片や涼解楽は発汗作用(宣発させる)働きがあります。時に急激に顔から浮腫み熱っぽく尿も出ない時は越婢湯を使います。その他、心肺機能という言い方をしますが、漢方でも肺が心臓の『心主血脈』をバックアップしているとして、『肺朝百脈』といいます。
脾
脾は『運化を主る』といいますが、これは食物の消化吸収、栄養分の輸送、さらに水液代謝の事です。胃腸の働きに近いですが、腸管から吸収された後の部分も入ってくるのでもっと広範囲です。また、栄養分(水穀の精微)を身体の上の方に上げる働きの事を昇清を主るといいます。つまり身体の上の方に向かうエネルギーは脾気がになっています。昇清が弱まると内蔵をささえて要られなくなって下垂がおこります。胃下垂や脱腸、子宮下垂などは脾気(中気)の不足によっておきます。ですから そういう時は益気昇陽のホイオー錠(補中益気湯)などを長期に服用します。また、脾気の働きに統血があります。中医学では血が脈の外に漏れないのは脾気が作用しているからだと考えています。ですから脾気虚の人の不正出血や血尿 ちょっと圧迫しても青あざになるなどは脾の統血作用の弱まりによるので帰脾湯などで改善できます。
肝
肝は血を蔵すといって血の道(女性の生理)と密接に関係しています。また疏泄を主るといって気機の調節を行っています。つまり、気のコントロールを行っている中枢のような感じです。気はエネルギーでもあり、気持ちの気・・・つまり情緒でもあります。ですからストレスにより情志が失調すれば肝の疏泄も失調し時に蔵血作用にまで影響が及びます。また、逆に血や陰の不足により 肝血が肝気と調和できないまたは肝陰が肝陽を抑えられなくなると、情志の失調がおきます。更年期障害や月経前緊張症など女性の生理と関係の深い疏泄失調には逍遥丸などを使います。肝が充実し疏泄の働きをスムーズにしておくには肝血が充足していなくてはなりません。当帰が女性の聖薬といわれるのは補血し調経する働きがあるからです。女性は毎月生理があるので未病先防 当帰のシロップの婦宝当帰膠を飲んでいきのが衰えない秘訣です。
腎
人の一生と関わりの深いのが腎です。『精を蔵し 生長・発育・生殖を主る』といいます。精とは身体の根本的な力のようなもの(精根つきはてるなどの時の精)をいうのと同時に身体に対し微量で影響を及ぼすホルモンなども精です。腎気が弱ければ生長・発育でできないわけですから、成長ホルモンは腎と考える事も出来ると思います。また、生殖も腎ということは性ホルモンも腎と考える事もできます。補腎は不妊や更年期、また発育不足や老化防止にかかせない方法です。益精の力があるものに鹿茸、海狗腎、紫河車などの動物薬があります。これが使われているのは参茸補血丸・参馬補腎丸などです。また腎は水を主るといい、尿を作り排泄するのは腎の気化作用によります。さらに悩も腎と関係しています。腎は骨を主り 髄を生じ髄海に通じるといいます。この言葉は骨 脊髄 延髄 脳髄・・皆腎と関わりがある事を示しています。脊髄の関係から来る痛みやしびれまた健忘や認知症予防にも補腎はかかせません。もう一つ腎の働きの中に呼吸の吸気があります。腎は吸気を主る・・・つまり深く息を吸い込む力は腎にあると言ってるわけです。腎が弱まると息を吐く方が多く吸う方は少ないという症状が現れます。この時は平喘顆粒(蘇子降気湯)を使いますが、場合に応じて八味丸や冬虫夏草なども使います。
六腑
「うまい!五臓六腑にしみわたるぜ」などという台詞を聞いた事がありませんか?漢方で五臓の他に六腑があります。胆・胃・大腸・小腸・膀胱・三焦で、水穀の通り道です。決して貯えません。飲食物を消化して栄養分を吸収し、糟を排泄する通路です。
胆
きもったまかあさんという番組がありましたが、きもは肝と書く事も胆と書く事もあります。そのはずで胆は決断を主るといいます。ですから、優柔不断で物事が決められない、不安感が強くて疑い深く前に進めないなどは胆が弱いからです。胆がしっかりしている人は 胆っ玉が太くて多少の事では動じません。胆が弱い状態を胆虚(胆が虚してる)といい温胆湯を使います。胆は肝の疏泄作用の助けを受けて、胆汁の貯蔵排泄を行っています。胆汁は消化液なので、脾胃の運化作用にも重要な役割があります。肝の疏泄の失調は胆汁の排泄に影響し脾胃の運化の失調につながります。温胆湯が健脾化痰する構成なのは、胆を助け脾の運化も助け 運化の失調により生じた痰を除くようにする為です。
胃
西洋医学の胃の働きとほとんど同じで、食物を受け入れて消化します。この受け入れて消化する力を胃気といいます。食欲のような食べる力のようなものです。重病の人を診るときに『胃気があれば即ち生き、胃気がなければ死す』といって胃気があるかないかを重要視しました。その為、中医漢方では病気や投薬の際に必ず胃気を守るようにします。例えば抗がん剤の使用時に健脾散や晶三仙を服用を勧めるのは胃気の保護です。特に晶三仙は消導作用のある食品でできていますので、胃気を守る食養生としてどなたにでもお使いいただけます。また胃は通降を主るといって必要な栄養分を吸収した後の糟が排泄できるように下に送ります。この降ろすという働きが失調するとげっぷや悪心、嘔吐、しゃっくり、濁飲が上逆すれば臭いげっぷが出たりします。
小腸
清濁の泌別を主るといって飲食物から必要な栄養分と糟に分け大腸に送ったり、不用な水分を膀胱へむかわせます。
大腸
糟粕の伝化を主る つまり余分な水分を再吸収して便を作るという事です。
膀胱
貯尿と排尿
三焦
三焦は耳慣れない言葉です。物質を変化させる働きを気化といいますが、気化作用を統轄しているのが三焦です。また水液運行の通路です。
腑はそれぞれ五臓と関連してしています。胆は肝・胃は脾・小腸は心・大腸は肺・膀胱は腎です。また三焦は上焦・中焦・下焦に分けそれぞれの部分にある臓腑と関連しています。臓腑の関係は腎と膀胱のようになるほどと感じるものもあれば肺と大腸のように何故と思うようなものもあります。でも、実際に関連していて、例えば喘息で呼吸が楽にならない時に通便する事で回復する事もあります。
中医学において一見意味のない事にみえる事が弁証上、重要なポイントになる事が多々あります。