病気と漢方

2006-03-01

 新潟大医学部の阿保先生が自律神経が白血球の働きを支配しているということを『免疫革命』という本の中で書いておられます。自律神経というのは『肝の疏泄を主る』という働きと近いものがあります。この疏泄を主るという働きを中医学の本で見てみると4つの機能に分類してあります。

1、気機の調節
2、脾胃の運化機能の促進
3、胆汁の分泌、排泄機能
4、情志の調節 

  
 1,気機の調節とはどういう事でしょう。五臓・経絡・その他身体の器官の活動に関係している気の動きを調節しているということです。この働きが失調すると気の流れが悪くなったり鬱滞し、肝の経絡部分に脹るような痛みや不快感を感じたりします。また、肝は剛臓で『昇を主る』のでこの働きがオーバーヒートすると『肝気上逆』となってイライラして怒る・頭痛・眩暈、さらにひどいと失神することもあります。

 脾胃の運化機能ってなに?

 私たちは食べたり飲んだりする事で栄養や水分を吸収し、身体の原動力にしています。この栄養や水分の吸収や代謝を運化といいます。“脾は運化を主る”といいますが、この働きを円滑に行う為に肝の疏泄機能がかかわっています。肝の疏泄が失調すると脾の昇清・胃の降濁(身体に必要なものを体に昇らせ、不必要なものを降ろしていくという働き)もうまくいかなくなります。その時は肝気が脾や胃を犯したと考え、肝を治療することで脾胃の症状を治します。

 肝の疏泄機能は胆汁の分泌・排泄にかかわっているので、肝気が鬱すると口が苦い、消化不良などの症状があらわれます。情志の調節も肝の疏泄機能とかかわっています。肝の疏泄機能が正常なら、気機は円滑に機能し、気血は調和するのでのびやかで明るくなります。疏泄が失調すると肝気がオーバーヒートしてイライラ怒りっぽくなったり、肝気が鬱結してうつ状態になったりします。心と身体はつながりは双方向。気持ちのスイッチの入れ替えで疏泄機能が改善すると体の機能も動き始めます。

 『肝の疏泄』は身体のコントロールセンターのようです。肝は『将軍』です。調子を崩すと色々な所に横槍をいれます。

胃痛に胃の薬?
動悸に心の薬?
咳に肺の薬?
排尿異常に腎の薬?

 その症状は『肝』からきていませんか?肝からきているなら治法は『疏肝』『理気』『瀉肝』『柔肝』などですが『補血』『滋陰』も必要だったり複雑な場合多いです。

 肝の疏泄が失調していませんか?肝気が鬱結してます。肝鬱化火でイライラが強くなってます。肝の腑の胆が弱って不安感がでています。肝が失調している人は多そうですね。

2006-03-01

 漢方の症ってなに?あの漢方もこの漢方も更年期障害ってかいてあるけど?漢方は漢方の見方に基づいた薬効があります。逍遥丸の効能・効果を見てみると“冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症”となっています。方剤学に書かれた遥散散の効能は“疏肝解鬱・健脾和営”です。簡単にいえば“肝の疏泄の働きを改善して気の鬱滞を解き、脾を健やかにして栄養する営みを調和する”という効能をもった漢方薬ということです。この薬効を理解し運用するには五臓の『肝』や『脾』の働きを理解してなければなりません。

 昨日の講演はとても有意義でした。中国から来たトン先生は演歌歌手の細川隆似でなかなかの男前。先生は中国中医科学院・広安門病院(日本の東大病院にひってきするとか)の副院長で糖尿病の研究をしてこられた方です。糖尿病の合併症予防に活血通絡排毒がいかに重要かが理解できました。

 では逍遥散はどんな状態の時使う漢方薬なんでしょう?『肝鬱血虚、脾失健運』となっています。肝の血が不足し、肝の疏泄の働きも失調してるため鬱滞している。脾も弱って、正常な運化ができないと言うです。つまり血虚タイプでストレスに弱く、胃腸の働きが弱かったり、水分の代謝がわるかったりするタイプの人は合ってるということになります。この状態であれば老若男女誰に使ってもいいと言う事です。効能書きをみると男性には「女性の漢方薬じゃないの」と言われそうですね。

 鬱滞するものは熱をもちやすい性質があります。逍遥丸をつかうような症状が化熱するとイライラがつよい・おこりっぽい・顔が紅潮する・口が乾くなど熱の症状がでてきます。肝鬱化火といいます。この時は逍遥散に火を消すものをいれます。牡丹皮と山梔子がそれにあたります。逍遥散+牡丹皮+山梔子=加味逍遙散です。体質が陽性の人は化熱しやすいので加味逍遙散があってますが、化熱もないのに冷やすのはよくないですね。

 脾はとても重要です。東西南北の方位の中央にあり、飲食物から気血津液をつくり五臓を養っています。肝鬱とは肝の疏泄という身体の気機を調整する働きが悪いということで、気が鬱滞してスムーズに流れない。血は気というエネルギーによって流れているので、その気が鬱滞すれば血もまたスムーズに流れない。状態が長引けば瘀血になります。それを気滞血瘀といます。

 肝鬱血虚・脾失健運の症状に「痛む・しこる・黒ずむ」の瘀血の症状が加わる事もしばしばです。そうなったら逍遥散+活血化お薬という処方構成にします。もし脾の運が失調した為、「痰」の存在が明らかなら(+化痰薬)とします。身体に合わせて使います。

 **頂いた薔薇の花がやっとひらいて喜んだら、蕾が2つ落ちてしまいました。見ると花の首の所が細くなっていたので水や栄養がいかなくなってしまった(瘀血)みたいです。お水たっぷりが好きなタイプなんだと思い受け皿に残るくらいたっぷりあげました。あと2つの蕾は絶対咲かせるぞー! **

 漢方薬は身体を調整するものなもで、崩れたバランスの調整になるように使わなくては意味がありません。その為、気虚・血虚・陰虚・瘀血…など中医学の見方が大事なのです。例えば不眠に効く漢方薬と一口にいっても酸棗仁湯・天王補心丹・帰脾錠・温胆湯・牛黄清心丸など、それぞれ方意(方剤が意味する所)が違います。

「眠れる漢方薬をください。」
「それにはこれがよく効きます」

 こうだったらいいのですが、そう言う具合にはいかないのです。漢方薬は病名とのつながりより、体質や現れている症状とのつながりを重視していい効果がえられます。『同病異治、異病同治』…同じ病気なのに治療方法が異なっているし、異なった病気なのに治療方法が同じと言う意味 この言葉に漢方薬をつかう意味が込められています。

寒か熱か?
湿気か燥か?
虚か実か?
陰か陽か?
表か裏か?
気血津液は?
五臓は?????

 これらのアンバランスを正す事が自然治癒力アップにつながります。1つの植物の持つ薬効だけをたよりに使っていって、その結果、寒を寒し、燥を燥しというふうにアンバランスを助長してしまう事のないように気をつけましょう。

2006-03-01

「年をとらない人はいないけど、なるべく老化しないようにしたい」
「やっぱり補腎でしょう。」

 生命力は腎と関係しています。腎には命門の火があります。腎は精を蔵し、成長・発育・生殖を主るといいます。腎の精(腎精)は人が成長していくためのエネルギーのつまった種のようなものです。腎精は脾の運化によって補充されます。だから腎は『先天の本』、脾は『後天の本』といわれます。

 成長すると伴に腎気が充実してきて、思春期頃になるとホルモンが分泌されます。腎気の衰えてくるとホルモンの分泌も減り身体の少しづつ衰えてきます。腎気・腎精が充実している人は若々しいということです。 

 『腎は骨を主る』といいます。骨が弱ってくるのは『腎の骨を主る』働きが衰えるからです。骨密度が減ってくる理由を考えるとカルシウム不足の他に生成と破骨のバランスが悪いなっている事があります。つまり骨の丈夫さを維持する仕組みが弱っているということです。関節痛に使う独歩丸(独活寄生湯)には補腎の中薬がはいっています。

*子供の発育が悪かったりする時も補腎します。腎は先天の本だから生まれつきの弱さがあるときは腎精が不足があることも多いからです。

 物忘れが多くなったり、頭がボーっとしていてはっきりしない感じがしたりは腎の衰え(腎虚)の症状の事が多いです。『腎は骨を主り、髄を生み、髄海に通じる』といい、骨髄・脊髄・延髄・脳髄(髄海)は腎と関連しています。痴呆症の予防には“補腎と活血化お”が重要視されます。

 補腎薬のうち益精、益髄、健脳の働きのあるものが脳の働きにいいようです。漢方茶のなかでは香ロゼアは紅景天という中薬と同類で固本健脳(身体の本を丈夫にして脳の働きをよくする)の作用があります。 中国の国際中医専門員の試験の時は毎日飲んでいました。飲むと若い頃より開けにくくなった記憶の引き出しがスムーズにあけられるような気がします。

 いまでも時々集中力アップに利用しています。『腎は納気を主る』といい、吸気は下りて腎に納まります。息を深く吸いこむ力は腎の働きです。呼吸が浅く肺活量が少なくなっているのは腎虚の場合も多く見られます。喘息、慢性気管支炎、肺気腫などの肺系の疾患で呼多吸少(呼気が多く、吸気が少ない)症状が見られるときは腎虚があると考えます。肺と腎にいい漢方薬に双料参茸丸や八仙丸、平喘顆粒(蘇子降気湯)などあります。

*呼吸で大気中の清気を吸い込み腎まで下ろすのは、身体の円滑な営みにとって重要です。毎日ゆっくり深呼吸をしましょう。

 腎は五行で水の臓器です。『腎は水を主る』といいますが、この事は西洋医学の腎臓の働きに近いものです。腎の気化作用により、体内の水液の貯留・分布・排泄はなされています。腎陽はこの水液を代謝させるエネルギーなので腎陽が不足すると小水がでなくなったり、浮腫んだりします。心不全の浮腫みや足腰が弱って下肢が冷えて浮腫むなども腎陽の不振によるものです。

 『腎の華は髪』『腎は上は耳に開竅し、下はニ陰に開竅する』といいます。腎が虚すると髪の艶が無くなり白髪になったり、抜け落ちたりします。また、耳鳴りや難聴、排尿の異常や便秘・下痢・便がもれるなど腎虚による事が多いです。このように見てくると(老化現象=腎虚)といっても過言ではありません。

*数年前、「補腎」の研究をしていると言う中国の先生の講演を聞いたことがあります。

「腎が髄を生み、髄は血を生む」などの中医学的な腎の働きを証明するような動物実験でした。補腎生血薬で老化したハムスターの毛並みがよくなったり、去勢したおん鳥のとさかがでてきたりのスライドをみてびっくりしました。

 後日、恩師のT先生に聞いたことがあります。

「私も老化防止に補腎薬を飲もうと思いますが、あの話の補腎薬が一番力がありますか?」
「アレは動物実験だからで人間はもっと複雑です。しっかり弁証論治して選ぶべきです」

 
 私も補腎生血薬のんでます。できればいつまでも若くいたいものです。

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