不妊に悩むご夫婦も多いと思います。医療技術は発達していますが、その技術をしても簡単ではないようで、体外受精の妊娠の確率も高くはありません。赤ちゃんが出来ない原因は男女半々にあるそうです。もちろん無理な時もありますが・・・
漢方薬ができることは、身体の力をアップすることです。つまり、漢方の理論を使って、妊娠力をアップすることです。それには前回書いた7の倍数で腎気が充ちていくという考え方も重用です。『14才 腎気が一定以上充ちると天癸至り月経が来潮するようになり、故に子有り。』から 21歳28歳35歳42歳をへて『49才 腎気の充満が一定以下になり天癸が枯渇し、血の道が通じず、故に子無し。』まで子供を授かることのできる期間といえます。
この言葉から初潮が始まって 閉経まで 腎のはたす役割の大きさが解ります。『腎は生殖を主る』といい、中医学における不妊症治療に「腎」を考えに入れる事は不可欠だと思います。特に晩婚化がいわれている今日、腎気が充満している状態を過ぎてから「子供を・・」と考えはじめる場合も多いと思います。ですから滋補腎陰、温腎壮陽、益精血などの働きのある漢方薬を加えるべきだと思います。
先日、聖路加国際病院女性総合診療部部長・生殖医療センター所長・佐藤孝道先生の講演を聴く機会がありました。そこで感じた事は卵や精子という固体の生命力が妊娠力につながっていて、環境的なものは不妊の付随する要因だという事です。例えば、ストレスが不妊の原因になっている事は多々あります。でも、強いストレスがかかっている状態の中でも妊娠する人もいます。
何故ですか?やっぱり、固体の持つ力は重用だと思います。
この力は腎気・腎精であり、女子の先天ともいわれる肝血だと思います。精血同源です。だから男女とも体質的な環境を整える漢方薬に加え、益精血のものを充分摂ることが妊娠力につながると思います。中医医学における不妊治療の第一人者でおられる夏桂成先生は、著書の中で不妊症になるいろいろな要因を書いていますが前提として腎虚があるとされています。簡単にいうと固体に対する滋養力アップはかかせないと言う事だと思います。
中医学の婦人科の第一人者に夏桂成先生という方がいらっしゃいます。夏先生の本によると
排卵機能障害の場合は腎陰虚
黄体機能不全の場合は腎陽虚が多く見られるという事です。排卵までは物質的な滋養が充分でないといけない、そして排卵した後はエネルギー的に高まる必要があると言う事です。基礎体温をみると排卵前は低温期で排卵後は高温期になります。この事も陰陽に時期的変化を表しています。生命を生み出す女性の身体のリズムは自然界そのものの様です。不思議ですね。
赤ちゃんが欲しいのになかなかできないのは「冷え」が原因とか「瘀血」のせいとかはよく耳にします。しかし、そればかりではありません。また、先週書いたように腎虚は本質です。夏先生は不妊症を訴える人に心肝気鬱が多く見られると書いておられます。
心肝気鬱って何?
心はこころ、肝は疏泄を主るといって気の巡りと関わりが深いところです。心や肝の働きが失調して気が鬱滞している事です。
鬱滞は時に化熱して鬱火になります。簡単にいうと思いすぎやストレスによって気の巡りが悪くなっている状態です。気はエネルギーですから鬱滞して動かなければ排卵のような動的な部分に支障をきたします。西洋医学的にも卵胞刺激ホルモンや黄体ホルモンは脳下垂体から分泌されるわけで、脳(こころ)がかかわっています。少し難しいのですが本に書かれている事を簡単に書きたいと思います。
何日か前に排卵機能障害の場合に素体に腎陰虚が見られる事が多いとかきました。陰虚とは陰の不足。陰は陽と相対して冷ます働きがあります。この働きが虚すわけですから陽が勝って熱に成り易くなります。そういう状況で気が鬱滞すると鬱火を生じやすくなります。鬱火は腎陰や天癸の水を消耗するので悪循環になります。瘀血が原因の時もあります。血脈から離れた血は『瘀血』ですから内膜症や筋腫がある人も『瘀血』という事になります。その他、経産で不妊の場合「留瘀」つまり胞宮に『瘀血』を留めている事もあります。また心肝気鬱から「気滞血瘀」・・・気が滞ると血も滞ることから『瘀血』に発展することもあります。
また、寒湿を受けやすかったり、体質的に寒湿を内在し易かったりするため瘀血に成る事もあります。
『血は寒にあって凝り、血は湿にあって滞る。』
体質的に陰虚であれば排卵に影響が及びます。『瘀血』を予防するには
①普段からリラックスを心がけることです。
ストレスは精神的ストレスばかりでなく肉体的ストレスや環境的ストレスもあります。
例えば夜更かしは身体にストレスをかける事になります。
②温かい物を摂るようにしてお腹や足腰を冷やさないようにしましょう。
今週は夏桂成先生の『中医婦科 理論と実践』という著書にそって私の考えを入れながら書いています。昨日、体質的に陰虚であれば排卵に影響すると書きましたが、もう一度陰虚について説明します。陰は物質面をさしますから、陰虚は血や精といった物質的基盤が弱いということです。つまり、卵という固体の滋養も弱いということです。この弱いところにもってきて、瘀血もあると排卵に影響し易いと言う事を言っているのです。ですから漢方の運用としては瘀血の程度に応じて活血しながら補血滋陰するものが必ず必要になります。
その他、肥満傾向で痰湿が衝任の脈を塞いでしまうと不妊になります。夏先生によるとこのタイプは臓腑機能が失調し、陰虚陽弱で、水湿や脂肪を代謝できないで蓄積してしまう。これがまた臓腑の機能を弱め、陰虚陽弱の状況が酷くなりまた痰脂が気血の通路を塞いでいく事になります。
*陰虚陽弱とは物質面も足りないしエネルギーも弱いと言う事です。
もう一つ脾胃虚弱が原因になることもあります。腎は先天、脾は後天です。脾胃の円滑な働きによって腎(腎陰・癸水)は補充されます。脾胃が弱く滋養されないと腎陰は更に弱まります。脾胃虚弱は体質的な時もありますが、偏食、暴飲暴食、過労、夏の過冷房、冷いものの飲みすぎ食べ過ぎなどで脾胃の働きを傷つけた結果脾胃虚弱になっている場合もあります。
こうやって見ていくと生活に原因がある時も少なくないと言う事がわかります。しかし、それが不妊に結びつくには元に腎の弱さがあります。 なにしろ、腎は生殖を主るですから。
2007年10月ブログ暮らしの中の中医学より
喘息は発作期と緩快期をくりかえします。発作時には咳・痰・胸苦しい、さらに重症になると呼吸困難・窒息ということにもなる大変な病気です。気管支に慢性的な炎症があり、ちょっとした刺激で発作が起きるということで、最近は発作をおさえていく為、吸入ステロイド剤が使われています。
中医学で喘証と哮証が喘息にあたります。発作時にゼロゼロ痰の音がするもので、甚だしいと呼吸困難をおこすものを哮証といいます。宿痰が肺に潜伏していると考えられています。呼吸困難をおこし、甚だしい時は口を開き、肩をあげて呼吸するものは喘証です。
症状のある時は症状に対する漢方薬(標治)を、症状がない時は体質を改善する漢方薬(本治)を用います。また、標本同治の時も多いです。西洋医学では気管支拡張剤・抗アレルギー剤・気道粘膜調整剤・ステロイドなど症状に応じて使います。
漢方は薬効でもちいるわけではありませんので情報を集めなくてはいけません。冷えてでているのか?熱をもっているのか?
・・・寒熱は重用です。痰の量や性状・寒気・発熱・痛み・汗・・・
寒の時は麻黄湯・小青竜湯など
熱の時は麻杏甘石湯(麻杏止咳錠)・五虎湯など
熱痰がある時は温胆湯など
寒痰のある時は半夏厚朴湯・蘇子降気湯など
空咳や痰が喀出しにくい時は麦門冬湯や潤肺糖漿(養陰清肺)など
症状に合わせて組み合わせます。本治の方は少し複雑です。病位といって病気の位置は肺にあるのですが、原因が肺にあるとはかぎりません。喘息の発作時は苦しくて息がはく事ができない状態です。中医学(漢方医学)では「肺は呼気を主る」といいます。息を吐くというのは肺の働きということです。だから、息がはけないのは肺の働きが失調しています。
では、息を吸い込むのは?納気(吸気)は腎が主催しています。だから、息が吸い込みにくいのは腎が虚している証拠です。呼多吸少(はく息の方が吸う息より多い状態)といわれます。・・・このタイプは息が足りなくなるため、時々大きく吸い込みます。
呼吸は肺と腎の共同作業!腎が弱ると呼吸が浅くなります。腎は陰陽バランスの基です。腎の陰陽を真陰・真陽といいます。ですから陰虚と陽虚を分けて考えます。
腎陰虚の場合は八仙丸(麦味地黄丸)、滋陰降火湯など
腎陽虚の場合は平喘顆粒(蘇子降気湯)、双料参茸丸、金匱腎気丸+参かい散(人参と蛤かい)など
蛤かいはオオヤモリの尾で、補肺益腎・納気定喘(肺と腎を補い、吸気を納めて呼吸困難の状態を改善する)の働きがあります。また、冬虫夏草は補肺陰・益腎陽に止血化痰の働きがあるので陰虚にも陽虚にも使われます。
呼吸法で息を丹田まで深く吸むというのを聞いた事があるよ。
コーラスの時も深く吸い込むから腹式呼吸だよ。
丹田は臍下三寸で腎と関係してるのよ。
哮証のように潜伏している痰がある時は脾も重用です。脾は『生痰の源(痰を生む源・・・痰の製造場所)』といわれます。さらに、肺とは相生(母子)関係です。食べ過ぎ、偏食などが誘引になって喘息をおこしている場合も多いです。肥甘厚味のものは痰をつくるので控えるほうがいいです。
肥・・・油(脂)っこいもの
甘・・・甘いもの
厚・・・濃い味のもの
脾虚痰湿がある時は健脾化痰の六君子湯・ストレスがあれば理気薬が加わった香砂六君子湯がよく使われます。もちろん肺が弱い(肺虚)の時もあります。それともう一つ、わがままな肝のせいで喘息がおきる事もあります。特徴は喘息が精神的なものから誘発されるということです。これを肝気横逆、肝気犯肺といいます。
緊張すればするほど咳き込んだりする経験がある人もあると思います。またストレスによってむせて咳きがでて言葉を続けられないような場面を見た事のある人もいると思います。いずれにしろ体質改善は必要だと思いますが 気長に時間をかける必要があります。
2007年9月ブログ暮らしの中の中医学より
肺虚とは
①肺(形態としての)が足りない(弱い)
②肺の働きが足りない(弱い)ということです。
肺は嬌臓(よわよわしい)といわれます。いつでも呼吸を通じて外界とつながっていて邪気を受けやすいからです。空気中の細菌かび・ほこり・排気ガス・タバコの煙・花粉など・・・鼻水や痰は不要なものを排泄する防御機能ともいえます。体内に悪いものを入れないように粘膜に抗体があってブロックしています。中医学では邪気を入れないようにする力(気)を衛気といいます。鼻や喉は肺のグループでその粘膜は肺衛といって防御壁です。肺虚で衛気不足だと防御機能も弱く、風邪を引き易い・喘息・アレルギー性鼻炎、その外にもウイルスや細菌など邪気の侵入によってかかる病気になりやすいといえます。
肺の大事な働きは呼吸です。人は呼吸できなければ生きていられません。呼吸は身体の営みになくてはならないのです。宗気という気は肺自身の呼吸の働きや心臓の駆血力をはじめとする血の運行の動力となる気です。肺は宗気の生成にかかわっています。肺で吸収された気と脾胃の運化作用によって飲食物から得た水穀の気が合わさって宗気がつくられます。ですから『肺は一身の気を主る』といいます。肺虚だと呼吸が弱いばかりでなく、宗気の生成も減り、血の運行も支障がでます。
肺と心臓は肺静脈・肺動脈でつながっています。身体中に酸素をはこんできた血液は使用済みの二酸化炭素をもって心臓にかえってきます。それを心臓は肺に送りだし、血液は二酸化炭素を酸素に交換してもらって心臓にかえってきます。中医学の考え方でも『肺の呼吸』と『心の血脈を主る』ということが宗気を通じて関係しています。
肺は宣発粛降を主る
また、訳の解らない言葉がでてきたが何となくイメージはできますか?宣発は外・上に向かう感じで粛降は内・下に向かう感じがします。息を吸ったり、出したりも1つです。他には 宣発は外・上ですから全身や体表部へ向かって発します。何を発するのでしょう?それは脾で輸送された津液や水穀の精微や邪気から身体を防衛する衛気とかです。また、粛降の方は内・下ですから津液や水穀の精微が五臓に向かいます。肺は五臓の中で一番高い位置にあります。ですから その働きがわるくなると大変!咳や鼻水、鼻づまり・汗のかきすぎや無汗・浮腫みなどの症状がでます。
宣発作用は水液を全身に散布し発汗と関係しているし、粛降は腎、膀胱に水液を降ろす働きで水液の排泄と関係しています。これを肺は水道を通調するといいます。宣発機能が失調し、汗が出なくなると体温調節ができなくなり熱がこもりるし、浮腫みがおきます。また粛降作用が失調すると尿の出が悪くなったり、浮腫みが出たりします。ですから肺気虚の人は浮腫み易く、湿度が多いのは苦手です。梅雨や秋雨の頃や台風の来る前などは喘息発作がおきやすかったり、痰が絡んで来たり、身体がおもだるかったりし易いです。
尿の出が悪いと普通「膀胱かな?腎臓かな?」って考えます。中医学漢方では肺や脾も関係しています。
①肺の通調水道の働きは?
②脾の運化は?(栄養や水分の輸送の働きの事です。)
③腎の水液を主る働きは?
(その外 膀胱・腸・三焦など水液代謝にかかわっています。)
肺虚で機能面が弱いと呼吸が弱い、浅い・病気にかかりやすい、浮腫み易い・発汗の調節が悪い・・・などの症状がでます。では肺虚で物質面の不足は肺陰虚といいます。肺陰が不足しているとは、肺のグループの潤いが不足しているという事です。つまり粘膜があれて、刺激に弱くなっている・乾燥ぎみ・痰はでないか水分が少ないため粘って出しにくい・・・などの状態がでてきます。肺は呼吸ばかりでなく、外邪に対する免疫力や血の巡りに対しても役目をはたしていることが解ったと思います。
余談ですが、今朝のニュースで昨日の白鵬の取り組みの事を、“相手の力士がなかなか手をつかないので、白鵬は怒って力が入り、あぶなげなく勝ちました。”といっていました。中医学的にいうと『怒により肝が実し、力が入った(エネルギーがどっと流れた)』といえると思います。気持ちと肝は関係しています。目を見開いて相手をにらむのは怒によって肝を実しさせようとする動作です。「興奮してしまって」としきりに反省していましたといっていましたが、取り組みに際してはこの強い気の働きは大事です。
がんばれ!!
2007年9月ブログ暮らしの中の中医学より