病気と漢方

2007-12-01

「インフルエンザの季節でやだよね。」
「インフルエンザに麻黄湯が効くんだって!」
「違うよ。葛根湯だよ。テレビでやってたもん。」
「おばあちゃんが麻黄附子細辛湯をだしてもらっていたわよ。」
「天津感冒片一番いいんだよ。」

 ちょっと、みんな待って!

病気と方剤を結びつけるのはよくないことなんだよ。
麻黄湯は表寒表実で無汗の時
葛根湯は風寒表証で無汗で後背が強張る時
麻黄附子細辛湯は陽虚の風寒表証の時
天津感冒片は銀翹散加減なので風熱犯衛の時に用いるのだよ。

 風熱は犯衛って?

衛は肺衛の事だよ。
外界とつながっている肺に邪気が侵入しないように防衛する場所。つまり鼻の粘膜や咽などだよ。
つまり風熱の邪気に咽や鼻が犯された時と言う事なんだよ。

 インフルエンザに効く漢方というのを西洋医学的なデーターで使うのは過誤のもとだと思います。人のウイルスに対する反応は1つではないからです。中医漢方でいう風寒型・風熱型・風寒挟湿型・風熱挟湿型・風燥等々 例えば臨床データーによって麻黄湯がインフルエンザに効くという事になると、誰彼かまわずインフルエンザに麻黄湯を出す事になります。

 麻黄湯は発汗力のつよい方剤です。対する虚弱の人は汗の出すぎで体力をさらに消耗してしまうという事になりまねません。その中に陽虚の人がいてこの方剤を飲んだらどうなるでしょう?麻黄附子細辛湯のような陽気を補助しながら発汗させる方剤でさえ書物は汗の出方に注意するように呼びかけています。『陽虚の時は本当は発汗してはいけない! だけど、始めに発熱がある時はやむえず発汗する。』発汗の仕方が袪邪と扶正(正気を失わないようにしながら邪気を除くか)のポイントになります。

 次の文章は麻黄附子細辛湯について「名医の経方応用」の中からとったもので、漢方用語がわかりにくい所もあるとは思いますが、感じはつかめると思います。

 『附子がないと元陽が固めたれず、少陰の津液が溢れ出て、太陽のわずかな陽気も外へ失われ、生命の危険を生ずる。』

 それでは どうしたらいいのでしょう?まず自分の体質と邪気の性質を把握する事です。インフルエンザのような重い伝染病を癘気と呼ぶ事もありますが、風寒暑湿燥火の六気と関連した六つ邪気(六淫)で考えます。するとインフルエンザも発病が急でし、変化しやすい、鼻水 鼻づまり のどの痛みなど上部に症状がでるど 風邪の性質を持つ事がわかります。つまり一般感冒と同じに風寒・風熱・風湿で考える事ができます。ただ症状は急激で重篤ですから より強い力で対応しなくてはならないと思います。

 風寒型はゾクゾク寒気が強いタイプで、風熱型は咽が腫れて、熱っぽく、わずかに寒気がするものです。湿がからむと胃腸炎を伴います。炎症性のものには清熱解毒の物が必要です。身体に虚がある時(特に陰虚・陽虚・気虚の時)は発汗に要注意で、扶正解表と言う方法で虚を保護しながら、発汗します。風熱型には天津感冒片で 清熱解毒の働きで発汗はそれほど強くありません。

 風寒型には体質を考慮した方剤を使います。表虚と表実はちがいます。湿がからむ時は勝湿顆粒をくわえます。なるべく、邪気の勢いが強まらないうちに、身体を応援して邪気を追い出す事が大事です。風邪でうつりそうで心配な時は玉屏風散(衛益顆粒)と板藍茶がお勧めです。

 風寒に用いる桂枝湯・麻黄湯・葛根湯・麻黄附子細辛湯は傷寒論の中の出てくる方剤です。これはとても古い時代の書物です。また風熱型に用いる銀翹散(天津感冒片)は温病学にでてくる方剤です。明・清の時代の書物で、都市化が進みインフルエンザのような急性熱性病が出てきたことに対応して発展した学問です。この温病学の理論体系の基礎をつくった葉天士は1700年前後の人物ですから、日本の江戸時代です。ですから日本の漢方には温病学の考えは取り入れられていませんでした。

 *1999年3月発刊の『中医臨床』にインフルエンザの事が載っているのでご紹介します。

 この年の冬、日本でもインフルエンザが流行しましたが、北京でも大流行でした。そのインフルエンザの特徴は

・39℃以上の高熱
・頭痛
・筋肉痛
・鼻耳咽や目の痛み
・激しい咳
・倦怠感
・舌紅、苔黄
・浮数有力の脈・・・外寒裏熱証

・咳痰・悪心、嘔吐
・下痢・弦数の脈・・・肺経兼少陽経の病変

 でした。これに対して温病から考え『冬温』の病に属した温疫病とみています。

麻杏甘石湯+小柴胡湯+金銀花・連翹(加減)
銀翹散+三拗湯+昇降散(加減)

 などを中心に用いたそうです。予防には板藍根を含む数種類の清熱解毒薬+疏風薬でつくられたものが使われています。早期の服用によって重症化が避けられたとなっています。

「難しいね。」
「インフルエンザにこの方剤というのでなく、まずは「熱か?」「寒か?」が大事なんだね」
「それに。虚がないかも知っておくのもね。」
「まずは板藍根で予防しなくちゃ」
「出かける前に一杯 帰ったら一杯だね。」

 急性熱性病において寒熱を知ることは重用ですが、寒熱が挟雑していて複雑な時もあります。また、病邪の位置は表から裏へ、衛から深い所に変化していきます。まずは、風邪(ふうじゃ)が入り口にいるうちに桂枝湯や葛根湯類や天津感冒片を使って追い出しましょう。

2007-11-01

 近頃は男性の更年期も取り上げられるようになってきていますが女性の更年期を漢方ではどう考えるのでしょう。

七七(49才)任脈虚し、太衝脈衰え少なし、天癸尽き、地道通ぜず。
故に形壊れて而して子無き也。

 更年期はこの時期です。9月のブログにもこの意味は書いてあります。更年期はこの時期です。 年をとらない人はいないわけですから、卵巣も同じで閉経をむかえます。腎は生長・発育・生殖を主るといい、腎気も衰えます。また腎に真陰・真陽があり陰陽のバランスの崩れは腎虚が原因している事が多いです。更年期を特になんにもなくすごす人もいますし、更年期障害に悩まされる人もいます。更年期の基に腎虚がある事は必ず考えに入れる必要があります。

 もう一つ大切なのは肝です。女性は血から衰えるといわれるのは月経によって血が失われると言う事があります。肝蔵血といい肝は血の蔵、血を貯蔵する所です。血の不足により肝血虚・肝陰虚と言う状態になります。肝の血と腎の精は転化する(精⇔血)ことができるので肝腎同源とか精血同源とかいいます。

 また肝は疏泄を主る・・・の働きも失調します。疏泄とは、気(身体動かすエネルギーや情志)の働きの調節機能のようなものです。例えば疏泄の失調によって気が滞ると血を巡らすエネルギーも滞るのでお血になります。(気滞血瘀)ですから更年期障害の予防にはまず血を補う事が大切です。つまり肝腎が不足してくる事が更年期ともいえると思います。この肝腎不足の原因に脾が関わっている事もあります。

 脾は気血生化の源ですから脾がよわければ血も不足しがちになります。また気血を生むことによって後天的に腎精を補っていますがこれも不足しやすくなります。これらを更年期を迎える前から整えておくことが大切です。

 更年期の症状はいろいろです。

急にあつくなって汗がでる・顔のほてり・肩こり・頭痛・動悸・息切れ・クヨクヨ・イライラ・不安・不眠・疲労・痛み・・・・・
更に骨粗しょう症・コレステロール値が高くなったり・血圧が上がって来たりする方もいます。

 中医学漢方では根本原因は肝腎(精血)の不足と考え、それに伴う五臓・気血水・陰陽・寒熱などのバランスをみていきます。更年期に対しては、病気の本質にアプローチする本治と症状に対応する標治を同時に行う事がいいと思います。

「出かけた時血圧計があったので測ってみたら高かったんです。」

「どのくらいですか?」

「140もあったんです。140って高血圧ですよね。それに脈もはやかったんです。」

「安静にしてから測りましたか?。」

「がやがやしているところだったので・・・」

「だから高めだったのかもしれませんね。」

「でもこの頃、めまいや耳鳴りがしたり、時に、イライラしたり、胃腸の調子もよくなくて気持ち悪くなったりで、でも食べちゃうんですよね。メタボも心配!更年期かしら?」

「眠りはどうですか?」

「寝つきが悪いです。 それと時々動悸があります。それに以前より恐がりになってる気がします。」

「生理はどうですか?」

「量は少なくなっているし、来ない月もあります。腰が痛くなりやすいし、粘ったおりものが少し多いかもしれません。」

 この症状から2つの事が考えられます。1つは痰熱があり胆胃不和、もう1つは血虚・腎虚です。方剤は理気化痰・清胆和胃の温胆湯と滋腎養肝・明目の杞菊地黄丸がいいです。

 私も更年期の最中です。多少ホットフラッシュがある事はありますが、特に更年期障害といわれる症状はありません。もちろん、漢方薬は使っています。バランスが悪くなりすぎないうちに処置する事が大事です。

 更年期が老化の過程です。老化しない人なんていません。若若しくいると言う事すべてが、女性ホルモンのおかげというわけではありません。バランスのいい食生活や睡眠や運動が健康と若さを応援してくれると思います。

 肝腎は老化と深い関わりがあります。腎の陰陽は真陽・真陰で、腎陽は命門の火・腎陰は命門の水といわれます。更年期障害のない人も肝腎を補うことは将来に向けても意義のある事だとおもいます。できれば、五七(35才)になると腎気が充足が減りはじめるので、その頃から更年期に備えるといいと思います。

2007-11-01

 風邪をひいたので漢方薬を飲みたいのですが 赤い風邪・青い風邪とかで分けるのを聞いた事があります。それは風邪(ふうじゃ)に伴ってくる邪気に寒熱の違いがあるからです。また人にも陰陽の偏りある事も多いです。症状の現れ方が熱証がつよいか寒証が強いかで異なります。赤い風邪は熱っぽい咽が赤く腫れて痛むなど熱証の風邪のことで、青い風邪はゾクゾク寒気が強い寒証の風邪の事です。風邪のひき始めはまだ風邪が体表部にあり身体の正気と戦っている状態です。(邪正相争)この時期に身体をバックアップして風邪を外に出そうというわけです。

 発汗は重用なポイントで解表剤をつかいます。

 『(邪が)その皮にある時は、汗してこれを発す』

 風熱の邪に対しては辛涼解表。風寒の邪に対しては辛温解表という方法で対抗します。また、体質が虚弱な人には身体の内側をフォローしながら発汗する不正解表という方法を使います。

 よく知られている葛根湯は青い風邪(風寒型)の時です。葛根湯とはどんな方剤でしょう?『太陽病、後背強几几、無汗悪風、葛根湯主之』邪がまだ体表にあって(風邪のひき始め)、後背部がこって、汗がなく、寒気がするものは葛根湯がいいです・・・という意味です。

 汗が出ている時は桂枝湯を使います。

桂枝湯→ 桂枝 生姜 炙甘草 白芍 大棗
葛根湯 → 葛根 麻黄 桂枝 生姜 炙甘草 白芍 大棗

 黄色の部分は解表剤で発汗の働きがあります。赤は温で青は涼です。麻黄と桂枝を合わせると発汗力は大になります。汗のかき方はとても重用です。発汗しないと邪を閉じ込める事になるし、発汗しすぎは身体の気や陰分がもれ出てしまうからです。

寒い!風邪かな? 葛根湯
汗ばんでる(自汗タイプ) 桂枝湯

 また麻黄湯という方剤があります。

麻黄 桂枝 杏仁 炙甘草・・・麻黄湯

 方剤学では風寒表症の表寒表実の状態を主治するとなっています。正気が虚していないため、風寒の邪気の侵入によって、体表部での邪気と正気の戦い(邪正相争)が強い状況です。その為悪寒し、門を堅く閉ざしてしまう為無汗となります。汗は肺の宣発という働きによってなされていますが、表が閉ざされ肺の働きも失調します。つまり、ゾクゾクと寒気が強く、節々が痛み、汗がでてなければ麻黄湯がききます。しかし、服用し汗が出た後はもう服用しません。麻黄湯は発汗効果の強い方剤なの注意も必要です。

 『開表逐邪発汗の峻剤』ともいわれます。

 ですから青い風邪には葛根湯を服用するのがいいと思います。でも昨日も書きましたが、葛根湯も麻黄+桂枝なのを忘れず発汗しすぎないよう注意しましょう。

 赤い風邪(風熱型)には銀翹散(天津感冒片)です。辛涼透表・清熱解毒の働きがあり、主薬は金銀花・連翹です。辛涼透表とは身体を涼しくしながら邪気を体表部まで連れてきて、辛い味によって発汗し外に出すという意味です。天津感冒片は銀翹散から芦根を去って羚羊角を入れたもので熱さましの働きが強化されています。羚羊角は散血解毒の働きを持ち温熱病による高熱・意識障害などに用いられるとなっています。よく子供の夜泣き・疳の虫・ひきつけなどの宇津救命丸にも使われています。

 『温邪は上の方を襲い、まず肺を犯す』といいます。

 だから赤い風邪(風熱型)では風熱の邪が口や鼻から侵入し肺衛(風邪の侵入を防ぐ場所である鼻や咽の粘膜)や肺系がやられます。ですから、急に冷え込んできて風邪をひいたようなときは風寒型が多く、呼吸器系を通じてうつり急速に症状がでるインフルエンザは風熱型が多いといえます。

 清熱解毒という言葉で解毒の毒は風邪の場合はほとんどがウイルスです。毒は細菌やウイルスを指す時もあるし、免疫異常の免疫や癌やアレルギー反応をおこす抗原など、身体にとって悪い影響をひきおこすものに毒と表現するようです。だから痰湿・瘀血も毒と表現される事もあります。

 くりかえしになりますが、正気 が虚している場合は扶正虚邪という方法です。正気の不足が

気虚ならば益気しながら発汗します。
陽虚ならば補陽しながら発汗します。
血虚ならば養血しながら発汗します。
陰虚ならば滋陰しながら発汗します。
正気は邪気と戦う戦士です。

 戦士には水(陰)食料(血)パワー(気・陽気)が必要ですから欠けているものがあれば補充しながら戦います。これは風邪のひき始めの対処法です。長引く場合は病位も考えにいれるなど複雑です。また、治ったと思ったらまたひいてしまうとういう状態をくりかえす時は衛気虚で防衛力不足です。普段から衛気を益する衛益顆粒を服用しましょう。

« 次の記事へ 前の記事へ »