その他の病気

2008-09-01

パンダ② 一般に動悸というと心臓がドキドキする事をいいます。みぞおちの所や脇腹のドキドキを動悸と言う方もいます。中医学では心臓のところを心悸、それより下の部分を心下悸といったりします。悸はわななくと読みますが心が恐ろしくふるえている状況といえます。心は心臓や心(こころ)の事です。心は血脈を主り、神(物事を考える能力)を蔵します。心の異常は『心主血脈』の異常や『心蔵神』の異常につながるわけです。びっくりしたり、いやな事があったり、緊張したりでドキドキするのは自然なことです。でも、そのドキドキがなかなか止まらなかったり、なんでも無い時にドキドキしたりは心に問題があるといえます。

 身体は気血が充実していることが大切ですが、心という臓器も同じです。血は滋養・気はエネルギーです。血が不足すればこころも弱くなって、不眠 健忘などがでてきやすくなります。また気が不足すると駆血力が低下します。ですから心臓のポンプの働きも弱って、血の巡りも悪くなります。

 回中電灯の乾電池が弱くなってくると ついたり消えたり安定しません。豆電球自体が弱まっても、電球と乾電池を結ぶルートの接触が悪くても、電池はエネルギーで気・豆電球は物質面で血です。また、ルートの不良はエネルギーがスムースに流れないと言う事で気滞です。

 心臓の拍動は気の推動力によってなされているわけですから、エネルギー不足(気虚)でもエネルギーの送られ方がスムースでなく(気滞)ても心臓自体が動脈硬化(瘀血や痰湿が原因する)などで器質的な面で弱っていても(血虚・陰虚)動悸になります。身体が疲れていたり、病後だったりする時に動悸がし易いのは身体の気が不足しているからです。神経が疲れている時に動悸がするのは気の消耗と停滞があるからです。

 不整脈など心臓の所に感じる動悸は心に問題があります。心臓だから『心』というのは当たり前なようですが、漢方の考え方では心臓でも『腎』に問題がある時もあります。五臓は影響しあっているので、中医理論をしっかり把握して考えなくてはなりません。心に問題があるときは『こころ』にも問題がでてきます。心は神を蔵す。神は精神活動の根幹のような存在です。心の気や心の血が不足すれば神も安定する事はできません。

ワー!と驚かされて、ドキドキしてしまうのは神も乱されて、心も乱れるからです。

 中医学では心臓の所の動悸を心悸といって6のパターンに分類しています。心虚胆怯・心血不足・陰虚火旺・心陽不振・水飲凌心・心血瘀阻の6つです。

心が虚して胆も虚しているので怯えやすい状態・・・ちょうど驚かされてドキドキするような感じです。

 ですから不安感を伴います。もし この状態で胃の調子が悪い時は、痰熱がある場合もあります。この時は温胆湯を服用するといいです。

 心血の不足や心陰の不足は心の栄養不足です。身体は栄養や酸素が必要です。いつでも滋養されていなくては生きていけません。血が滋養できなければ組織は死んでしまいます。心臓も同じです。心血虚や心陰虚の心臓は「酸素や栄養が足りないからもっと運んでよ」と言って脈拍をはやくドキドキさせて足りない量を送りこもうとしています。

 心陰の不足は血や水分など物質の不足のみならず陰の持つ抑制的な力も不足するのでドキドキに拍車がかかります。心血瘀阻も瘀血で血がスムースに行かない状態ですから、酸素や栄養不足で心臓はヒーヒーいってます。では心血を補う、心陰を補う、活血化瘀薬で血脈を通じさせるなどは、とても大事だと言う事がわかります。

 最初に書いたようにエネルギーの不足は動悸につながります。エネルギーの源は腎にある元気です。

元気ですかー?という元気という字は気の元とかきます。

 腎の元気は『先天の精』からでき、脾によって水穀できる水『穀の精微』によって後天的に補充されます。腎のエネルギー(陽気・元気)は身体を成長発育のエネルギーであり、身体を維持する根本的な力といえます。この精の貯えがへり、腎の気を作るもとが足りなくなってくると、全身的なエネルギー状態が悪くなり、代謝も落ちて身体が冷えやすくなり(特に下半身)水分も停滞し、浮腫みもでます。心臓のポンプの働きも弱まって、規則正しい拍動を維持できなくなったり、結滞したりします。浮腫みの出る状態も もとに陽気不足があります。

 心陽不振は心腎の陽気が不足している状態で水飲凌心は陽気の不足の為 水が代謝できず、陰邪の水が停滞しているため、さらに心陽は不足する状態です。漢方からだの現象をとらえるとき、陰陽 五行は重用です。それは自然の世界とも共通している考え方です。

2008-05-01

熱があるようですね。
え?私熱ないです。
体温の事をいってるわけではありません。

 病気をおこす原因に六淫(風・寒・暑・湿・燥・火=熱)があります。熱(火)はどんな性質をもっているでしょう?火はメラメラと上に向かって燃えていきます。乾燥は火の勢いを増し、火の勢いがつよいと水分をどんどん飛ばし乾燥します。物は燃えて真っ赤で、物質的にも変化していきます。物は焼けて消耗しなくなっていってしまいます。

 また火は対流をおこすので、風になります。身体の中の火の原因はいろいろ考えられます。ウイルスや細菌の感染が火元の場合もあります。ストレスが原因の場合もあります。精神的ストレスは意識できると思いますが、積極的に自分の意志でつくりだす過労状態は意識できない事が多いと思います。人の身体の注意信号である疲労感は達成感によって隠蔽されやすいものだそうです。火はエネルギー的なもので燃えりには燃料がいります。火と燃料のバランスも大事です。人の身体は自然の世界に存在し、その法則があてはまります。火は燃えすぎれば消耗します。

 また 火が強くなりすぎると、火が火を呼び燃え広がって燃料を焼き尽くします。とてもちょっとやそっとではおさまりません。ストレスで イライラ・カッカ・怒りっぽいなど火の有る状態です。ストレスにより気の停滞がおこっている状態(肝の疏泄作用)が失調していますが『肝気鬱結』といいます。

肝鬱は火に変化します。・・・肝鬱化火

 これは体質にもよります。陽性の体質(身体が陽の方に傾いているタイプ)は化熱し易いといえます。また、同じストレスを受けても身体や心のダメージは人によって違います。ストレスがあっても上手にかわせる人もいますし、まともにガッチリ受けとめてしまう人もいます。肝鬱が化熱し火になると乾いてより消耗しやすくなります。身体の中の事が外に現れてくる事も多いです。

 皮膚の紅潮・紅斑・出血斑など、赤は火の色です。火は身体の奥深く血分に及んでいそうです。原因は発熱・ストレス・過食・偏食(辛いもの・刺激のあるもの)・陰虚(潤いや身体の基盤の不足)・過労など色々考えられます。血熱なら不眠や落ち着かないなど心の症状も伴う事も多くみられます。身体の火が炎上するのは、どんどん燃えて歯止めがかからない恐さがあります。すべて焼き尽くせばもう火もなく物質もなくただ 冷え込むのみで生命の火もつきてしまいます。

 火の勢いが強ければ、見合うだけの力で対抗すべきです。なまじっかな量では対抗できません。燃え盛る火に対してチョロチョロ水をかけていても、無駄に等しい時もあります。漢方の場合、そのときは思いきって清熱の漢方薬や漢方茶を総動員して消火にあたらなければなりません。また、消耗した分も補わなければ身体がもたないので、滋陰清熱も必要になる事も多いと思います。火を見た時は火力と消耗の度合いをしっかり考慮すべきです。

 機関車は適度な火力で走ります。火力オーバーでは暴走します。身体のサイクルの“行きすぎ”や“早い”という感じは火が大きいとみます。例えば生理周期が短い・脈は早いなど余分なエネルギーが働いている状態も火です。免疫異常も火が多い進行性の病気も火が多いと思います。ただ退行的に進む場合は虚が多いと思っています。火も虚から生じた虚火な場合もあります。火は命のエネルギーですが、命の火の源も保持しつつがよいのです。

2007-07-01

 微熱がつづきいているし、咳もでているので病院にいってみたら肺炎をおこしていた・・・という時もありますがなんでも無い時もあります。検査でなにもでてこない。すると、自律神経かな・・・などと言われたりします。漢方で考えるとどうでしょう。内傷発熱という言い方があります。

内傷発熱・・・内側が傷ついている為に熱が出ているという事

 実際に熱がでている事もあるし、熱っぽさを感じているだけの時もあります。風邪のあと微熱がつづいています。

「そういえば顔色が青いですね。」

「・・・・・・・」

「熱っぽさは?食欲は?」

「寒気がしたり、熱っぽくなったりしてます。口が苦くおいしく感じないし、あまり食べたくないです。」

「邪が少陽にあるようです。」

 邪在少陽とは・・・外邪(風邪)を中にいれないように門の所で、戦って追い出していたのが、とうとう玄関に上がりこんでしまった。という感じで、まだ座敷には上がりこんでない状況です。

 小柴胡湯を中心にした方剤を選びます。中に入っている柴胡は邪気を玄関から門の方に引っぱっていって追い出す役目をします。戦った結果、こっちの戦力が弱まってしまって邪が中に入ってきちゃったわけですから、中を整えて戦力の回復もはかるような処方構成になっています。

柴胡桂枝湯・柴朴湯・柴苓湯・・・これらは皆、小柴胡湯の入っている漢方薬です。

 邪気がなく微熱がつづく場合もあります。脾胃の虚による発熱を気虚の発熱といいます。この時は補中益気湯を使います。脾胃の虚(脾胃の弱りによる不足)によって熱がでているので、不足を補い温めて熱を除く・・・という方法です。

 甘温除大熱の方剤といわれています。甘いもので温めると熱がとれるなんて不思議な気がしませんか?

 李東垣という歴史上の人物がいます。発熱には外感(外邪によるもの)と内傷(身体の内側の弱りによるもの)があるとし、陰火と呼ぶ脾胃の虚による発熱を提起しました。

「元気かえりつくところなければ、陽(気)浮きて則ち条熱するなり」

 といっています。元気は原気とも書き『気の元』です。

 これは腎にある先天の精が変化して生じたもので、脾が水穀から取った後天の精によって補充されます。脾胃気虚により後天的は先天を補充できず原気はよりどころを失うという意味だと思います。だからその熱は虚火なんです。

 虚火は身体の弱りによって出る熱のことです。実火と対照的に表現します。

「風邪を引いて39度も熱がでちゃった」これは実火です。

 
 若く体力のある人が怒りっぽく、顔色も赤く、イライラしている・・・のも実火です。日焼けで真っ赤でヒリヒリ痛い・・・のも実火です。補中益気湯を使う時は脾胃の気虚による虚火です。脾胃は飲食物をこなし水穀の精微(微細な成分)として身体を滋養します。つまり気血津液を生成して五臓を滋養し潤わします。この働きがうまくできない・・・脾が虚になる為に熱が出るのが虚火です。李東垣は外感と内傷の弁別を説いていますがとても重要なことです。

 以前読んだ、チャングムの本の中にも補中益気湯はでてきていました。黄帝の病が重く、宮廷医の処方では回復しないのでチャングムが呼ばれました。宮廷医は外感とみたてていたからです。チャングムは脾胃の虚による内傷と弁証し補中益気湯加減を処方します。すると病状は日増しに回復してくるという話です。老中医の診察室という小説のなかにも李東垣の陰火とみたてて、難治性の病気がよくなる話がでてきます。

「微熱があって、めまい、だるい、動悸もするし・・・」

 血虚の微熱で内傷の発熱です。帰脾湯(錠)を飲みましょう。陰血の不足の為、陽を留めておくことができずに発熱をおこします。気血を作る源の脾を補っいながら血を養い、心を穏かにします。血虚は貧血も含む広い意味で滋養が足りない事をいいます。動悸や息切れ、微熱も貧血から来ている事もあります。貧血の人はレバー・干しぶどう ・なつめ・枸杞のみ・ひじきなど積極的にとりましょう。またヘム鉄のドリンクのアスリーブもいいです。

 その他、午後になると、あるいは夕方から夜にかけて熱がでる時は陰虚による発熱のことが多いです。陰虚とは陰が足りないということです。前にも書いたように身体の物質面は陰に属します。血や精や津液の不足(陰の不足)により、水・寒・降・内・暗・・・などの陰のもつ性質も不足し、相対的に虚の陽がでてしまいます。

 陽は気(エネルギー)で火・熱・昇・外・明・・・などの性質をもちます。陰陽のバランスがいいということはお互いに抑制しあって平衡が保たれている状態です。この陰の不足によって出た熱もまた虚火です。瀉火補腎丸(知柏地黄丸)を使います。気虚もあれば麦味参顆粒を併用します。また内傷発熱には肝経鬱熱や瘀血阻滞の発熱があります。

 黄帝内経という書物は紀元前にかかれたもので、漢方家のバイブルといえる書物です。李東垣も「内経』の「労者温之、損者温之」を根拠にし、補中益気湯は考えられたようです。このなかに病気を治すには、まず邪気の陰陽を見分け、病が内にあるか外にあるか確定すると書いてあります。

発熱1つとってみてもそれが外邪によるものか?
また原因が内にあるのか?

・・・外邪がさったのち内にのこる事もあるし・・・その見分けは重要です。熱=解熱剤ではないからです。解熱剤は現象に対して用い、漢方は病因を求め使います。

 黄帝内経は紀元前86年頃~紀元前36年くらいの間に形が整ってきたようですが、気が遠くなるほどの昔です。病と戦ってきた智恵者たちの業績のうえに今の漢方があります。

漢方=漢方薬でなく  漢方=理論です。

 理論なくして漢方を生かすことはできません。また『陰陽の平衡』は重要です。身体全体を1つの世界ととらえ平衡を保つための生活・食と共に漢方薬があります。つまる養生の中に食も漢方もあるといってもいいと思います。平衡を保つように漢方利用しなくては意味がありません。養生をして平衡を保って病気が癒える身体をもつ努力をすることが大事なのだと思います。

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