漢方療法と特徴

2007-10-01

「また、不規則にしてたらニキビが痛くなってきちゃった。」
「五涼華という名前の漢方茶がでたよ。飲むといいよ。」
「フラーリンQ(当帰芍薬散加減)や五行草茶と一緒でいいの?」
「もちろん!」
「五涼華ってステキな名前ね。」
「5種類の花の咲く植物でできているのよ。」

 たんぽぽ・忍冬(金銀花)・野菊・すみれ(紫花地丁)・イヌホウズキ(竜葵)涼しい華という名前の通り、余分な熱をとってくれるお茶なんだよ。ニキビは悪化すると紅く腫れて熱もってくるから、このお茶を飲むといいよ。ニキビ以外にもいろいろ使えるけど・・・・

「にがーい!!!」
「そのままのまないで  お湯に溶かしたらいのに。
お湯の量を増やすと苦くなくて飲みやすいよ。
豆乳を加えても苦くなくなるし。」
「うん。薄めると飲み易いね。」

 中医学(漢方)の皮膚病に対する考え方、漢方薬の使い方は西洋医学とは違います。何の病気という病名診断から入るわけではありません。皮膚の状態・体質・邪気・病位などを考察して、漢方薬を決めます。例えば急性の痒みを伴うようなもの(急性蕁麻疹や急性湿疹など)は風邪によるものと考えます。だから風邪を追い出す事を主にします。

 いろいろな症状のうち毒熱過盛、化膿性皮膚疾患に分類される状態があります。例えば 癰・疔(おできなど)・虫刺されの炎症・リンパ管炎など、またニキビも紅く腫れるとこれにあたります。張志礼先生の医案によると、この時は金銀花・連翹・蒲公英・紫花地丁・赤芍・敗醤草・野菊花・大青葉(板藍根と同じ植物の葉っぱです)・馬歯けん(五行草)・竜葵などの清熱解毒の働きを持つ植物を使います。

 また重症には牛黄粉をくわえ、潰瘍が治りにくい時は黄耆を加えると書いてあります。

「ワーイ!!これでニキビバイバイだ!  さっそく五涼華をかってこよっと。」
「ちょっと待って!!ちゃんと相談してからでないとだめだよ。」

 清熱解毒の植物は五涼華だけではありません。五行草茶(馬歯けん)・板藍茶(板藍根)・白花蛇舌草・連翹など他にいろいろあります。またワグラスD(排膿散及湯加減)でよくなった経験を持つ人もいます。また紅く腫れるタイプのニキビでなければ清熱解毒はいりません。

何故、ニキビができるのか?
何故、皮脂分泌が異常になっているのか?

 考察しなくてはいけません。五涼華の中の植物を中薬学の本でみると“実熱火毒のみに用いる”と書いてあります。実熱火毒ってどういう意味でしょう? 実熱火毒っていうのは、熱が出たり、紅く腫れるなどの炎症をひきおこしたりする熱性の邪毒(細菌や蜂の毒など)にやられている状態のことだよ。

「アトピー性皮膚炎でも紅くなっている時は飲んでいいの?」
「いいよ。ただしアトピー性皮膚炎の人は体質の弱さから症状がでているので、そこを考えないとね。 たとえば脾胃気虚の人も多いので、苦くて冷ます物は健脾しながら飲まないとね。」
「じゃあ 飲まない方がいいってこと?」
「そんな事はないんだ。皮膚のバリアが弱いため、外邪にやられ易いので清熱解毒の物も必要なんだよ。」
「なるほど。脾胃を守りながら飲むってことなんだね。」

 五涼華にタンポポ(蒲公英)が使われていますが、タンポポの根を炒ってタンポポコーヒーといってのんだ事がある方も多いと思います。漢方で使うタンポポは根を使う時も全草使う時もあります。使い道は同じです。

 実ははタンポポの事で、気になっている事があります。産後お乳の出の悪い時にタンポポ茶を飲むようにすすめられた人も多いと思います。それは通乳(お乳の道を通じさせ出るようにする)という働きがあるからです。中薬学で“通乳に働き乳癰の要薬である”となっています。乳腺炎でしこりを生じ痛みがありお乳がうまくでない時はおすすめです。

 でも、血虚で体力がなくお乳の生成が悪い時はちがいます。産後が冷やさない方がいいわけですから、熱や炎症がないのにやたらにタンポポ茶を飲むのは心配です。冷ますものは熱や腫れなど熱証があってはじめてつかえます。打ち身で紅く腫れあがっている時は氷で冷やして気持ちいいとおもいます。でも、なんでもない所を氷で冷やしたら冷たくて痛いでしょう。

 いつも書いている事ですが、漢方は身体の向きにあわせて使います。漢方茶も同じです。

2007-08-01

 先週『老中医の診察室』から木克土で腹痛を治療した話をかきました。

木と土は相克関係にあります。
木が土を抑える関係です。
木は肝、土は脾です。

 肝は疏泄を主るといって気の巡りを調節する働きがあります。肝は疏泄を主るといって気の巡りを調節する働きがあります。また、脾は運化を主る(食物の消化・吸収、栄養や水分の輸送の事)といい胃腸の働きと関係しています。肝が失調して過亢進になってしまうと脾の働きを抑えこんいるという事を木克土と表現しているわけです。この時、抑えこまれて弱っている脾をいくら補ってもうまくいきません。実している肝を治療するのが先決です。

 五臓は関係が強い部分とそうでもない部分とあります。五臓の性質にもよるのかもしれません。臓腑は実でも虚でもよくありません。平がいいのです。

 五志と五臓の関係は

肝 怒
心 喜
脾 思
肺 悲
腎 恐  です。

 五行の相克の関係を利用したこんな話があります。昔、偉い漢方医のところに老人が訪ねてきました。娘が行商に出て帰ってこない夫のことを思い悩んでばかりいます。食欲はなくなり、衰弱して、あれこれ薬を飲ませて見ましたが一向に効きません。

では こうしてみましょう。ふむふむ

老人は家に帰ると娘 に「おまえなんか大嫌いだ!こんな物はこうしてやる」といって娘が大事にしていた夫からもらった物を外に放り出しました。

まーお父さんなにするんですか!まったくひどい事を!(怒)プンプン! プンプン!

少し元気が出たようです。そこで「婿さんはもうすぐ帰れってくるらしいときいたよ」そう言って食欲の増す漢方を与えました。

娘は日増しに元気になったそうです。

 脾が実になって思が過度になったのを肝の怒を使って抑えたのです。

 季節の変わり目に咳がよく出るので、体質改善に補中益気湯を飲んでます。ぼくはアトピーで健脾散(参苓白朮散)だよ。わたしはアレルギー性鼻炎で、痰もからみやすいので香砂六君子湯飲んでるんだ。これらの病気の部位は肺です。でもこの漢方薬は皆脾を健やかにする働きがあるものです。肺と脾は相生関係で脾は肺を生む・・・つまり脾は肺の母です。母の病気は子に伝わるだから母が元気になれば子も元気になるというわけです。

 帰脾錠(帰脾湯)は 心脾両虚の動悸・健忘・不眠・食欲不振・微熱・倦怠感や脾不統血の出血に使う漢方薬です。心(こころ)をいためていろいろ考えすぎること(思慮過度)によって心(母)と相生関係にある脾(子)に伝わり食べたくない・だるいなどの脾虚の症状がでてきます。母病が子に伝わり、また子の弱りが母に影響するという状態で両方を補うような処方構成になっています。

 このように方剤の中にも運用されています。一般的に喘息は肺の病気・下痢は腸の病気・動悸は心臓の病気・・・と考えます。漢方では五臓の関連で考えるます。

例えば

「喘息です。息が吸い込みにくく、息切れしやすいです。」
「腎に問題があるのではないか?顔色も黒ずんでいるし・・・偏食はないですか?」
「お饅頭・おしるこ・かりんとう・ケーキ・ジュースなど大好きでつい沢山食べてしまいます。」
「やっぱり、腎に問題があります。甘い物の食べ過ぎは腎を傷つけます。」

 肺と腎は母子関係です。また甘は脾の味で腎とは相克関係です。味過於甘、心気喘満、色黒、腎気不衡。これは甘いものを過食すると腎気に影響するということです。この時 腎陰虚なら八仙丸中心に腎陽虚なら平喘顆粒(蘇子降気湯)、双料参茸丸、海馬補腎丸、八味丸などを柱に方剤を組み合わせます。おもしろいですね。一見、現実離れして見える五行の理論ですが、実際にそれでうまくいきます。この理論は実際に歴史の中で運用され淘汰されて現代に至ったものだからです。

 非科学的な感じ!そんなの不用なものだ・・・などといってると損すると思います。

2007-08-01

夫天布五行以運萬類、

人稟五常以有五臓。

 
 天は五行を生み五行が巡って万物が生じ、人は五常を受けて五臓を有した。

五行・・・木火土金水
五常・・・仁義禮智信
五臓・・・肝心脾肺腎

 人の存在のはじまりにおいて五行・・・五臓は大きな意味をもっています。少なくとも漢方の運用においてはとても重要です。

 五行にはお互いを助けたり抑制したりという相生相克の関係があります。木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水は木を生み・・相生の関係と 木は土を克し、土は水を克し、水は火を克し、火は金を克し、金は木を克し・・相克の関係があります。

 この関係により相手を助長したり抑制したりして、バランスが保たれています。以前書いたかもしれませんが『老中医の診察室』にこんな話がでてきます。2ヶ月も前から腹痛を訴えていて、いろいろ検査しても異常がみつからず、抗生物質・鎮痛剤・・・いろいろやってみたが効果がなく、中医難病科の老中医の所に来ました。症状はこうでした。

1、いつも鈍痛があり時々酷くなる。
2.部位は臍の周囲
3.発作は午後または夜おこり・・・
4.・・・・・
5・・・・・・詳しく問診・・

 それに望診、聞診、切診の四診を合せたところで、老中医はこういいます。「複雑な病態ではありません。木克土です。」肝気が脾を犯し、中焦の気機がスムーズに動かないため不通則痛で痛みがでた。と弁証しています。「気の気機は肝の疏泄と関係しています。肝は五行の風と関係しているので風の変動し易いという性質をもちます。病変部位は中焦の脾胃です。」この弁証によって処方を組み立て、2週間くらいで症状はとれ、1ヶ月くらいで完治しました。

 このように五行は漢方の方剤を運用する上でとても重要です。なぜなら、五行学説の運用によって実際に治療がなりたっているからです。昔の人が太陽を観察して『東から出て西に沈む』ものだと思ったのと同じで、自然と人間を観察することによって導き出された理論だと思います。

 春は肝の季節です。夏は心の季節です。などと言っていますが、五行との関係です。自然界・人体に関することを5つに分けて五行・五臓にあてはめています。

 例えば

五行の火は五臓の心と関係していますが 他に 夏・南・暑・赤・苦(み)・長(生長)・・・・人においては小腸・脈・舌・汗・面・喜・・・などです。
ですから夏は暑く植物の生い茂り、心の季節で血脈は盛んで顔色も血色が良い感じになります。
しかし火が盛んになりすぎるとオーバーヒートしてしまいますので注意がひつようです。
苦いものは心臓にいいとかよく言いますが、心火を抑えて燃えすぎないようにしてくれます。
また五行の抑制関係では水で腎です。
腎陰を補うと心の行きすぎが抑えられます。

 
 ちょっとわかりにくいですね。図解した方がわかりやすいかもしれません。興味のある方はお店でお聞きください。

 人も自然の仲間ですから、自然の影響をうけます。予防・弁証(診断)・養生・治療は季節・気候・気温も考慮します。五臓の相生・相克の関係・五行の分類、陰陽の平衡は判断の重要な指標です。そしてまたそれが漢方の醍醐味です。いうなれば、身体の平衡を保つことによって自然治癒力がどこまで発揮できるか・・・ということです。

 近年、漢方薬も西洋医学化して薬効で使われることが多いようです。それもありかもしれませんが、薬効を超えた体の力は引き出せないと思います。守りたい!!故人が残してくれた漢方の理論。   

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