漢方療法と特徴

2006-01-01

パンダ⑦ 虚火とは「真陰の損失により生じた熱性の症状」と辞典に書いてあることをそのままのせると余計何のことやらわからなくなりそうですね。つまり身体の消耗が進んでしまった為に生じた熱性の症状で午後に熱っぽくなったり手の平や足の裏のほてり、口が乾く、寝汗をかくなどします。舌は赤い・痩せている・苔は無い又は少なく、裂紋(ひび割れのような感じ)がみられます。

 虚火は消耗によって起こっている火なので瀉熱の方法は使いません。滋陰といって陰(血・精・津液)を滋養することによって虚火は治まります。貧血がひどい時にほてり感がでたり,微熱が出てたりする事がことがありますが、貧血を改善すれば自然に出ている症状もおさまるのと同じです。

 暑さあたりしてヘトヘトになった時、身体がエネルギーと水不足(気津両傷)になっているので麦味参顆粒を飲みます。津液の津は血液中の水分のようなサラサラしたものを、液は関節にあるようなどろっととしたものをさします。汗や下痢で水不足をおこした時舌の表面は苔が少なくなって乾いています。

 病気が長引いたりして身体の消耗が深くなると津だけでなく、津液・精・血という陰分の不足になります。そうする舌がやせたり、裂紋といわれるひび割れが出てきます。土を想像してください。雨が降ると湿り気が出、降り過ぎると溢れ、晴天が数日続くと表面が乾いてきて、日照のときは割れ目がでてくる。

 人の舌の様子も自然と同じです。もし、病人の舌が鏡面舌といって潤いが無く、鏡のようにてかった感じだとこの人の「胃気」は衰退し,「胃陰」もかなり不足してるということになります。中医学では『有胃気則生、無胃気則死』といって重要視しています。胃気は胃腸を主とする消化機能をさし、下降します。近代医学のような点滴や胃に直接食べ物を送る方法のない時代だったから余計だと思います。

 舌と臓腑の関係は舌の先が(心・肺)辺が(肝・胆)中央が(脾胃)奥が(腎)とされています。舌の先と辺が赤ければストレスでいらいらし易くなっているかもしれません。胃が痛む時中央の苔をみて黄色くなっていれば胃熱で黄連解毒湯のような清熱剤を、真っ白ければ冷えて痛んでいるので安中散のような温性のものを服用します。

 舌の動きについて知っておくといい事があります。強硬(舌がスムーズに動かず発言できない)・歪斜(舌を出したとき左右一方に歪む)などは中風の前兆の事があるからです。この時は開竅・清心・豁痰・活血・通絡などの方剤を速やかに使わなくてはなりません。中医学では舌診を重要視しています。是非、舌も健康チェックしてください。

2006-01-01

 『チャングム』というドラマを見ている方も多いと思います。私はテレビは見ていませんが本で読みました。聡明で勤勉なチャングムは幼いころから著名な医師のもとで医術を学び、宮廷にあがって台所を与かる女官をへて、医女になる話です。もちろん昔の話ですから漢方薬です。知識が豊富な上に勤勉ですから手に入れた書物は熟読し中医学でいう弁証施治が的確で素晴らしい。現代にチャングムがいたら誰もがチャングムに見て欲しいと思う事でしょう。

 国王が病気になり宮廷医が半年治療したが治らない為、医女チャングムに声がかかった。(当時は男性の医者の方が力があったようで女性の医者は医女といわれたようです。)宮廷医は『食欲不振・汗をかく・気力がない・ときどき空咳・やや頭痛がする』の症状を風邪(ふうじゃ)と判断して九味きょう活湯を処方していた。国王のは回復せず、弱る一方だった。これに対してチャングムは望診・脈診から胃胆焼症と診断して補中益気湯を処方した。

 九味きょう活湯は外から風寒湿の邪気が入りこんだ為、身体が重だるくなり、寒気・熱・しめつけられるような頭痛といった症状ていするのを治す方剤です。微熱がつづき、汗が出て軽い寒気があり身体がだるいといった風邪のような症状が身体の弱りからきている事があります。この時は補中益気湯を使います。

 チャングムは500年前に実在した女性で、史料からもすぐれた医術を持っていたことが読み取れるそうです。漢方治療は弁証力によって効きがちがいます。またチャングムにでてくる薬膳といわれるものも枸杞の実やどくだみ茶やはと麦などが使われていることが薬膳ではありません。身体の状態にあわせて弁証施膳してこそ薬膳なのです。

 現代における漢方治療にも名医がいます。“老中医の診察室”という小説は鐘医師を中心とした医師達が患者の病状をどうとらえるか意見を交換しあいながら弁証していくものです。金壽山医師をモデルに実際のカルテをもとに書かれています。内容は私達中医学を学ぶ者にとっては知識力・弁証力に感激するとともに、とても勉強になるものです。この弁証の力があってこそ、漢方薬は効くのです。

 第1話は肺炎の話しです。中医学は熱に対しては冷やし、寒に対しては温めます。重症の肺炎患者を熱証とみていた研修医が温薬ばかりの処方を見ておどろき、鐘医師に尋ねます。

 「肺炎の初期には辛涼清肺法を用いるのではないのですか?」

 「ほとんどはそうでしょう。でも今回はちがいます。仕事柄寒湿の邪を多分にうけている。熱は高いが顔面の紅潮や目の充血は見られない。悪寒がはっきりある。口渇はあるが熱い湯を少しほしがるだけ。舌は紅くなく、乾いていない。白膩苔で覆われている。頭重感がある。このように寒湿があることがはっきりしている。また、6日目だというのに高熱があって悪寒がし、節々の痛み、無汗これは邪がまだ表にあるということになる。」

 「でも、熱証もあります。便秘・尿が赤くて少ない・数脈など。6日もたつので化熱したのではありませんか」
 
 鐘医師は「よい質問ですね。」とほめてから

 「便秘は熱によるものではありません。発病前から便秘だったし、老齢期の腸液の不足によるものです。これは腹部に痛みが無い・張ってないなどからみわけられます。また、高熱がでれば脈は速くなるものなので、数脈だから表熱証とはいえません。」

 この患者さんは漢方薬を服用し、大量の汗をかいて解熱しました。鐘医師の弁証は的確です。第6話では脊髄炎で足が萎えてしまい歩けなくなった人を漢方薬と鍼と薬膳で治しています。また、おごることなく他の医師達と意見を交換しながら方剤を決定していきます。

 この話しは東洋学術出版社からでている『老中医の診察室』という中医学の臨床の基いてかかれた小説の一部をかいつまんで書いたものです。興味のある方は読んで見てください。

Aという植物は
Bという成分があって
Cという効能があるので
Dという病気の人が飲むと良い。

 これは近代医学的手法です。薬効に目をむけたやりかたです。

熱がでたら解熱剤を
咳が出てれば咳止めを
痰がきれにくければ去痰剤を
鼻水などのアレルギー症状も伴えば抗ヒスタミン剤を

 というような形です。

 『Dという漢方薬は糖尿病に効果があるというデーターがでてます』という指標で漢方薬を使うなら、糖尿病の人は全員Dを飲めばいいことになります。最近はそういう使い方がされてる面もあります。果たしてそれでいいのでしょうか?それでいいならチャングムも鍾医師もいらないし、中医学を熱心に学んでいる人達も要らない、漢方書もいらないということになります。人の方に目を向け、故人の膨大なデーターを勉強し、弁証に生かしてこそいい結果がえられるのが漢方だと思います。

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