新型コロナの感染が日本中に広まり医療崩壊をおこしそうになっている地域もあります
この年末年始は家族や親しい人達と集まる事もできません
狭山台店は3月から12月までの第3木曜日は中医学講座をしていましたが、今年はできませんでした。
おそらく来年もできないと思います
そこで今回は中医学ってなに?というお話です
日本の漢方と中医学
ドラマで小石川養生所の出てくる話を見た方も多いと思います
江戸時代から続く日本の漢方は「傷寒論」や「金匱要略」という書物をもとに日本独自で発展したものだそうです
その中でも何を中心として考えるかで幾つかの派に分かれています
中医学は中国で発展した漢方の学問体系で「傷寒論」「金匱要略」はもちろんの事「黄帝内経」「神農本草経」などがあります
特に黄帝内経は陰陽五行と五臓六腑の関係・気血津液の事や六淫など環境がもたらすものなど、健康とは何か?なぜ病気になるのかなど、傷寒論など日本漢方の中心になっている書物の基礎になる理論が書かれています
しかし江戸時代に発展した日本漢方は陰陽五行など黄帝内経の基礎的理論を採用しませんでした
しかし曲直瀬道三など、その前の時代の漢方医は五臓六腑に状態を治療に反映させていて、黄帝内経の理論をふまえていた事がわかります
もう一つの特徴
日本が鎖国していたころ中国で温病学がでてきました
咽が腫れて熱っぽい時に使う『銀翹散(銀翹解毒散)』は温病にでてくる処方です
都市化がすすみ 自然の中に足を踏みいれていった時動物の持つウイルスが人にも感染するようになりました
症状は急激で炎症性が強い病気です
今までのように身体を温めて発汗して邪を追い出すというだけでは熱毒といわれる邪気に対処しきれません
身体を涼しくしながら汗を出し(辛涼解表)清熱(炎症を鎮めたり熱を冷ましたり)解毒(ウイルスや細菌など身体にとっての毒を解毒する)という方法が必要になりました
中国における新型コロナに対するアプローチも温病学が中心になっていました
私にとっての中医学
世の中には治療法の確立していない病気が沢山あります
でも中医理論があれば陰陽の平衡や五臓六腑の虚実・気血津液の虚実・内在する邪気や外邪など中医学ならではの理論や中薬を用いてあきらめずに戦い続ける事ができるとおもっています
黄耆は私の好きな中薬の1つです
少し前には黄耆の益気固表の働きがあり玉屏風散(衛益顆粒)という方剤がある事を書きました
生薬と言われるものは中医学では中薬といいます
中薬の中には生薬に属さない食品もはいっています
例えばあずきも中薬の1つです
中薬学にみる黄耆
中薬学では黄耆の働きは主に6つあると書いてあります
補気昇陽・補気摂血・補気行滞・固表止汗・托瘡生肌・利水消腫
基本的の黄耆は補気薬ですから症状が気の不足による時に使います
補気昇陽・・・気を上に上げる
気血が上に昇らないと頭がボーっとする・立ち眩み・元気がなくやる気がでないなどの症状がでます
また五臓の上の方にある心や肺に気血が届かなければ息切れや動悸になるし、上に向かうエネルギーがないと内臓が下垂します
補気摂血・・・固摂(漏れないようにする)気の働きを補い血がもれないようにする
気の働きは5つあるとされていてその1つが固摂作用です
あるべき所から漏れないようにする働きです
そのうち血が漏れないようにするのを統血作用といい脾気が担当しています
不正性器出血や皮下出血や便血なども統血不足の時もよくあります
補気行滞・・・気の推動力の不足によって滞ったのを流す
四肢のしびれや運動障害など気の不足が原因する事もあります
固表止汗・・・以前玉屏風散の事を書いたときに詳しくのせました
托瘡生肌・・・気血不足で傷などが修復しない時に使う
化膿性疾患の治りが悪い・潰瘍や傷口がふさがらないなど治す力が弱くなっている時に
*私は以前歯痕の病巣が治らず切開するのがいやで幾つかの漢方薬に煎じた黄耆を加え1ヵ月半くらい飲んで治った経験があります
利水消腫・・・水を利してむくみを解消する
水液代謝のエネルギーの不足で浮腫みが生じているので 気を益し湿を除く
以上の事からも黄耆が冷えタイプのエネルギー不足の人に良い事がわかります
どんなに優れた生薬でも体質が合わなければかえって悪くなります
身体が温に傾きのぼせやすい人にはその状態を助長させてしまいます
使用上の注意には性質が温昇で助火し固表止汗するので実証・熱症・陰虚陽盛など使えない事が書かれています
一昨年前成都中医薬大学耳鼻咽喉科で研修させてもらった時気虚のアレルギーの人の処方中には黄耆が書かれていました
補中益気湯・玉屏風散(衛益顆粒)・帰脾湯(心脾顆粒)・参茸補血丸・虚労散など黄耆の使われた処方です
補という事は即座にできる事ではないのでゆっくり身体づくりする気持ちも大事です
陰陽ってきいた事がありますか?ほとんどの人が聞いた事があると答えてくれます。陰陽師という言葉から知っている人もいます。私たちがいるこの世界において陰陽は何に対してもあります。陰陽は相対的なもので、2つの事柄の対比としてあります。例えば1日のうちで昼は?夜は?どっちですか?昼が陽で夜が陰ですよね。イメージとして明るい昼は陽で暗い夜は陰だろうとわかります。
ところが相対的いう事で明るい昼も日向(陽)と日影(陰)があります。陽のイメージは明るい・活発・温たたかい・上・昇る・外向的陰のイメージは暗い・静か・冷たい・下・下がる・内向的 そんな感じではないでしょうか?
それでは身体における陰陽はどうでしょうか?身体を動かすエネルギー的なものは陽ですから物質としての体は陰にあたります。人の構成を気血水(津液)で考える漢方において 動的役割の気は陽に、物質てき基盤の血津液は陰と考えます。ですから陰陽そろって生きているわけです。「あなたは陰虚ですね」。とか、「陽虚ですね。」といわれてもそれって何?どうい事?と思うのではないでしょうか?
虚はむなしいと読みます。つまり足りないとか弱ってるとかいう意味です。陰陽は相対的なものではあるので陰虚なら陰は足りないので陽の方が多いという事になります。また陰とは血と津液 の事でもあるので血や津液が不足している事でもあります。さらに物質としての体の不足という事にもなります。
物質面は陰にあたると考えると 臓器も血管も血液も神経も脳も陰に属する事になります。そしてまたすべては血と津液という事になります。陰陽どちらも重要なのに陰が傷つく事をきらいます。それはたぶん陽は気ですから形のないもので早く補う事ができますが、陰は物質なのでいったん傷ついてしまうと修復が大変だからだと思います。たとえ出血性ショックの時に(現代はすぐ病院ですが・・・)補気薬である大量の人参を使うのは 形のある血はすぐ作れないのでまず気から補う・・・というやり方です。
中医漢方において滋陰よか養陰とかいう言葉がでてきますが、根本療法という意味で大事な事だと考えています。元気がでるものがお好きな人が多いと思います。気は速生できるので 効いた感じが得られやすいからだと思います。しかし不足によって気が不足する人は時 ゆっくり有形の血や陰を補うことで気の元ができてきます。
血は気の母という言葉があります。時間の流れと陰陽を考える夜明けは陰から陽に代わる時で夕方は陽から陰に変る時です。
季節の進みで言うと夏至は陽が極まった時で、その日を境に陰も生じだします。冬至もまた同じです。こういう陰陽の移り変わりは自然の営みにとても大切です。
こういうリズムは人の身体にもあります。体内時計といわれるメラトニンは夜中暗くして寝ている間につくられるのだそうです。成長ホルモンや性ホルモンも同じです。これらは中医漢方でいえば腎が蔵する精のうちに入ります。人の目は暗いと見えないように出来ています。夜は静かにして寝る為だと思います。陰の多い夜中は陰を育てる時間です。
身体も陰の状態にしておく事が陰に属する精血を育てる事になります。簡単にいうと健康、身体の仕組みの充実の為には夜は暗くして寝ることが大切なのす。現代社会ではなかなかそうもいかないでしょうが、病気や心や身体の不調を治そうと考えるなら 夜寝るという単純なことが 治る身体づくりにおおいに貢献する事を知っておいて欲しいと思います。
もし 身体の衰弱して落ち込んでしまったら もちろん早急に陽気を補わなければなりません。陽気は命のエネルギーです。
命の力です。それがなくなってしまっては生きる事が終わってしまいます。もし その状況は陰の不足に起因するかもしれません。例えば 大量の汗をかく 酷い出血など です。汗も血も物質で陰の属しますが 命のエネルギーの陽が不足ならそっちが重要です。抽象的な感じがするかもしれませんが、この考えは漢方を運用する上には必要ばものです。
もう十年くらい前になるかもしれませんが、中医婦人科で不妊症の名医で『中医婦科理論の実践』という本を執筆しておられる夏桂成先生が来日し講演された事がありました。先生は不妊治療においても多くの成果をあげておられ先生の治療を受けに大勢の方が遠くからくるそうです。その先生が女性の身体の陰陽について話されました。女性の月経周期は陰陽の繰り返しになっています。体温表をみれば一目でなるほどと思います。低温期 高温期 下 上 陰から陽へと順番にきています。女性の身体の中で命は生まれ育まれ そして赤ちゃんとして誕生します。
その女性の身体は陰から陽へ 陽から陰へと 自然の摂理にそったリズムをきざんでいるのです。なんて凄いんだ!!って思いませんか?私たちもまた その自然の波をもって生まれてきたわけです。陰の時期は陰に従い 陽の時期は陽に従う事が 本来身体が持っている恒常性の維持につながります。中医学において 漢方薬の臨床応用 漢方食品 漢方茶 食養生 生活面での養生など 陰陽バランスの関係を考えずに運用する事はできません。
なぜなら 人は自然界の一員だから・・・
2014年7月ブログ暮らしの中の中医学より