胃の調子が悪い
胃の働きは食物を蠕動運動によって送りながら胃液(塩酸や消化酵素など)で消化していきます
この働きに神経の調節やホルモンが関わっています
中医学で胃は五臓の脾と関連した腑で脾胃と表現する事も多いです
「胃は水穀の受納・腐熟を主る」・・・飲食物を収納し消化するといった意味です
「胃は水穀の海」・・・飲食物が胃に入ってから十二指腸に送られるまで3時間くらいかかるそうですから受納という言葉もうなずけます
「胃は降濁を主る」・・・下に送っているのも胃の働きによると考えます
胃の調子が悪いといっても胃酸過多・胃炎などの人もいれば胃酸の分泌が悪い人や胃の蠕動が弱い人もいます
また胃炎や潰瘍になる場合も胃腋はタンパク質を消化するので
①粘液層が弱くて浸食される
②胃液の分泌過多で粘液層が浸食される
つまり防御力と攻撃力の強さの関係ですが、西洋医学ではどちらも胃壁の浸食を防ぐ為に胃酸の分泌を抑制する薬を使う事が多いと思いますが、漢方薬は違うものを使います
因みに①は胃陰不足にあたると思います
胃酸過多の状態は分泌過多ですから胃熱と考えられます
胸やけ症状も灼けるという言葉から熱を連想しますので胃熱だと考えます
胃の腐熟に必要なのは胃という鍋で煮込むとイメージすると胃火は必要ですが、過ぎると焦げてしまいます
それには火力を下げなければいけません
胃火が強い時は食べたり、水をのんだりすると痛みが楽になる事が多いです
また胃火はストレスや怒りなど肝火と関係する事もよくあります
胃の働きが悪い場合は働く力不足という事になります
食欲不振や胃もたれをおこしやすかったり・気持ち悪かったりします
胃アトニータイプの人や疲労や体調不良でそういう状態になっている事もあります
エネルギーや動きのある状態は陰陽では陽にあたりますから陽気が少ない(冷え)という事になります
胃と脾は臓腑の関係ですから胃の不調は脾とも関係します
脾は昇清を主るといい上向きのエネルギー・胃は降で下向き
また脾は湿を嫌うといい胃は潤を好むといい性格が違います
しかし飲食物の消化吸収機能は飲食物から必要な物質を得て不要な物質は排泄する上向きと下向きの働きが必要です
また水蒸気のような軽い物は上に行き水は下に流れる事から考えても脾胃の好みが燥と潤というように違うのもうなずけます
胃の不調は必ず寒熱(熱か冷えか)をみる事、体質によるか環境によるか(慢性か急性か)を見る事など重要な視点です
また肝火が胃火に影響するように肝と脾は相克関係ですし、心と脾は相生関係なども考慮します
ストレスで胃に穴が開いた・・・とか聞いたことがあると思います
これは肝と胃の相克関係が過剰になった為です
そういう多方面から考えて使う漢方薬なら胃の不調の根本にアプローチできると考えています
大腸の粘膜に慢性の炎症がおこる原因不明の難病です。直腸から発症し炎症が広がっていきます。軽症では炎症部位は直腸の辺りで症状は血便です。更に左結腸全体に炎症が広がると血便の他、下痢や下腹部痛もおこります。大腸全体に炎症が広がると、重症の場合は血性の激しい下痢、腹痛、発熱、頻脈、脱水を起こす事もあります。
投薬治療が奏効しない場合は大腸の切除手術を行います。また、血液透析によって白血球を除去する方法でよくなってくる場合もあるそうです。投薬治療は主に炎症を抑える薬を使います。急性期と緩快期を繰り返しなかなかよくならない疾患です。遺伝性、ストレス、肉体疲労が要因と考えられています。
これを中医学で考えてみましょう。軽度でも重度でも血便はあるので血証の範疇でみることができます。さらに泄瀉、腹痛も考えます。血液の交換で症状が改善する事があるのなら、病は深く血分まで及んでいると考えられます。そうであるなら涼血薬を使うのが良いと思います。槐角丸や清営顆粒は涼血薬が使われた方剤です。特に槐角・地楡は涼血止血の働きがあります。中医内科学では便血を腸道湿熱と脾胃虚寒に分けています。
『腸道湿熱の場合便血は鮮紅色ですっきり排便できず、ドロドロした軟便で 腹痛があったり口に苦味を感じたりする。その時は槐角丸を中心に加減して使う。』と書いてあります。加える方剤として、ストレスが要因なら疏肝や理気を加えた方が良いでしょうし、肉体疲労が要因なら気血不足や肝腎不足なども考慮した方が良いと思われます。難治性の炎症、潰瘍と考えるなら治癒力の低下を考えないわけにいきません。それには托瘡生肌の働きを有する黄耆製剤も加えると良いと思います。
いずれにせよ中医学の見方から病因を考えなくてはなりません。そうして、何故、現症状になったのか?病機(発展のメカニズム)を考察します。ノロウイルスとかの外邪によって胃腸炎を起こした事がきっかけかもしれないし、お酒や過食や辛いものの食べすぎかもしれないし、ストレスかもしれないし、過労かもしれないし、素体の弱さからかもしれないし・・・このことを知ることが中医学によって方剤を使いこなし治癒に導くのに重要な事なのです。
下痢と一口にいっても色々なタイプがあります。小さい頃からお腹が弱くて下痢しやすい人。お腹が張りやすく、便秘も下痢も或る人。冷えると軟便になったり下痢したりする人。緊張すると下痢する人。食べ物によって下痢する人。・・・その食べ物も合わないで下痢する時と、消化不良で下痢する時は違っています。細菌やウイルスによって下痢した時。それぞれ全ぶ違います。
飲食物の消化・吸収、栄養物質や水分の輸送は脾胃の働きによってなされています。この働きに肝の疏泄機能も関わっています。更に言えば心・肺・腎も相生や相克の関係でつながっています。
“脾は昇清を主り・胃は降濁を主る”といい 脾のエネルギーは上に向かっています。この力が弱いと(脾気虚、中気不足)下痢しやすくなります。この時 補中丸や健胃顆粒やリキ錠などを使います。もし 脾気虚で水湿が多ければ健脾散を使います。健脾散の使い方として下痢が続いて脾陰が不足した時も使えます。中に脾陰を滋潤する山薬・蓮子・白扁豆・薏苡仁が入っているからです。
いつもお腹が冷えやす 軟便や下痢っぽくなったり、お腹がひきつれたり、痛んだりする時は虚労散が奏効します。更に冷えが酷く手足も冷えて下痢し、元気がなく 時に息切れしたりして エネルギーの不足が著しい時は理中湯を使います。これらは体質の虚弱が関係した下痢です。神経を使うタイプで緊張すると下痢になる。または下痢と便秘を繰り返すタイプの人、たとえば過敏性腸症候群の人は肝気横逆とか肝脾不和といわれる状態です。漢方薬では開気丸や逍遥丸 または香砂六君子湯(健胃顆粒)などを使うと良いです。
他に急性胃腸炎のような外邪が関係した下痢があります。例えばウイルス性や細菌性の胃腸炎で 昔から胃腸型感冒とかお腹の風邪とかいわれるタイプのものです。その時は勝湿顆粒のような外邪を払って内を整えるタイプの漢方薬を使います。この時 涼血治痢・解毒消腫の馬歯莧を一緒に飲みます。その昔 赤痢の時に飲んだといわれるもので、もしお腹の痛みが酷かったり、便に血が混じるようなら必ず飲んでおくとよいです。もし 水っぽい下痢が止まらなければ 分利という働きのあるフラーリンA(胃苓湯加減)を加えます。
潰瘍性大腸炎のように原因不明の炎症→糜爛→潰瘍と進む場合は清熱解毒涼血という方法も必要になります。また脾胃を助け、力をつけていく必要もあるでしょうし、肝の問題あればそこも見なくてはいけないと思います。脾胃は気血を作る源ですから健脾益気して整えておきましょう。
下痢に対して漢方薬は大きな助けになると思います。しかし 下痢しやすくなったのはその裏に大きな病気が隠れている時もあります。特に今まででそんな事なかったのに体質がかわったのかしら?と思うようなときは必ず受診してください。