NHKの認知症キャンペーン『これが認知症を防ぐチョイスだ』という番組をみていて驚きました。それは現役の週刊誌記者の方が軽度認知障害(MCI)の診断をうけ その体験談を話すのに出演していたからです。記者といえば頭と身体を使う仕事というイメージが強く、現役バリバリで仕事をしている人にそういう状況がおこっているという事がショックでした。さっそくこの方山本朋史さんが体験レボでつづった“ボケてたまるか!”という本を購入しました。山本さんが62歳、私も還暦をすぎているので人事でないかも??という思いもあったからです。
何故山本さんは物忘れ外来を受診したのでしょうか?
きっかけはペットロスから鬱ぎみになった事かもとの事ですが・・・
これまでより 物忘れが酷くなっているという自覚があったからだそうです。
しかも加速度的に・・・
病院では医師の質問に答えたり、文章力・図形力・常識力・記憶力を調べるテストを受け、MRIやCTで脳の様子をみました。テストの結果が認知症の疑いがあり、画像診断からは60歳相応の血管の詰まりがあっただけで記憶を司る海馬はきれいでした。
軽度認知障害(MCI)は認知症予備軍といえるものです。
1.記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
2.日常生活動作は正常
3.全般的認知機能は正常
4.年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
5.認知症ではない
約半数の人は何もしなくてもはMCIから認知症になることはないそうです。しかし逆に半分くらいは認知症になってしまうという事もいえます。
NHKの番組ではグラフのような形で表していました。軽度の認知障害の状態を段で表し、ここまでは戻せる、ここからは戻せないという事を言っていました。つまり早期に気づいて、対策する事が重要という事です。
山本さんは筑波大学病院で『認知力アップトレーニング』を受ける事になります。トレーニングに来ている人達と半ば競争しながら楽しみながら脳トレや筋トレを行います。式筋トレのところで驚いたのは、座って足を10数えるあいだ上げておろした時に痛みを感じない時は感覚神経が脳につながってないという話です。
ここのトレーニングによって脳と感覚神経、運動神経をしっかりつないでいく事が大切だと感じました。
中医学では認知症対策の基本は補腎と活血といわれています。
60歳はそれなりの詰まりがあるという事ですが、血管は脳に酸素や栄養を運ぶ道ですから、開通している方が良いにきまっています。そのために活血化瘀という方法で予防します。また腎は髄を生じ、髄海に通じるといい、髄の海は脳の事です。腎の機能がしっかりしていれば、髄を充実させる事ができます。
さらに
憂鬱 欝っぽい 心がすっきりしない 楽しい気持ちになれない やる気がでない・・・などのこころの状態から軽度認知障害になる事もある事から考えれば心も重要です。
中医学では脳の思惟活動(機能面)を心と考えます。心は『血脈を主る』という心臓の駆血作用と心は『神を主る』という脳の機能と2つの事と関係しています。
心脾顆粒の効能に健忘があります。
心脾顆粒は心血を養って精神・意識・思考を安定させる遠志・酸棗仁や脾気を補い胃腸の働きを元気にする黄耆・党参など10種類の生薬がこころをバックアップしてくれます。
脳トレ+筋トレ+漢方で未病先防!ですね。
昨年から韓流の『イサン』を見ています。王様が認知症になってしまいます。王宮殿に出入りを禁じられた 謹慎中の王妃に会いにいき、その事を全く覚えてないなどおかしな行動に気づき自分でも「もしや 認知症では?」と考えます。意識に無い状況はせん妄という症状で認知症そのものとは区別されるそうですが、認知症の場合にもおこりやすい症状です。王様は記憶を留める努力をしたり 地域の名前を再確認したり 自分の行動を記録係に記録させたり結構しっかりした思考を持っていました。
そんな状況でせん妄がおきているのは悩の血流が関係している事が考えられると思います。医師の処方は『 石菖蒲・遠志・姜黄・カッコウ』でしたが症状に対しての処方です。石菖蒲は、除痰開竅・醒神健悩に働くので意識障害に使います。遠志は帰脾湯に入っていますが安神益智・散鬱化痰に働き精神疾患に使われます。さらに漢方的には心腎をつなぐ働きがあるといわれています。姜黄は皆さんよく知っているウコンです。
カッコウは勝湿顆粒の主薬で中焦を保護するのが目的だと思われます。代医学で考えるなら 脳血管性の認知症とアルツハイマー型認知症があるわけで、双方を兼ねる場合もありますが、脳血流の改善は重要だと思います。アルツハイマーの場合 アミロイド斑が見られるがこれが直接の原因かは解明されていないものの 漢方的に見方からすると褐色斑(黒ずみ)は瘀血ととらえる事ができるし、また腎虚ととらえる事もできます。
その事から考えると今なら活血化瘀薬もプラスして使うだろうと感じました。その後王様は脳梗塞をおこし意識不明の重態になります。結果的に王様は動脈硬化という話でしたが、今で言う脳血管性の認知症という事だと思います。認知症は原因があってそれに伴う症状があります。中核症状とはその結果としての中心になる症状の事で記憶力や判断力・思考力の低下や実行機能の障害などがあげられます。そういった症状を中心に精神面の不調などを周辺症状といいます。この周辺症状は本人も苦しい周囲の人を悩ませる症状でもあります。こういった症状に抑肝散効くとい事でさかんに使われています。こういった使い方は西洋薬的使い方で、漢方本来の使い方ではありません。
以前 肝炎に小柴胡湯が効くとして誰にでも処方した結果間質性肺炎でなくなる方が多くでましたがそのニの前にならないかを危惧しています。小柴胡湯は燥性の強い処方ですので、陰虚の人、傷津(津液の不足がある人にはつかえません。抑肝散は小柴胡湯のように強いものではありませんが、やはり弁証して用いるべきだと思います。その結果 陰虚や傷津があれば天王補心丹のような滋陰薬を使うべきだと思います。では弁証して用いるとはどういう事でしょう?
人が年をとる・・・という事は腎の衰えと関係しています。また 肝腎は源は同じ(肝腎同源)といって肝も衰えます。腎の陰陽の腎陰・腎陽は真陰・真陽といわれて身体の陰陽なバランスの基は腎にあるとされます。陰の不足の状態は相対的に虚の陽が大きくなった状態でほてり等の症状が、陽の不足の状態は相対的に虚の陰がでた状態で冷え込みます。冬でも足を布団から出さないと眠れないような人と 夏でも股引きをはいている人と身体は状況は同じではありません。
そこで 寒熱を弁証します。寒を寒し熱を熱する事があってはなりません。また もし熱に傾く事があれば燥を警戒しなくてはなりませんし、寒なら湿を多くする事はできません。抑肝散は小児にひきつけ・むずかり・夜鳴き・歯軋りなどに用いられた処方ですが、母親も一緒に飲むようにと書かれているそうです。効能は平肝熄風・疏肝健脾で肝をなだめて風を消し、肝の疏泄機能を改善して脾を健やかにするという意味です。ただし のぼせ・火照り・怒りっぽいなど心肝火旺の症状がある時はそのままでは瀉火の配合がない為に向きません。もし 虚火の症状がつよければ酸棗仁湯や黄連阿膠湯、あるいはミンハオ、蓮子心を加えたりします。もし 心陰虚の状態ならやはり天王補心丹をメインにします。
認知症に付随する症状の緩和ができても治ったわけではありません。つまり抑肝散は症状に対する漢方薬で予防薬とはいえません。認知症を中医漢方の本質で考えれば、腎虚と瘀血(痰湿を伴う事もある)です。西洋医学で考えれば脳の病気ですが、中医漢方で考えれば髄海が空虚になっている状態といえます。それは 腎精の不足により髄を生じることができず髄海を満たせない場合もありますし、痰瘀によって血脈や経絡が通じず気血が運ばれない事もあります。
つまり、予防を考えれば補腎し、精を益し、活血化瘀や通絡で通じさせる事が一番だと思います。この事を基本として、もし中核症状がでていれば抑肝散・鎮悸散・天王補心丹のような処方や、ミンハオのような気もちの落ち着く漢方食品加えます。中医漢方の理論を生かして未病のうちに防ぎましょう。
2012年3月ブログわかりやすい漢方論より
尿漏れや尿失禁で悩む人が多いようです。特に女性は産後から症状が出る事もよくみられます。漏れるという事を中医学ではどう考えるのでしょう?一つには腎・膀胱の固摂作用(閉めておく力)の不足と見ることが出来ます。固摂とは5コの気の働きの一つで血や汗や尿などが漏れ出ないようにする事です。膀胱は腎の腑です。腑とは(胆以外)は外に通じている管のようなものですが、臓と関係しています。つまり 腎や膀胱の働きが弱り 漏れないようにしっかり閉めておけなくなっている状態です。腎は陰陽の基ですから腎の陰陽を真陰・真陽とよびます。その陰が不足するという事は、血や津液など尿をつくる材料が不足しているという事なので尿量は少なく、陽が不足する時は量も多くなります。ただ、陽気は腎の気化作用をになっているので 気化作用が失調した時は尿は作られず、その水は身体に溜まって浮腫みとなります。
このように一口に補腎といっても、陰陽をみる必要があるわけです。広告などを見て『尿漏れには八味丸』と思ってる方もおられるようですが、漢方の見方からすると、八味丸は腎陽虚に対する方剤で方剤学にもそう書かれています。腎陰虚に対しては、六味丸 杞菊地黄丸・麦味地黄丸・知柏地黄丸などを使います。また、腎陽虚でも精や血を大いに補う必要がある時は海馬補腎丸・参馬補腎丸・双料参茸丸などを用います。2つ目としては尿漏れが脾と関係ある場合があります。内臓の下垂による膀胱の圧迫もそれに入ります。
脾の生理機能のうちに『昇清』という事があります。水分や食物をこなし、精微物質(栄養素)=清を上の方に上げる働きです。この働きにより気血が頭まで届き、内臓は定まった位置にあります。物は下に落ちる(下のほうに行きやすい)のは自然の法則です。この脾の昇清の働きが弱れば内臓は下の方へ落ちる(下垂し易くなります)。そうすると膀胱が圧迫されて頻尿になります。そういう場合は横になる楽という事になります。
くしゃみや大笑いしたりした時漏れるのは腹圧との関係が大きいので脾の事を考えにいれるべきだと思います。脾は『肌肉を主る』といいますが、脾虚の人は筋力が弱い傾向にあります。骨盤底筋体操をすると伴に、腹筋などの筋力をつけるようにするといいようです。もともとの体質が脾気虚の人もいますが何らかの原因でに脾が弱いくなっている場合もあります。暴飲暴食により脾が傷ついた場合水の中や雨の中などで作業したりする事が多かったり、冷たい飲み物をよく飲む事により『寒湿』が溜まった状態で脾が機能できなくなっている場合です。
漏れるという事は気の固摂が弱い、つまり閉める力や保持する力が弱ということです。腎気や脾気を補う必要があります。頻尿になるとどうでしょう?漏れる前段階として頻尿がある場合もあります。でも頻尿だから漏れるとは限りません。もちろん もう我慢できないと言う状態になりやすいと言う事はあります。それでも次の駅がくるまで、授業が終わるまでとか必死で我慢するでしょう。我慢するというのはタンクは一杯になっていても蛇口をしっかり閉めておけるという事なのです。
頻尿も漢方的にはいろいろなパターンがあります。もちろん 頻尿も腎(腎気不固)や脾(中気不足)が関係しています。でもそればかりではありません。若い頃から緊張するとおしっこに行きたくなっちゃって・・・緊張するといきたくなる・・・と言う事は神経が関係しています。膀胱の収縮や弛緩は自律神経によってなされています。漢方的には肝の疏泄機能という事が気の流れの調節をしているので関わりが大きいと考えます。ストレスにより肝の疏泄機能が失調すると弱い臓腑に影響がでます。
また圧迫による頻尿があります。妊娠中も産み月が近くになると頻尿になった経験をお持ちの方も多いとおもいます。内臓の下垂・子宮筋腫など腫瘤や膀胱瘤などが原因だったり・・・圧迫されれば頻尿になります。また冷えによる頻尿は清長といっておしっこが透明で多いのが特徴です。残尿感や痛みが伴う時は膀胱炎の可能性もあります。尿の色は黄色が濃かったり、褐色だったりします。これは漢方的には膀胱湿熱が多いようです。体質的な弱りによる頻尿というと老化が考えられます。
老化と関わりの深い臓は腎です。腎は水を主るとか下は二陰に開竅するとかいいます。腎が虚すと夜中に何度もトイレに起きるようになります。眠れなくてトイレに行くのは違います。トイレに行きたくて起こされるわけです。腎陰虚なら尿量は少なく、腎陽虚なら多いようです。
腎は精を蔵し、生長・発育・生殖を主る・・・ということから脳下垂体の働きと腎の関係の深さがわかります。成長ホルモンは下垂体より分泌されています。また生殖と関わりのある性腺刺激ホルモンやプロラクチンも下垂体ホルモンです。腎は水を主るといいますが尿量の調節をする抗利尿ホルモンも下垂体ホルモンです。以前人の成長と腎気の充実について書きました。
ですから幼いうちは腎気がまだまだ足りないのでおねしょをする事もあります。つまり腎虚による頻尿はホルモン系の衰えと言う事も関係していると言う事です。もう一つ尿と関係があるのは肺です。漢方的には肺は『粛降を主る』とか『水道を通調する』とか言います。アレルギー性鼻炎の方の中で、浮腫んで尿の出も悪くなったり、頻尿になったりを経験した事はありませんか?
以前 喘息のある方の頻尿が玉屏風散(衛益顆粒)で改善した経験があります。
このように腎・脾・肺また肝のどこに問題があるかをきちんと考えて方剤を決める事はとても大切です。何らかの病気のせいで頻尿になっていないか?を調べる事は大切です。何かが出来ていて膀胱を圧迫しているかもしれないし、口渇があれば糖尿病で頻尿になっているかもしれません。老化による頻尿や筋力の低下による頻尿は漢方の服用が大いに助けになります。でも、衰えた機能を滋養する事はすぐに出来るものではありません。例えば運動不足で衰えた筋肉が、筋トレして数日で快復と言う事はありません。ある程度、根気よく腎・脾・肺に対する栄養剤だと思って飲んでいく必要があると考えます。そういう補剤を長期に服用すると身体も滋養されて若々しくなると思います。
2009年1月ブログ暮らしの中の中医学より