養生の話

2006-10-01

パンダ① 秋といって何を思いますか?十五夜・実りの秋・紅葉・読書・もの悲しいくなる?いえいえ食欲の秋ですか?中医学で秋は肺の季です。また秋は乾燥してくる季節でもあります。ここのところ秋雨の時期になっていますが・・・実りの秋。十五夜にはススキをかざり、おだんごと一緒に栗やさつまいもや梨・りんご・ぶどう・みかんなど盛り沢山にしてお月見しました。秋は収穫の季節であるとともに、草木はかれて冬の眠りにつく準備をはじめます。枯れ木になる前に葉は色づいて華やかな最後を演出します。自然界は生気にみちた時を終えて、閉蔵の季節にむかっていきます。この秋の気は人の陽気を収斂させます。収は肺金の五化です。肺気を養って冬に備えましょう。

 肺気を養うって?

 肺は「一身の気を主る」「呼吸の気を主る」といいます。肺は気を生成に関係していています。宗気は呼吸・心臓の駆血力と血脈を動かす力・見たり聞いたり動いたりといった身体を動かす力ですが、これは肺呼吸で吸収された清気と脾で生成された精微物質とでつくられます。この重要な働きをしている肺はばい菌や異物が大気から侵入し易いので、嬌臓といわれています。直接大気と接する為に、衛気(バリア機能)が重要です。

 また秋の気候は燥なので、肺も肺燥の状態になりやすく、特に血虚タイプや陰虚タイプの人は今頃からしっかり補血や滋陰していくことが大切です。衛気の不足には衛益顆粒を使いますが、この季節は「燥」を考慮した方が良いと思います。八仙丸・麦味参顆粒・潤肺糖漿・麦門冬湯などを症状に合わせて加えるといいと思います。また、胖大海をお茶にしてのまれるのもいいと思います。

 秋の事を書いているのに秋らしい気候になってこないですね。雨ばっかり・・・しかも今日は今年一番の降水量になるとかで各地の災害も気になります。この梅雨のような気候によって湿邪が停滞して身体が重だるい・頭重・吐き気・軟便や下痢・関節や筋肉の痛みなどの症状が出ている方も多いです。湿は粘膩でしつこいので症状がでたら早めに処理しましょう。温かく消化の良いものを腹八分にたべて痰湿をためないことが脾が働き易い環境をつくってあげる事につながります。脾は肺と相生関係にあります。脾が母なら肺は子供です。この時期食事に気をつけながら、燥湿・化湿・健脾・化痰・理気などの漢方薬を適宜とりいれて健脾補肺しながら本格的な秋に備えましょう。

 春は肝・夏は心・夏の終わりから秋口にかけて脾・(実際は各季節の終わり頃は脾)・秋は肺・冬は腎というように五臓と季節の関りを考えにいれて健康に役立てましょう。肺を補い、喘息・アレルギー性鼻炎・COPDなど肺の状態がよくない人は症状を抑えるだけでなく積極的に肺気・肺陰を補っておきましょう。脾の弱い人は五臓の関係から脾虚の為肺が弱くなっているので、健脾することは重要です。肺は腎と相生関係ですので、来る冬に腎の病気にならないよう補肺しましょう。未病を治しましょう。

2006-07-01

パンダ⑧ 心は五行の火の臓で、その季は「夏」です。夏は心の働きが活発になる季節です。心は『血脈を主る』『神志を主る』ので血行がよくなり、人々は物事に対して明るく積極的で、海に山にと遊ぶ計画をたてたりします。でも、心の弱い人はオーバーヒートしやすく、少し動くとハーハー・ドキドキして、心の液である汗は出過ぎて体力も弱まり、眠りも浅くなります。暑い環境下で身体に熱がこもりひきおこされるのが熱中症です。汗は体温調節をしていますが、大量の汗で脱水をひきおこし体温調節ができず熱が体内にこもってしまいます。梅雨明け、急激に暑くなった時は、身体も暑さに対して調整する準備ができていないので要注意です。必ずイオン飲料か塩を少し溶かした水をちょくちょく飲むように心がけましょう。

 中医学てきには身体が脱水ぎみでヘトヘトな状態を気も陰も不足している状態(気陰両虚)といいます。身体の中の水は津液です。暑熱による発汗が過多になったため傷津(中医学では津液が失われ、役目を果たせない状態になっているのをこう呼びます)がおこり、津液とともに気も外泄(外に出ていってしまう事)するので気津両傷が発生する。そうすると倦怠無力・息切れ・咽の渇き・口の乾燥(粘った感じがする時もあります。)等の症状があらわれます。簡単にいうと身体がヘトヘトで咽が渇ききってる状態です。気津両傷を治す漢方薬が生脈散(麦味参顆粒)です。働きは益気生津(気を益し、津を生じさせる)斂陰止汗(ひきしめて汗のかき過ぎを抑える)というものです。漢方ってよく考えられてますよね。漢方は病気でなく身体の方を治すものです。

 「渇して水を飲まんと欲し、口舌乾燥するは 白虎加人参湯これを主る」

 身体が熱く、咽の渇きが冷たい水を沢山飲み、疲労感も強い時は白虎加人参湯がいいです。これの働きは、清熱生津・益気(熱をさまして、津液を生じ、気をます)です。熱証が強いときはこちらを服用するといいです。人の身体は正直です。内側に熱があれば冷たい物を欲し、冷えがあれば温かいものを欲します。これは寒熱をみる指標になります。

 中医学で心は「しんぞう」と「こころ」です。

 これは「血脈を主る」と「神を主る」という言葉で表されています。夏、こころもオーバーヒートすると眠りにも障害がでてきます。疲れているに眠れない、眠りが浅い、そのため昼間も眠いなど。夏ばてで眠りがわるくなっている時は麦味参に酸棗仁湯錠・帰脾錠・補心丹・牛黄清心丸などを状態に合わせて使ってみてください。そういえば英語もハートは2つの意味がありますね。精神的なショックでドキドキしたり、こころとしんぞうのつながりの深さは誰でも感じる事なのかもしれません。

 「夏に脳梗塞が多い」と言う事がいわれています。中医学的に暑邪は心陰・心気を損ない易く、又「心は血脈を主る」ので血脈も停滞し易いのです。つまり中医理論から言えば、養生しなければ“起こるべくして起こる”ということになります。暑邪の事をよく知り・個々の持てる力に応じて滋陰・生津・益気・健脾・化痰・化湿・利水・安神、さらに血脈が滞れば活血などの働きのものを食し・漢方を服用するなどして心を助けましょう。

 汗は心の液というけれど、汗は邪気を追い出したり、鬱滞した気を出したりするのでいい汗かく事は大事です。汗して仕事や運動をしたあとシャワーをあびて、気持いいと感じるのがいい汗です。でも心の弱い人は注意しましょう。食欲がなく、水っぽいものばかり食べたり飲んだりして、身体に暑さがこもってクーラーをガンガンかけずにいられない。また身体がだるく疲れがとれない。こんな症状は放っておかないで相談してください。

2006-04-01

 中医症状鑑別診断学は色々な身体の現象をどうみるかという事を学ぶ学問です。例えば味。『口の中が苦く感じる時は肝胆に問題がある。』となっています。1つは邪気が少陽胆経にある時。もう1つは肝胆に鬱熱がある時。となっています。『胆は決断を主る』といいますが、人がくよくよ考えていて決断できないと、弱った胆の気が上に溢れて口が苦くなると黄帝内経という書物にのっていると書いてあります。

 じゃあ、

口が甘い時は?
鹹いときは?
酸っぱいときは?
味がしないときは?

 こういった小さな身体のサインを知る事が出ます。漢方では味は五つに分けられます。酸・苦・甘・辛・鹹の五味です。五味と五臓の関係は酸ー肝・苦ー心・甘ー脾・辛ー肺・鹹ー腎です。ただ口中に苦味を感じるという事に関しては胆汁の苦味から考えても『胆』を考えるようです。『胆主決断』『心主神』から考えると『クヨクヨし考えて決断できない』のは心も胆も虚しているからで、心の味の苦味を感じるのもうなずけます。

 身体のサインはいろいろ。尿・排便・汗・顔色・舌・気持ち・睡眠・・・・・考え過ぎず・無視もせず!

 西洋医学で心が身体に及ぼす影響を考えられるようになったのは最近のことです。長い歴史のある漢方医学では心と身体のつながりをとらえてきました。人間には喜ぶ・怒る・思う・悲しむ・憂う・恐れる・驚くの七種類の感情があり、これを七情といいます。七情は物事に対する情緒反応です。しかし、過度の精神的刺激やそれが長期に及ぶ場合は五臓に影響が及びます。

心は喜を主る
肝は怒を主る
脾は思を主る
肺は悲憂を主る
腎は驚恐を主る

 その過剰はそれぞれの臓を損傷します。逆にその感情の変化によって、内臓の状態を知る事ができます。

 例えば、「ママはこの頃すごく怒りっぽくなっているんだ」という時『肝』に問題があります。生理前はよけい怒りっぽく、乳房の張りを自覚する事も多いです。また、生理血の色が黒ずんだり、血塊が混じったりすることもあると思います。情緒的にいつもとちがってるのも身体のサインのうちです。

 髪は血余といいます。髪が豊かで艶が良いのは気血が充実している為です。血虚タイプの女性は血脈が衰え始める35歳くらいから白髪がまじりはじめる事もあります。また、月経の周期が遅れがちになったり、量がすくなくなってきたりして、早く閉経を迎えることもあります。また精神的ストレスに弱く憂うつやイライラなどがでやすくなります。

 髪が細くなったり、パサパサしてきたり、抜け毛が増えたりは肝が弱ってるサインです。肝を補う事が大事です。快食・快眠・快便は健康のバロメーターといわれます。そのうち便の事を考えてみましょう。便の出方や便の形や臭いに身体のなぞを解く鍵があるんです。

 ドラマ『真犯人は誰だ』
 登場人物 刑事と 犯人

「おまえがご馳走を全部食っちまったという訴えがあったが…」
「とんでもない。あっしは潔白ですよ。腹の具合が悪いのにそんなわけありませんぜ。」
「そうか。そうか。ところでさっきもトイレに行っていたな。」
「どうも腹が渋って、ガスがでる。便も臭いしガスも臭い!卵が腐ったようないやな臭いなんですよ」。
「やっぱり犯人はおまえだ!」
「・・・・・・・・・・」

 そういう臭いがする便は食積によるものです。食べ過ぎ、または脾胃の働きが悪い為におきた消化不良の状態です。便はいろいろ、軟便・コロコロ便・泥のような便・形はあるけど水のなかで崩れる便・ベタベタ便器にくっつき易い便・未消化のものが混じっている便等・・・それぞれ身体のサインです。

 尿は一般的に色が濃く・量が少ないのは熱・透明で量が多いのは寒です。尿の出の悪さ少なさを訴える方も多いですが、腎臓や膀胱だけの問題ではありません。

中医学で考えると肺・脾・腎が尿の出と関っています。

肺は水道を通調するといい、水を膀胱に降ろし、
脾は運化を主るといい、水を肺と腎に送り、
腎は水を主るといい、水の貯留・分布・排泄の調節をしています。

 その何処に問題があるか、身体のサインを良く見なければ漢方選びができません。症状による中医診断がかかれた本は約700ページあって上・下2冊でていますがそれだけではありません。気になるサインが出た時は聞いてみてください。未病のうちに手をうちましょう!

 こういう中医理論のなりたちは紀元前何千年のときをへて、つちかってきたものです。始めに使った人の経験をもとに、次の時代の漢方家が「これは、そうなるな。これは、必ずしもそうはならない」と考え書物にし、また次の時代、また次の時代というように歴史に淘汰され、実際の経験により証明されてきた理論です。わかりにくいけど荒唐無稽なものではありません。

 近年、科学的データーを求める傾向にありますが、故人の知恵をないがしろにして、そのデーターだけを基に漢方薬を運用していったなら必ず多くの副作用が出てきます。科学データーを基につくられた薬を動物実験で確認して人で臨床試験をおこない何%の人に有効だった。という数の理論でいくのは西洋薬の世界です。多くの漢方家の経験により、こういう人に使いましょうとか、こういう人は使っては駄目だとかが書かれた膨大な学問を背景に漢方は運用するべきものだと思っています。私自身はまだまだ力不足ですので科学データーも参考にする事もありますが、それだけで決める事はしません。

 『老中医の診察室』という事実を基につくった小説に出てくる鍾医師はまさに学問の宝庫。しかも必要な時に必要な部分が出てくることに驚きと尊敬の念をいだかずにいられません。この知識によって難病といわれる病気を治していくし、また、治せないもの、治せるものの区別もできる。すべては古書の記述に基づいて判断していきます。興味があったら読んでみてください。

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