『チャングム』というドラマを見ている方も多いと思います。私はテレビは見ていませんが本で読みました。聡明で勤勉なチャングムは幼いころから著名な医師のもとで医術を学び、宮廷にあがって台所を与かる女官をへて、医女になる話です。もちろん昔の話ですから漢方薬です。知識が豊富な上に勤勉ですから手に入れた書物は熟読し中医学でいう弁証施治が的確で素晴らしい。現代にチャングムがいたら誰もがチャングムに見て欲しいと思う事でしょう。
国王が病気になり宮廷医が半年治療したが治らない為、医女チャングムに声がかかった。(当時は男性の医者の方が力があったようで女性の医者は医女といわれたようです。)宮廷医は『食欲不振・汗をかく・気力がない・ときどき空咳・やや頭痛がする』の症状を風邪(ふうじゃ)と判断して九味きょう活湯を処方していた。国王のは回復せず、弱る一方だった。これに対してチャングムは望診・脈診から胃胆焼症と診断して補中益気湯を処方した。
九味きょう活湯は外から風寒湿の邪気が入りこんだ為、身体が重だるくなり、寒気・熱・しめつけられるような頭痛といった症状ていするのを治す方剤です。微熱がつづき、汗が出て軽い寒気があり身体がだるいといった風邪のような症状が身体の弱りからきている事があります。この時は補中益気湯を使います。
チャングムは500年前に実在した女性で、史料からもすぐれた医術を持っていたことが読み取れるそうです。漢方治療は弁証力によって効きがちがいます。またチャングムにでてくる薬膳といわれるものも枸杞の実やどくだみ茶やはと麦などが使われていることが薬膳ではありません。身体の状態にあわせて弁証施膳してこそ薬膳なのです。
現代における漢方治療にも名医がいます。“老中医の診察室”という小説は鐘医師を中心とした医師達が患者の病状をどうとらえるか意見を交換しあいながら弁証していくものです。金壽山医師をモデルに実際のカルテをもとに書かれています。内容は私達中医学を学ぶ者にとっては知識力・弁証力に感激するとともに、とても勉強になるものです。この弁証の力があってこそ、漢方薬は効くのです。
第1話は肺炎の話しです。中医学は熱に対しては冷やし、寒に対しては温めます。重症の肺炎患者を熱証とみていた研修医が温薬ばかりの処方を見ておどろき、鐘医師に尋ねます。
「肺炎の初期には辛涼清肺法を用いるのではないのですか?」
「ほとんどはそうでしょう。でも今回はちがいます。仕事柄寒湿の邪を多分にうけている。熱は高いが顔面の紅潮や目の充血は見られない。悪寒がはっきりある。口渇はあるが熱い湯を少しほしがるだけ。舌は紅くなく、乾いていない。白膩苔で覆われている。頭重感がある。このように寒湿があることがはっきりしている。また、6日目だというのに高熱があって悪寒がし、節々の痛み、無汗これは邪がまだ表にあるということになる。」
「でも、熱証もあります。便秘・尿が赤くて少ない・数脈など。6日もたつので化熱したのではありませんか」
鐘医師は「よい質問ですね。」とほめてから
「便秘は熱によるものではありません。発病前から便秘だったし、老齢期の腸液の不足によるものです。これは腹部に痛みが無い・張ってないなどからみわけられます。また、高熱がでれば脈は速くなるものなので、数脈だから表熱証とはいえません。」
この患者さんは漢方薬を服用し、大量の汗をかいて解熱しました。鐘医師の弁証は的確です。第6話では脊髄炎で足が萎えてしまい歩けなくなった人を漢方薬と鍼と薬膳で治しています。また、おごることなく他の医師達と意見を交換しながら方剤を決定していきます。
この話しは東洋学術出版社からでている『老中医の診察室』という中医学の臨床の基いてかかれた小説の一部をかいつまんで書いたものです。興味のある方は読んで見てください。
Aという植物は
Bという成分があって
Cという効能があるので
Dという病気の人が飲むと良い。
これは近代医学的手法です。薬効に目をむけたやりかたです。
熱がでたら解熱剤を
咳が出てれば咳止めを
痰がきれにくければ去痰剤を
鼻水などのアレルギー症状も伴えば抗ヒスタミン剤を
というような形です。
『Dという漢方薬は糖尿病に効果があるというデーターがでてます』という指標で漢方薬を使うなら、糖尿病の人は全員Dを飲めばいいことになります。最近はそういう使い方がされてる面もあります。果たしてそれでいいのでしょうか?それでいいならチャングムも鍾医師もいらないし、中医学を熱心に学んでいる人達も要らない、漢方書もいらないということになります。人の方に目を向け、故人の膨大なデーターを勉強し、弁証に生かしてこそいい結果がえられるのが漢方だと思います。