尿漏れ・頻尿

パンダ① 尿漏れや尿失禁で悩む人が多いようです。特に女性は産後から症状が出る事もよくみられます。漏れるという事を中医学ではどう考えるのでしょう?一つには腎・膀胱の固摂作用(閉めておく力)の不足と見ることが出来ます。固摂とは5コの気の働きの一つで血や汗や尿などが漏れ出ないようにする事です。膀胱は腎の腑です。腑とは(胆以外)は外に通じている管のようなものですが、臓と関係しています。つまり 腎や膀胱の働きが弱り 漏れないようにしっかり閉めておけなくなっている状態です。腎は陰陽の基ですから腎の陰陽を真陰・真陽とよびます。その陰が不足するという事は、血や津液など尿をつくる材料が不足しているという事なので尿量は少なく、陽が不足する時は量も多くなります。ただ、陽気は腎の気化作用をになっているので 気化作用が失調した時は尿は作られず、その水は身体に溜まって浮腫みとなります。

 このように一口に補腎といっても、陰陽をみる必要があるわけです。広告などを見て『尿漏れには八味丸』と思ってる方もおられるようですが、漢方の見方からすると、八味丸は腎陽虚に対する方剤で方剤学にもそう書かれています。腎陰虚に対しては、六味丸 杞菊地黄丸・麦味地黄丸・知柏地黄丸などを使います。また、腎陽虚でも精や血を大いに補う必要がある時は海馬補腎丸・参馬補腎丸・双料参茸丸などを用います。2つ目としては尿漏れが脾と関係ある場合があります。内臓の下垂による膀胱の圧迫もそれに入ります。

 脾の生理機能のうちに『昇清』という事があります。水分や食物をこなし、精微物質(栄養素)=清を上の方に上げる働きです。この働きにより気血が頭まで届き、内臓は定まった位置にあります。物は下に落ちる(下のほうに行きやすい)のは自然の法則です。この脾の昇清の働きが弱れば内臓は下の方へ落ちる(下垂し易くなります)。そうすると膀胱が圧迫されて頻尿になります。そういう場合は横になる楽という事になります。

 くしゃみや大笑いしたりした時漏れるのは腹圧との関係が大きいので脾の事を考えにいれるべきだと思います。脾は『肌肉を主る』といいますが、脾虚の人は筋力が弱い傾向にあります。骨盤底筋体操をすると伴に、腹筋などの筋力をつけるようにするといいようです。もともとの体質が脾気虚の人もいますが何らかの原因でに脾が弱いくなっている場合もあります。暴飲暴食により脾が傷ついた場合水の中や雨の中などで作業したりする事が多かったり、冷たい飲み物をよく飲む事により『寒湿』が溜まった状態で脾が機能できなくなっている場合です。

 漏れるという事は気の固摂が弱い、つまり閉める力や保持する力が弱ということです。腎気や脾気を補う必要があります。頻尿になるとどうでしょう?漏れる前段階として頻尿がある場合もあります。でも頻尿だから漏れるとは限りません。もちろん もう我慢できないと言う状態になりやすいと言う事はあります。それでも次の駅がくるまで、授業が終わるまでとか必死で我慢するでしょう。我慢するというのはタンクは一杯になっていても蛇口をしっかり閉めておけるという事なのです。

 頻尿も漢方的にはいろいろなパターンがあります。もちろん 頻尿も腎(腎気不固)や脾(中気不足)が関係しています。でもそればかりではありません。若い頃から緊張するとおしっこに行きたくなっちゃって・・・緊張するといきたくなる・・・と言う事は神経が関係しています。膀胱の収縮や弛緩は自律神経によってなされています。漢方的には肝の疏泄機能という事が気の流れの調節をしているので関わりが大きいと考えます。ストレスにより肝の疏泄機能が失調すると弱い臓腑に影響がでます。

 また圧迫による頻尿があります。妊娠中も産み月が近くになると頻尿になった経験をお持ちの方も多いとおもいます。内臓の下垂・子宮筋腫など腫瘤や膀胱瘤などが原因だったり・・・圧迫されれば頻尿になります。また冷えによる頻尿は清長といっておしっこが透明で多いのが特徴です。残尿感や痛みが伴う時は膀胱炎の可能性もあります。尿の色は黄色が濃かったり、褐色だったりします。これは漢方的には膀胱湿熱が多いようです。体質的な弱りによる頻尿というと老化が考えられます。

 老化と関わりの深い臓は腎です。腎は水を主るとか下は二陰に開竅するとかいいます。腎が虚すと夜中に何度もトイレに起きるようになります。眠れなくてトイレに行くのは違います。トイレに行きたくて起こされるわけです。腎陰虚なら尿量は少なく、腎陽虚なら多いようです。

 腎は精を蔵し、生長・発育・生殖を主る・・・ということから脳下垂体の働きと腎の関係の深さがわかります。成長ホルモンは下垂体より分泌されています。また生殖と関わりのある性腺刺激ホルモンやプロラクチンも下垂体ホルモンです。腎は水を主るといいますが尿量の調節をする抗利尿ホルモンも下垂体ホルモンです。以前人の成長と腎気の充実について書きました。

 ですから幼いうちは腎気がまだまだ足りないのでおねしょをする事もあります。つまり腎虚による頻尿はホルモン系の衰えと言う事も関係していると言う事です。もう一つ尿と関係があるのは肺です。漢方的には肺は『粛降を主る』とか『水道を通調する』とか言います。アレルギー性鼻炎の方の中で、浮腫んで尿の出も悪くなったり、頻尿になったりを経験した事はありませんか?
以前 喘息のある方の頻尿が玉屏風散(衛益顆粒)で改善した経験があります。

 このように腎・脾・肺また肝のどこに問題があるかをきちんと考えて方剤を決める事はとても大切です。何らかの病気のせいで頻尿になっていないか?を調べる事は大切です。何かが出来ていて膀胱を圧迫しているかもしれないし、口渇があれば糖尿病で頻尿になっているかもしれません。老化による頻尿や筋力の低下による頻尿は漢方の服用が大いに助けになります。でも、衰えた機能を滋養する事はすぐに出来るものではありません。例えば運動不足で衰えた筋肉が、筋トレして数日で快復と言う事はありません。ある程度、根気よく腎・脾・肺に対する栄養剤だと思って飲んでいく必要があると考えます。そういう補剤を長期に服用すると身体も滋養されて若々しくなると思います。